つくろう、島の未来

2022年10月01日 土曜日

つくろう、島の未来

住民の少ない集落(シマ)や小さな島の暮らしが健やかに続くには、地域の支えとなるつながりが重要。であれば、縁故者をはじめ行政や各サポート団体に、近年注目される関係人口(※)といった人々と、島との関係はどのようにあると良いのでしょうか?「信頼人口」をキーワードに島内外の人とつながる山口県下関市の六連島(むつれじま)をリトケイ編集長が訪れ、ヒントを探しました。今回は前編から続き、後編をお届けします。(取材・鯨本あつこ)

※移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない地域と多様に関わる人々を指す言葉(総務省ホームページより)

※ページ下の「特集記事 目次」より関連記事をご覧いただけます。ぜひ併せてお読みください。

※この記事は『季刊ritokei』38号(2022年5月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

>>前回:「「信頼人口」の六連島で探す心豊かなシマづくりのヒント(前編)【特集|つよく やさしく たのしい 地域共同体に学ぶ 島のシマ】 」はこちら

住民・ファン・行政の中心にある「信頼」という軸

宮城さんが島に出会うきっかけとなったビーチクリーンも、その頃に行われた活動のひとつ。宿や飲食店がなくとも、豊かな土と人情がある島に出かけるワクワク感を共有するうちに、さらにファンは増加。

ビーチクリーンや農作業、お祭りの神輿担ぎまで、島のあらゆるイベントに島外のファンが参加するようになり、この避難所兼集会所(実は宮城さんの住まいでもある)のリノベーションも実現したという。雨漏り修理をきっかけに、最終的には「北欧風」にリノベーションしてしまったというにぎやかな流れは、『MUTSURE.JP』にもしっかり記録されている。

上:リノベーション風景/下:ファンや有志の手により北欧風にリノベーションされた住民の避難所兼集会所

この日、この場に集ったのは、島の住民、島のファン、行政担当者という3者だが、印象的だったのは皆が「信頼を大事にしたい」と口を揃えることだった。本業は美容師という岡崎さんは、「関係人口という定義は入り口としてはありだけど、島ではもっと上位を目指すべきではないかと思ったんです」と言う。

美容室でイメージすれば、関係人口の創出は「新規顧客に向けた割引広告キャンペーン」とも聞こえるが、大事なのはやはり既存の顧客との信頼だと岡崎さんは考える「。信頼ができればできるほどリピートする」状態が理想なのだ。

地域おこし協力隊として活動する宮城さんのミッションにも「信頼人口を創出」という言葉が掲げられている。つまり、この界隈で起きているものごとには「信頼」が根を張っているのだ。ちなみに、『MUTSURE.JP』経由で活動に参加するための問い合わせ窓口は、市が担当になっている。

その心は?と担当者を尋ねると「民間の方が真剣に島を愛している気持ちに応え、行政としては、法律的なことや公的支援はもちろんですが、行政から民間にお願いするのではなく、民間がやりたいことをサポートし、交わらせていただく立場でいたいと考えています」とのこと。主人公は島に住む人。島をとりまく人々の熱や想いをサポートするという行政の立場を明確にしていた。

2021年の例大祭で神輿をかつぐ宮城さん。コロナ禍で帰島できる縁故者が減るなか、六連島ファンが15名以上集まりにぎやかな祭りとなった

とはいえ市の担当者陣もひとりの人間であり、笑顔たっぷりに「離島はわくわくしますよね」と語る眼差しからは、島への愛が感じられる(その笑顔は神輿を担ぎ、玉ねぎを収穫する『MUTSURE.JP』の記事でも見ることができる)。

互いに教え、教わり 共に汗を流す時間が築くもの

六連島のように行政区域の「一部」にある島は、離島振興用語で「一部離島」と呼ばれている。リトケイを通じて感じるのは、たとえ島を有する市町村に暮らしていても、本土側に暮らす人は、地縁やきっかけがない限り島を知るきっかけが少ないこと。それにより「どうして島を振興しなければならないのか?」と考える人も存在することだ。

