つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

「島のシマ」特集では、小さくてもつよく、やさしく、たのしい地域共同体(シマ)の動きを探るべく、今回は『季刊ritokei』の公式設置ポイントであり、与那国島の比川集落で共同売店を運営する山口京子さんと植埜貴子さんにお話を伺いました。(制作・ritokei編集部)
※ページ下の「特集記事 目次」より関連記事をご覧いただけます。ぜひ併せてお読みください。

※この記事は『季刊ritokei』38号(2022年5月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

>>前回:「島に暮らす読者に聞きましたシマを想う島の声【特集|つよく やさしく たのしい 地域共同体に学ぶ 島のシマ】」はこちら

人口約100人の集落に誕生した小さな共同売店

日本最西端の島・与那国島(よなぐにじま|沖縄県)の南端に比川(ひがわ)自治公民館地域共同売店(以下、共同売店)はあります。

祖納(そない)・久部良(くぶら)・比川という3集落に分かれる与那国島のなかで、比川は「かつては冗談のように『300年遅れている』といわれていた」場所。けれど、そう語る山口さんと植埜さんにとっては「一番住みやすい場所」です。

左:売店横にはかわいいヤギたち/右:比川集落にはドラマ「Dr.コトー診療所」のロケ地もあります

人口は約50世帯100人ほど。与那国島全体は約1,500人ですから確かに小さいものの、小さな小学校があり、ヨナグニウマの牧場があり、「生活音がしない」というのどかさが自慢です。そんな比川に共同売店が誕生したのは2011年。100年を超える共同売店史の中では“かなり若い”商店。誕生した背景には、地域の困りごとがありました。

今から約20年前に集落唯一の個人商店が閉店して以降、商店のない集落となった比川。「おばあたちに『祖納に行くなら○○買ってきて〜』と頼まれていました」と山口さん。そんな時代が数年ほど続いたある日、比川で立ち上がった地域づくり協議会のワークショップで、集落住民から「売店が欲しい」という声が挙がったことが売店の誕生につながりました。

「当時、協議会にいた役場職員の方が積極的に関わってくれ、役場が建物をつくり住民が運営するという運営形態になりました。共同売店としては特殊な例と言われています」。いうなれば官民連携の共同売店。しかし、「誰一人取り残さない」世界を目指して「パートナーシップ」を推奨するSDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれる現代では、今っぽさも感じます。

比川共同売店の出資者には、比川住民だけでなく、隣集落の住民や島出身で島外に住む人も加わっているため、「住民の共同出資」が主流だった共同売店業界においては、こちらも異例かもしれません(ただし、運営に対する議決権は比川住民である出資者のみとのこと)。

まるで手作りのコンビニ みんなで作るみんなの売店

そんな共同売店はどのように運営しているのでしょう?まずは開店時間を尋ねると「前は7時から22時というときもあって……。今考えると欲張っていましたね」と山口さん。100人規模の集落で15時間営業というパワーにおどろきますが、今も8時から20時まで元気に営業中。「短くした方がいいかもしれないけど、いつも遅い時間に来る人もいるからね〜」というお二人。住民の利用時間に合わせたやさしい設定なのです。

「いろんな人に手伝ってもらいたい」という方針のもと、集落住民を中心に6人が店舗スタッフとして在籍し、出資者から選出される5人の運営委員とともに運営を担います。与那国島の海の青さに負けない真っ青な外観が目をひく売店の中には、所狭しと商品が並びます。牛乳やたまご、お肉、野菜にトイレットペーパーなど、生活に欠かせない商品はもちろん、珍しい多国籍食材まで。

左:島の海にも青空にも負けない真っ青な外観。今日も元気に営業中!/右:スタッフがおすすめしたいものを販売。世界各国の調味料も揃います

そこには「ネットで買っているような食材でもみんなが使っていておすすめできるものを置こう!」という理由があり、山口さんと植埜さんは「まだできていないけど『○○さんのおすすめ!』みたいな企画もしたいね〜」と盛り上がります。他にも、赤ちゃんのミルクやおもちゃ(しかも数が多い!)、衣服にオリジナルグッズまで、集落住民やシマを訪れる観光客のかゆいところに手の届く商品が揃います(ちなみに売れ筋は「ギョサン」や賞味期限の長い「ロングライフパン」とのこと)。

もちろん共同売店ですから商品を買うだけにあらず。店内には血圧計が設置され、Wi-Fiも使えるパソコンコーナー(1時間以内なら休憩自由。ただし昼寝はNG)もあり、かつては郵便の受付も行っていたといいます。

