つくろう、島の未来

2020年10月29日 木曜日

島とは何か? この問いに向き合う人へお届けする日本島嶼学会参与・長嶋俊介先生による寄稿コラム。第5回目のテーマは、島らしい価値のひとつ「アイランド・テラピー」について。

島でこそ可能な防疫と島の未来

島は「癒し」や「治癒の場」になると言われている。平成のはじめに国土庁(現・国土交通省)が厚生省(現・厚生労働省)の健康保養地づくりと連携して、島の快適な自然環境の中で保養・療養を行おうとする構想が模索された時、日本離島センターの仲田成徳は「アイランド・テラピー」という名称を提案した(アイランド・セラピーとも言われるが、セラピーとテラピーは語源と意味を同一にしたものである)。

気仙沼大島(けせんぬまおおしま|宮城県)はアイランド・テラピー構想の起点の一つでもあった。架橋された島になっても半島以上に島風情の魅力は衰えない

言い得て妙である。多自然居住地域の創造(※)から始まる伏線と、多次元に及ぶ応用がある。島外から見た島の認識は、島民による居住環境の充実や見直しにも繋がる。

※1998年に閣議決定された全国総合開発計画「21世紀の国土のグランドデザイン」に示されている4つの戦略の1つ

厚生労働省が推進する「健康日本21(※)」では栄養、運動、休養 のバランスのとれた健康的な生活習慣の確立も目標とされる。若者向けの国民健康づくりや余暇の活用を勧める時代への対応としては、沖縄県や鹿児島県奄美市などで推進される「スポーツアイランド構想」とも結びつく。

※健康増進法に基づき策定された「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」

人生100年時代が叫ばれる現今では、オーガニックアイランドや花粉症避粉地(亜熱帯島嶼)、フレイル(身体力・精神力・人間関係力の衰え)予防、脱都会的くつろぎや、リピート・長期保養・ワーケーション(余暇労働の日常的両立)の地としても、島への期待感が増している。

島はどのような意味で、テラピー(薬や手術などによらない心理療法や物理療法)の「場」でありうるのか。

離島は「隔絶・環海・狭小」の場である。離れることで転地療養や気分転換、異郷感にひたることができる。環海では潮騒・潮水・潮風や渡り鳥の存在が、聖地性を感じさせる。狭小には人との距離の近さがあるが、脱都会的な「里」として、人に加え山・地・海との身近さもある。

テラピーには動態的改善と静態的改善の二方向がある。

喧噪や煩い(わずらい)や病を、より安全・安心・安定の方向に改善する。時間をかけた静養が体調にも影響する。

いにしえから湯治(とうじ)がある。その効果には転地・静養・栄養・気分転換効果も加わる。独国(ドイツ)では、温泉療法は医療保険対象で専門家が治癒に関与する。

動態的には体質改善や前向きな展開(創造や自己啓発)がある。機能の回復(リハビリ)や訓練鍛錬もある。そのような場にも島が関われる。

典型的な例は、海洋療法(タラソテラピー)である。1916年、仏国(フランス)医学会は「海洋性気候のもとで海水・海藻・海泥を用いて行う自然療法」としたが、島では海岸の空気・気候を利用して自然治癒力を増し、健康回復を図ることができる。心身に総合的に作用する治療を目指して、沖縄本島(本部町)や奄美群島(奄美大島・沖永良部島)、志摩(賢島)でも先駆的に取り組んできた。

沖永良部島(おきのえらぶじま|鹿児島県)のタラソテラピー施設には海流プールと静止プールがあり、加えて海水寝床やジム・食堂・宿泊施設もある。大学医学部も効果測定に協力している。「たらそのお茶会」やヘルシーカフェも企画していた

