つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

今この瞬間に、心や身体に感じる違和感がなければ例え自分自身の問題であっても、どこか遠い話に聞こえてしまう。けれど、ひとたび痛みや不快が生じると、とたんに不安が湧き上がり右往左往として助けを求める。命や健康とはおおむねそんな問題ではないでしょうか。

しかし時はやってきます。人は誰もが等しく「死ぬ」からです。都心から南に1,000キロメートル以上、絶海の孤島で暮らす島人がある瞬間にそう感じたように(9月11日公開記事「絶海の孤島で、死を思う(母島・宮城ジャイアン)【特集|島で守る命と健康】」)自分の命や健康を強く意識する瞬間が訪れます。そんな命と健康にどう向き合うと良いか一緒に考えてみましょう。

※この記事は『季刊ritokei』43号(2023年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

多様な医療がそろわない島で人々の命と健康をどう守る?

1億2,000万人が暮らす島国・日本には国民皆保険制度があり、数割の自己負担で受けることのできる多様な医療メニューが揃っています。命や健康に不安がある時に頼りたいのが医療機関ですが、“そろっている”地域には隔たりがあり、多くは人口密度の高い地域。有人離島地域にはそろうどころか、病院がゼロという島も少なくありません。

日本列島は広大で、住環境は多様。国民皆保険制度があっても人口わずかな島を含めて、全国一律の医療を提供することは現実的に不可能でしょう。また、今後ますます進行する超高齢化・少子化・人口減社会を前に、公助としての医療制度にどこまで身を委ねられるかも疑問です。

そんな島国で、自分や大切な人の命と健康にどう向き合い、どう守っていくのがよいか。今回の特集で具体的なヒントを探していきましょう。

健康は「状態」ではなく「能力」 ポジティヴヘルスで知る健康感

自分にとって健康とは何でしょうか?痛いところがない状態?はたまた、病気と診断されていない状態?実は、どのような状態が健康かは医師法でも定められてはいません。

健康問題に向き合うにも、肝心の「健康」が曖昧ではどう考えてよいか分かりません。世界保健機関は「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」と定義していますが、すると「完全に良好な状態」とはどんな状態なのか……。疑問が残ります。

そこでリトケイは、島で守る命と健康を考えるために、オランダの家庭医で研究者のマフトルド・ヒューバー氏が提唱する「ポジティヴヘルス(Positive Health)」を提案します。

Institute for Positive Health(iPH)のホームページで閲覧・ダウンロードできる「くもの巣ツール」。
成人用、小児用、思春期用があり、オランダでは国を挙げてポジティヴヘルスを取り入れ、医療・予防・福祉など地域包括ケアの現場で活用しています。

ポジティヴヘルスが考える健康は、「状態」ではなく「能力」。健康とは「社会的、身体的、感情的な問題に直面した時に適応し、本人主導で管理する能力」であり、「疾患や障害があっても、周囲の力などを支えにして、気落ちすることなく人生を前向きに歩いていく力こそが健康」と定義されます。

「完全に良好な状態」を維持するよりも、「問題に適応する能力」を高める方が、具体的に考えやすくはないでしょうか?

そんなポジティヴヘルスは、「身体の状態」「心の状態」「生きがい」「暮らしの質」「社会とのつながり」「日常の機能」という6要素で構成される「くもの巣ツール」を使って知ることができます。

自身の健康感をみつめ「欠けていること」や「本当に必要なこと」が可視化できれば、自身の命と健康とも向き合いやすくなるはずです。


【参考】長谷川フジ子氏
病気があっても健康に!オランダ発『ポジティヴヘルス』『正常に戻す』から『適応する能力を支援』へ」:The Journal of JAHMC 2020 January vol.31 No.1

ポジティヴヘルスについてもっと知りたい方は、シャボットあかね氏(オランダ在住、通訳、執筆家)の著書『オランダ発ポジティヴヘルス 地域包括ケアの未来を拓く』『暮らしに広がるポジティヴヘルス』※近日発売(いずれも日本評論社)や、松本記念財団HPをご参考ください。

特集記事 目次

特集|島で守る命と健康

命と健康について考えることはありますか?
400島あれば400通りの個性がある日本の島々で健やかに生き、幸せに命をまっとうするためには、自分や大切な人たちの命と健康とどのように向き合い、守ればよいか。
リトケイの命と健康の特集では、誰にとっても大切なテーマを島の皆さんや読者の皆さん、有識者の皆さんと一緒に考えていきます。

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