島に限らず人口わずかな地域が健やかにあり続けるには、地域外の人とのつながりが欠かせない。しかし、誰とどれだけのつながりを持てばいいのか?という点に明確な答えはない。つながる相手の数は、受け入れ側の都合で変わるし、縁故者を重視する地域もあれば、都市部との交流を重視する地域もある。正解はひとつではない世界だからこそ、地域側がどういった人とつながりたいのか?というイメージを描くことが重要だと考えられる。

この点について岡崎さんは「市内の人間に愛されない場所が、市外の人に愛されるわけがないですよね」と言う。近場の人との信頼関係を築くことは、足元を固めることでもある。一部離島の場合それは、離島振興の観点でもプラスに働くだろう。

しかしながら、いくらファンが増えたとしても、ただ訪れるだけでは信頼関係まで築けないはず。六連島の活動を見るとここ数年のうちにある程度の信頼関係が築かれているように見えるが、どうやって信頼を築いているのか?一同に尋ねると「畑かな?」という答えが返ってきた。

なんでも、岡崎さんが島に出会った頃、「俺の玉ねぎはうまい」と教えてくれた長老との縁をきっかけに、畑を借り、玉ねぎをつくるプロジェクトが始まったという(詳しくは『MUTSURE.JP』の連載をご覧ください)。

そして玉ねぎづくりに集まったファンが、慣れない手つきで畑をつつく姿に「みちょられん!」と島のお母さんが指南役として合流。互いに教え、教わり、草をむしり、成長を楽しみながら汗を流し、時においしいごはんを囲む畑での時間が、島の人々とファンとの信頼をつないできたのだろうと一同が推測。

この潮流をふまえて六連島は未来をどう描いているのか?という問いに、一同から「信頼人口の状態で島が続いていくのが一番です」という展望をもらい、取材は終了した。

玉ねぎ畑での風景。本土側のカフェスタッフやダンス教室の子どもたちなど多様な人が参加している

大きすぎず、小さすぎない信頼人口の輪を広げる

関門海峡を見渡す庭から工業地帯を見渡す時間を楽しんだあと、ふたたび港に向かう道すがら、隣にいた岡崎さんが「信頼人口が島を離れて暮らす人が帰ってくるきっかけになったら」とつぶやいた。近年の動きをきっかけに、島にゆかりのある方から「島に関わりたい」と連絡をもらったことがうれしかったという。

帰りの船に乗ると、今度は収穫された花々が入れられたバケツと、カゴいっぱいの玉ねぎが荷室に置かれていた。本土側の港にはMUTSURE.JPが「つくりたい!」と意気込み実現した島グルメ「六連バーガー」を提供する飲食店の店主が、玉ねぎの受け取りにやって来ていた。

市内の飲食店・居酒屋BARスペシャルで提供されている「六連バーガー」(提供は玉ねぎの時期のみ)

六連島の玉ねぎは、島に集う有志が「六連オニオン」と命名。彼らの口コミから評判が広がり、こだわりの八百屋などでの扱いも広がっているそうだ。もともと自家栽培の範囲でつくられていただけに、人気が出れば「産業化できるんじゃない?」という声も聞こえてきそうだが、島の有志たちは「あくまで信頼が続く範囲で」と慎重。

大きすぎず、小さすぎない信頼の輪が着実につながり、続いていくことが、小さな島を健やかに保つ秘訣かもしれない。お土産にいただいた玉ねぎの重さと共に、胸に響いた。

「六連オニオン」と呼ばれる六連島産の玉ねぎは、糖度13度になるものもあるという

【関連サイト】
MUTSURE.JP

特集記事 目次

特集|つよく やさしく たのしい 地域共同体に学ぶ 島のシマ

今回の特集は「島のシマ」。 シマ・集落・村落・字・区など、多様な呼び名がある地域共同体(特集内ではシマ・集落・コミュニティなどとも表現します)には、地域の歴史やそこで生きる人々の個性が織り込まれた独自の文化や暮らしが存在しています。

ここでは、暮らしや文化、社会福祉、子育て、教育、防災、産業振興など幅広いテーマで、つよく・やさしく・たのしいシマをつくる人々の動きや、心豊かなシマを保つためのヒントなどをご紹介。

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