海中温泉や塩釜湯、石室(ゴザや海藻を敷き海水を搔けるサウナ)の例は島に多い。最近では海洋深層水風呂も流行っている。沖永良部島(おきのえらぶじま|鹿児島県)のタラソテラピーでは、巡回海水のプールやジムで体を動かし、地産地消食材で体質改善し、温水で和みくつろぐことができる。島民優先の施設だが、観光・静養客も受け入れている。

海洋深層水に近い島もある。海の恵みは海洋深層水利用で北の昆布すら養殖できる。佐渡島(さどがしま|新潟県)には深層水販売施設もある

島が提供できるものには、親自然・多自然居住の「場の力」もある。素朴な暮らしの場があり、人々が助けあい、支え合って生きている。そのライフ・スタイル(様態)は、悠久の時を超えた人々の営みの根基への想いにも関わる。

都会暮らしにも花鳥風月を愛でる場面は、無くはないが、構えず心しなくても、島のそれとは接する頻度に違いがある。意識界と内なる自然である生体が、5感で受けとめる内容にも違いがある。

島には、修行の場でなくとも、目・耳・鼻・舌・身・意の「六根」への日常とは異なる刺激がある。あえて島に来ることで、私欲や煩悩、迷いに道が開くこともある。

私は1970年代から島歩きを続けているが、都会の「迷える子羊」達としばしば遭遇した。民宿の手伝いと称する若者には生気がなく、「次の祭りまで」と居候が許される。人情味・田舎暮らし・時間の流れ・景色・自然……彼らは自分探しの場を島に求めていた。

図 アイランド・テラピーの全体図

アイランド・テラピーの全体図の三角は隔絶・環海・狭小の離島的特性。横軸は「意識」界と「五感」界。縦軸の「気分転換」や「Well-ness」は静態的な回復(安心・安定・安全)へのベクトル、対比する「自己超越」や「スポ・レク」は動態的で成長動機的なベクトルを示す。

「不安・ストレス・不調」は誰にでもあること。島の環境が、中心でまわるライフ(人生・暮らし・生体)個々に働きかけることで、総合的な健康や人間性根基の復元へのテラピー効果も作用する。そのような場を意識して提供できるとすれば、島にも新しい多様な可能性が生まれる。

ブルーツーリズム・グリーンツーリズムやジオ/エコ/街歩きガイドツアーも工夫次第でアイランド・テラピーの構成要素を加えることができる(写真は佐渡琴浦竜王洞:青の洞窟)

様々な資格と専門性が、そこに道を開く。アロマ・マッサージ・トレーナー・シェフ等のプロが医療・衛生・整体の専門家とチームを組むとき、エコ・ジオ・スポレク・技芸・芸能・生業・修行の達人が、そのチームの補佐として加われるとき、宿にそれを意識した多小の施設や眺めが設えるとき、それらの総合性が「特別な空間」としての島に、真定義のリゾート(仏語 で“re=再” “sortir=出かける”)性をもたらす。

立派な施設はいらない、過剰なサービスもいらない、場の力を享受する手助け・その神髄を知るインタープリター(通訳者)が、傍にいるだけで良い。アイランド・ホスピタリティこそ最善な導きになる。

離島経済新聞 目次

寄稿|長嶋俊介・日本島嶼学会参与

長嶋俊介(ながしま・しゅんすけ) 鹿児島大学名誉教授。佐渡生まれ育ち。島をライフワークに公務員・大学人(生活環境学⇒島の研究センター)・NPO支援(前瀬戸内オリーブ基金理事長)。カリブ海調査中の事故(覆面強盗で銃創)で腰痛となり、リハビリでトライアスリートに。5感を大切に国内全離島・全島嶼国を歩き、南極や北極点でも海に潜った。日本島嶼学会を立ち上げ、退職後は島ライフ再開。島学52年。佐渡市環境審議会会長・日本島嶼学会参与(元会長)。著書に『日本ネシア論』『世界の島大研究』『日本一長い村トカラ』『九州広域列島論』『水半球の小さな大地』『島-日本編』など

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