つくろう、島の未来

2020年09月29日 火曜日

島とは何か? この問いに向き合う人へお届けする日本島嶼学会参与・長嶋俊介先生(佐渡島在住)による寄稿コラム。第4回目のテーマは、島の暮らしに寄り添う「海業と里海と里島」について。

海女が案内する『うに割り体験』(答志島|三重県)

海と関わるなりわい「海業」と里海・里島

「海業」は海と関わる「業(なりわい)」を指す。それを「新しい業態」として提案したのは神奈川県の三浦市で、1985年のその当時、政策提案として「海辺に立地する産業」という文言で広く掲げられた。90 年代以降は、神奈川県が漁村地域産業に限定して海業を地域活性化策として打ち出していく。

海業という言葉は、漁業の「6次産業化」ともイメージが重なり、美しい響きでもあるが、離島に限定して使う場合には、幾つか留意する必要がある。海の適正利用と調整が複雑に絡むからだ。

<離島地域で海業を行う場合の留意点>

①のどかで豊かな島暮らしの利点を保持すること
②自然保護・里海ルールを遵守すること
③島内の沿岸・海面と里地・里山循環の連携を前提とすること
④島内では短期経済(目先の産業論理)よりも文化・自然・持続可能性を優先すること
⑤島内者主導で島外者との関係を構築すること
⑥島外者が海を利用する場合は島内ルールを遵守すること
⑦島外業者とのWin-Winは経済合理性に優れ、かつ短期決済(だが長期安定的関係の構築も重要)であること
⑧単純な「6次」産業化に惑わされない島全体の総合力を構築すること

島で海業を行おうとする時、島の総合性を忘れた金銭経済優先の罠にはまってしまうと、無理と歪みを生みかねない。補助金・NPO・制度的支援など外部の資金や資源、情報を入れながら、地域内の環境条件を整えていくことで、中長期的な安定軌道への助走が踏み出せる。その先で、全国的展開が実体を伴って進む。

神奈川県・城ヶ島(じょうがしま)、愛知県・日間賀島(ひまかじま)、高知県・柏島(かしわじま)、沖縄県・座間味村、渡嘉敷村、恩納村、宮古島(みやこじま)も含む全国漁村実査に基づき体系的に整理した本が、婁 小波(ろう・しょうは)による『海業の時代 − 漁村活性化に向けた地域の挑戦(シリーズ地域の再生 19)』(農山漁村文化協会/2013年)である。

同書は「地域資源の価値創造(=海業)」が、「地域資源管理」「中間支援組織」「コミュニティビジネス」「地域市場の創出」「域内利益循環システム」という5つの視点で、漁村地域全体を活性化させる仕組みとして機能することを重要と解く。つまり海業を成功させるには、単なる漁業の6次産業化の枠を越えて、漁村(小さな島では島全体)の総合的な活性化に向けた展開を先に描き、その結果として漁業・水産業にも相乗効果をもたらすとする。主客逆転の戒めでもある。

次に、海業を行う時に優先したい「里海ルール」について考えたいが、その前に「入浜権(※1)」の問題がある。

誰でも立ち入ることのできる(=オープンアクセス)浜辺などの共有地(コモンズ)は、「必然的に荒廃する」という経済理論を1968年にガーネット・ハーディンが発表。2009年にノーベル経済学賞を受賞したエリノア・オストロムも「コモンズ(共有地)の悲劇」(※2)をテーマに論じた。

(※1)海浜や海岸に自由に立ち入り、魚介類の採取や海水浴など自然の恩恵を享受できる権利。1973年、兵庫県高砂市の公害を告発する住民運動から生まれた理念

(※2)多数者が利用できる共有資源が乱獲されることによって資源の枯渇を招くという経済学における法則

1979年に石垣島(いしがきじま)で発表された、空港建設のために白保(しらほ)海岸を埋め立てる計画に対し、巻き起こった反対運動は、「豊かな海」の価値を巡る闘いであった。多くのサンゴ研究者達が実情調査を行い、金銭価値では僅少でも、恵みを享受する日常は、持続可能性そのものとして、その永遠の価値を評価した。

