屋久島と奄美大島の間に位置するトカラ列島は、南北約160kmにおよび、有人島7島と無人島5島で構成されている。行政区は鹿児島県十島村で、総人口は691人(2019年9月末)。
島へのアクセスは村営定期船「フェリーとしま2」のみで、週2便(7~9月は3便)。鹿児島市内から最も近い口之島まで約6時間かかるため、「日本の秘境」と称されることもある。
そんな十島村は近年、人口減少・少子高齢化が叫ばれる社会のなかで「人口を増やしている地域」として注目を浴びている。
※この記事は『ritokei』30号(2019年11月発行号)掲載記事です。
人口500人台を割り込んだ危機感から定住促進をスタート
十島村ではどのような取り組みがなされているのか。
十島村地域振興課の担当者は、「2010年頃に村の人口が500人台まで割り込んだため、人口問題に力を入れるようになりました。施策としては、定住促進のための定住促進生活資金等交付金をはじめ、全島において子育て支援施設や郵便局・ゆうちょ銀行(簡易郵便局含む)を整備するなど、定住しやすい環境づくりを行ってきました。現在は全島に海底光ケーブルを引き、全戸に行き渡るよう順次、工事を進めています」と話す。
村の動きは功を奏し、2010年度から2018年度までの9年間で、転入者326人に対し転出者120人と効果が現れている。
数々の施策のなかでも、注目すべきは出産育児に関する支援の厚さだ。それぞれの島に約50〜150人が暮らす7島の全てに子育て支援施設が整備され、村内に産婦人科・助産院はないため出産は島外となるが、鹿児島市内の提携助産院で出産や産後ケアができ、出生祝い金も支給されるなどのサポートが受けられることで、子どもを伴った移住者の増加につながっている。
大自然があり、島の人々が皆で子どもの面倒を見てくれる環境がある子育て環境に対し、移住者からは「都会では考えられない」「良かった」という声も聞かれるという。
目標は「第二の臥蛇島をつくらないこと」
現在、7島に人々が暮らす十島村には1970年までもう1つ、有人島があった。
中之島(なかのしま)の西側に位置する臥蛇島(がじゃじま)は、人口減少が進み、船の荷下ろし作業もままならなくなったため、1970年に4世帯16人が離島して無人島になった。
その記憶から、十島村では「第二の臥蛇島をつくらないこと」が最重要課題に位置付けられ、数々の手が打たれてきたのだ。
十島村の各島では、今も船の荷下ろしや荷物の配達を、島の住人らが協力しながら行なっている。人口が増えれば人手も増えるため、移住者の増加はそれだけで、島の暮らしを楽にしている。
新たな産業を創造する移住者たちも
さらに、移住者らは島の資源を活用した産業振興にも貢献している。宝島の移住者は売り物にならないバナナで加工品を作り、島バナナの茎でつくる芭蕉布を復活させ、雑貨を作るなど新たな価値を創造している。
もちろん、課題もあり、「住宅の整備が追いついていない島では、定住希望者がいても住居がない状況があります。また、十島村の海域は黒潮の影響を直接受けるため、船の欠航が続き、食料品が1週間以上届かないということもしばしば起こります」と担当者。秘境と呼ばれる島ならではの問題は、常に横たわっている。
十島村の今後について担当者は「最近盛り上がりつつある観光など、テーマに応じて7つの島が連携し、共に発展するサイクルをつくり、来てもらいやすく、働きやすい島にしていきたいです」と語った。(取材・佐藤雄二)



特集記事 目次
特集|島にみる再生復活という希望
台風、噴火、地震、津波、人口減少、人口流出、産業衰退に学校の統廃合etc……。自然の猛威や社会変化により、昨日まであったものが無くなることもあれば、じわじわと姿を消すこともあります。自然災害の多い日本列島では毎年のように台風や豪雨、地震などの被害が起き、地域を支える人口減少にも歯止めはかかりません。 島から無くなろうとしているもの、あるいは無くなってしまったものの中には、人々の生活やつながり、心を支えていたものも含まれます。失ったものが大事であるほど、心に大きな穴があき、寂しさや悲しさ、無力さがその穴を広げてしまいます。 とはいえ、絶望もあれば、希望もある。有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』30号と連動する「島にみる再生復活という希望」特集で、島々で実際に起きている希望に目を向けてみませんか?
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