ここでも二人は「郵便はまたやりたいよね。土日でも郵便出せたし」「クリーニングの取次もやりたかったんだよね〜」「お惣菜もつくりたかったけど倉庫になっちゃった」と楽しそう。夢は広がり「最終的にはATMが欲しいよね」とくれば、大手コンビニチェーンにも負けないハンドメイドコンビニ、いや、シマメイドコンビニです。

その場に集まる人の心とアイデアが未来を広げる

とはいえ、どんな夢も共同売店は経済合理性のためにあらず。集落(シマ)で暮らす人が「賛成してくれること」が基本で、二人は常に集落住民の顔を思い浮かべながら「何があったらいいかな〜」と想像しています。比川には図書館がないため、共同売店内には本を借りることができる「ひない文庫」があります。

左:売店の近くには与那国馬が草を食むのどかな牧場も/右:共同売店グッズも多様。キャッチコピーは「みんなで作るみんなの売店」

祖納の嶋仲公民館に移転することが決まっていますが、お母さんが子どもたちに読み聞かせるための絵本が並ぶなど、集落で暮らす人に利用されてきました。しかし時代の変化か、「最近は図書を置いていても本を読む小学生が少なくなっているように感じるよね」と山口さん。

売店を通じて集落住民や子どもたちの変化を見つめる二人は、「中学生くらいの子どもたちって何を求めているんでしょうね?」「高校になると島を出ちゃうから中学の3年間を売店でも楽しんでもらえるといいな」「本を読まないとすればインターネット?」「インターネットより漫画がいいかな?学びにもなる漫画をそろえるとか」「いいね〜」……とさらに盛り上がり、リトケイに対しても「何かいいアイデアがあったら教えてくださーい!」とリクエスト。シマの住民によるシマの住民のためのシマの共同売店という存在に、さらなる魅力と新たな可能性を感じました。

※比川共同売店の日常はinstagramでも公開されています。
https://instagram.com/higawabaiten?igshid=YmMyMTA2M2Y=


【お話を伺った人】

山口京子(やまぐち・きょうこ)さん
1981年に与那国島に移住。東京出身。陶工として夫と共に「山口陶工房」を営むかたわら、2011年より比川地域共同売店の運営にも携わっています

植埜貴子(うえの・たかこ)さん
大阪出身。2014年に与那国島へ移住し、一時は島を離れたものの山口さんの誘いで2021年に再び島へ。現在は中井真理さんとともに比川地域共同売店の運営委員長として活躍

【共同売店とは?】
全国の共同売店を追いかける情報コミュニティサイト『共同売店ファンクラブ』によれば「共同売店とは、明治末期の沖縄で誕生し、共同購入を中心にさまざまな事業を行ってきた独特の相互扶助組織」。シマ(集落・字・区など)で暮らす人の共同出資で立ち上げ、共同で運営するお店です。

1906年に沖縄本島北部の奥(おく)集落で誕生したことをきっかけに、沖縄県内全域に拡大。1972年の沖縄県日本復帰以降、経済発展の中で数を減らしながらも、沖縄本島北部や沖縄・奄美・九州の島々で現役の共同売店が運営を続けています。

それぞれの運営形態や活動には個性がありますが、いずれも単なる商店ではありません。共同売店は、地域に住む人々の「助け合いの心」が集まる空間であり、かつては医療費の貸付や奨学金の給付・貸与なども行われていたことから、研究者からは「コミュニティ総合企業体」とも称されています。

※詳しくは『共同売店ファンクラブ』ホームページをご覧ください。沖縄・奄美・九州エリアの共同売店を紹介しています。
https://kyodobaiten.org/

>>次回:「「信頼人口」の六連島で探す心豊かなシマづくりのヒント(前編)【特集|つよく やさしく たのしい 地域共同体に学ぶ 島のシマ】」に続く

特集記事 目次

特集|つよく やさしく たのしい 地域共同体に学ぶ 島のシマ

今回の特集は「島のシマ」。 シマ・集落・村落・字・区など、多様な呼び名がある地域共同体(特集内ではシマ・集落・コミュニティなどとも表現します)には、地域の歴史やそこで生きる人々の個性が織り込まれた独自の文化や暮らしが存在しています。

ここでは、暮らしや文化、社会福祉、子育て、教育、防災、産業振興など幅広いテーマで、つよく・やさしく・たのしいシマをつくる人々の動きや、心豊かなシマを保つためのヒントなどをご紹介。

あなたのシマを思い浮かべながら、リトケイと一緒に日本の島をのぞいてみませんか?

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