失ってはならない物がそこにある。当時の熱い想いは、多辺田政弘著『コモンズの経済学』(学陽書房/1990年)等に詳しい。反対運動の結果、飛行場は陸上にでき、海と「適正利用」の入浜権と住民の日常は護られた。

人の手が加わることで多様性が保持される「里海(※3)」であっても、フリーライダー(資源のただ使い)は禁止である。

(※3)人手が加わることにより生物生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域

2015年に世界最大級のMPA(Marine Protected Area:海洋保護区)を設置したパラオ共和国では、2006年に「生物多様性の保全・持続的な自然資源の利用」を目的とする国際公約「ミクロネシア・イニシアティブ」も結ばれ、太平洋一帯島諸国との共通理念になっている。地域を指定して資源を大切にし、その自然・社会・経済を守ることこそ持続可能であり、観光立国パラオの長期戦略にもなる。

同国の調査にも臨んだ鹿熊信一郎氏と、柳哲雄氏・佐藤哲氏と共編した『里海学のすすめ − 人と海との新たな関わり』(勉誠出版/2018年)では、沖縄の恩納村に石垣島の白保地区、高知県の柏島(かしわじま)や、岡山県の日生諸島(ひなせしょとう)など、また海外ではインドネシア、フィジー、フロリダ等の多彩な里海事例が示されている。

「里地」「里山」「里海」とは、人が積極的に関わることで身近な里や浜の農地・山・海を豊かにする。種の多様性は人が関わることで、むしろさらに豊かに保持される。日本・アジア的な自然と向き合う理念・実践・積み上げだが、国連大学(東京・渋谷区)も主導し、世界に広がり始めている。

人と海とのつながりを深め、里海を創りだすための途筋は、島の未来設計の柱にもなる。

「里島(りとう)」という用語は、愛媛県松山市の離島振興用語である。松山市は忽那諸島(くつなしょとう)を形成する、旧・温泉郡中島町との平成大合併に際し、離島振興を市政に盛り込むことを約束をし、2010年には島を舞台とする「松山島博覧会(しまはく)」も実施した。

里とは人の関わる暮らし・生業の場である。里島=里山・里地・里海の連続空間。島が小さい程、海岸線が長い程、海の影響が直接的となり、その連続性が如実に観察できる場となる。それが島旅の魅力でもある。近年は、そのなにげない日常も、島の資源として見直されてきた。

近年、沖縄県の石垣島・伊良部島(いらぶじま)、三重県の答志島(とうしじま)で実施されている、漁師体験・海女料理・漁村街路案内等は、漁村民主導の優れた事例である。また、島根県の海士町(中ノ島・なかのしま)のような、先端技術の活用・研究や、Iターンを交えての商品・市場開発への取り組みなどの先進的事例もある。さらに畜産の分野では、潮風を浴びる最高品質の牛として「隠岐牛」を売り出すなど、イメージ戦略を積極的に取り入れている。

諸チャレンジの優先順位が遵守される限り、海業の未来は明るい。

図は里海遵守の海業モデルを参考のために書いた。自由な発想で、おカネの経済と、おカネ以外の豊かさを両立させる新「地域内海業」循環を目指してほしいものである。

[図] 里海(里島)を核にした海業の発想

離島経済新聞 目次

寄稿|長嶋俊介・日本島嶼学会参与

長嶋俊介(ながしま・しゅんすけ) 鹿児島大学名誉教授。佐渡生まれ育ち。島をライフワークに公務員・大学人(生活環境学⇒島の研究センター)・NPO支援(前瀬戸内オリーブ基金理事長)。カリブ海調査中の事故(覆面強盗で銃創)で腰痛となり、リハビリでトライアスリートに。5感を大切に国内全離島・全島嶼国を歩き、南極や北極点でも海に潜った。日本島嶼学会を立ち上げ、退職後は島ライフ再開。島学52年。佐渡市環境審議会会長・日本島嶼学会参与(元会長)。著書に『日本ネシア論』『世界の島大研究』『日本一長い村トカラ』『九州広域列島論』『水半球の小さな大地』『島-日本編』など

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