つくろう、島の未来

2024年11月23日 土曜日

つくろう、島の未来

400島あれば400通りの個性がある島と文化。島で暮らす文化人が、リトケイ読者に紹介したい島文化とは?七つの島に人々が暮らす愛媛県上島町の佐島(さしま)で古民家ゲストハウスを営む、西村暢子さんに聞きました。

佐島・横峯山頂の素朴な表情をした石仏

※この記事は『季刊ritokei』43号(2023年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

「しまなみ海道の島々に息づく巨石信仰の面影」

海の魅力あふれるしまなみ海道エリア。しかしその魅力は海だけにあらず、島々に息づく巨石信仰の名残にも、深い魅力があると感じています。

向島には岩屋山巨石群(いわややまきょせきぐん)、因島には重岩石鎚大権現(かさねいわいしづちだいごんげん)、伯方島・宝股山(ほこさん)には石神遺跡があり、いずれも見事な巨石群です。

ゆめしま海道に入ると、岩城島・積善山(せきぜんさん)と生名島・立石山のふもとに立て石があります。石そのものがご神体と言われ、高さ5メートル近くある巨大なもの。この地域にはない石で、伝説の巨人「でいだらぼっち」がお手玉をして落としたという伝承も。見事な磐座がある山頂の祭祀遺跡からは石器や土器が多数出土し、弥生時代後期の倭国大乱の時期には軍事的防塞も兼ねていたとされます。

佐島は最高標高わずか120メートルのなだらかな島ですが、ミニ石鎚山の山頂に立派な磐座があり、石鎚蔵王大権現(いしづちざおうだいごんげん)・石鎚大神もおわします。石鎚講も盛んでした。ここには室町時代に村上水軍の狼煙台があったそうで、汐見家の先祖は、文字通り水軍の見張り番だったのかなと想像がふくらみます。

隣の横峯山(よこみねやま)では、奈良県飛鳥地方の猿石を思わせる素朴な表情の石仏に、思わずほっこり。瀬戸内海は小さな島でも、いくえにも重なる歴史があり、魅力が尽きません。いつか、しまなみ巨石信仰巡りを企画してみたいものです。

もう一つ、丸石信仰の面影にも触れたいと思います。丸石信仰とは、文字通り球形をした石をご神体として祀るもので、縄文時代までさかのぼるとも言われています。10年近く前のことですが、上島町内の民家の庭にある小さな石のほこらに、直径10センチメートルほどの丸石を見つけました。

住人にいわれを聞いたところ、「浜辺で見つけたの」とおっしゃるのです。その方は石に何かを感じ、誰に言うともなくお祀りしているのでしょうか。太古から続く、敬虔な祈りの心が現代に息づいているのを目の当たりにして、えも言われぬ感動を覚えました。

佐島の南端には、直径15メートル程の丸岩があります。燧灘(ひうちなだ)を見晴らす絶景スポットで、船の方からは、良き海の道標だったことでしょう。丸岩のてっぺんには島四国の第三十九番札所、別名「丸岩大師」のお堂があります。いわれを知りたいと思いつつ、まだ語り部を探し当てられずにいます。

丸岩への人の往来も少なくなりましたが、いつか旧暦3月21日にこのお堂で、引き潮の浜のおだいっさん道を歩いてやって来る善男善女をお接待することを妄想しています。


西村暢子(にしむら・のぶこ)さん
東京住み会社員。空き家問題から祖父の生家を古民家ゲストハウス汐見の家として開業。管理運営は移住者のみえさんとけいこさんに丸っとお任せの、名ばかりオーナー。

     

関連する記事

ritokei特集