つくろう、島の未来

2024年05月19日 日曜日

つくろう、島の未来

人気漫画『Dr.コトー診療所』で描かれるコトー先生のモデルとなった瀬戸上健二郎先生や、合同会社ゲネプロを立ち上げた齋藤学先生が歴代の所長を務め、地域医療を支えてきた下甑島(しもこしきしま|鹿児島県)の手打診療所では、2023年4月より室原誉伶先生が新所長に就任。”医療以外”のプロジェクトをニコニコ顔で「やってみました!」と語る令和のDr.コトーほまれ先生に、リトケイ編集長が話を聞きました。

※この記事は『季刊ritokei』43号(2023年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

少し前に、お医者さんを1年間休んで島の御用聞きをされていましたが、その時間を経て手打(てうち)診療所の所長になられた今の感覚は?

そうですね……。すっきり答えられたらよいのですが、御用聞きをやっている時と、医者をやっている時の立ち振る舞いが無意識にも全然違っていたんです。

そんな別々の頭をどうくっつけるのが良いかは、正直まだまだ訓練中です。

奥さんと行っている御用聞き事業では、「一回でいいから完成した甑大橋を見に行きたい!」と言われた利用者さんを介助して橋の見学へ

医者としては住民の心身を診て、御用聞きでは地域をみるとすれば、いずれも奥深い話ですよね。

はい。それでなおさら一人じゃ無理だなと思いました。

島の命と健康を守るという点で?

はい。やっぱり色々な役割の人がいるのが良くて、うちの診療所でいえば、僕(医者)と看護師、ケアマネ、ヘルパー、訪問看護などの役割を担う人がいるんですが、例えば認知症を患っている方のことは、一緒に御用聞きをやっている僕の嫁さんが御用聞きついでにエアコンがついているかをみてくれたり、薬局の人が薬を届けるついでに本人のことをみてくれたりしているので、医者ひとりでは無理なんです。

集落の空き家を購入。クラウドファンディングで資金を募り、 医療従事者が利用できる住宅に改修した

ほまれ先生のSNSでは「その人が望むような人生を生きるサポートをする」という信念も語られていました。

人生をサポートするとなると、病院で診察だけを行っているよりも、御用聞きをしながら地域社会全体をみつめた経験が生かされそうですね。

そう思います。それと、医者として総合診療に興味を持つことはできても、保健・医療・福祉の連携の中で行う地域医療に興味が持てるかは別の話で、自分が好きな地域がみつかって初めて地域医療に興味が出るんじゃないかと思ったんです。地域医療に根ざしている先生は全国にたくさんいますが、みんなそうじゃないかと。

僕の場合はそれが甑島で、地域というのはこういうものなんだ!と初めてちゃんと理解できて、甑島の人たちがどういう風に生きてこられたのかに興味が湧き、3年前には写真展を開催したんです。

クラウドファンディングで資金を募り写真展を開催。2日間で約300名が古き良き島の風景を懐かしんだ

なるほど。写真展の他にも空き家改修や米づくりなど、いろんなことをされていますよね。SNSを拝見すると「やってみよう!」の言葉からの実行スピードがめちゃくちゃ早くて。

西ノ島(にしのしま|島根県)の隠岐島前病院に勤められていた頃の投稿にあった「おばあちゃん、ハグしていいですか」(※)なども気になりました。

※ ほまれ先生のSNSより。往診に訪れた一人暮らしのおばあちゃんにハグをし、涙を流して喜んでもらった時のこと

あれは……(笑)。その少し前に周防大島(屋代島・やしろじま|山口県)で映画『パッチ・アダムス』のハグ療法をモデルに実践している岡原仁志先生のことを知って「寂しさを癒すのはハグか!」と思ってやってみたら、実際そうだったんです。

米づくりの様子。今年の田植えは大人から子どもまで泥んこになって楽しんだ

手打診療所で発行されている『手診便り』もおもしろかったです。

在宅の往診に行った先で『手診便り』が押しピンで貼られていたりすると、ひとつのエンターテイメントになっているんだな〜と感じます。看護師さんとかみんなが笑ってくれたらそれでいいんです(笑)。

2021年9月に発行を始めた『手診便り』。コロナ禍の不安が渦巻く中「あの時、手診便りがなかったら死んでたよ」というほど心の拠り所にしていた住民も

>>「大好きな島で暮らしを楽しみ、命を支える令和のDr.コトーほまれ先生の頭の中(後編)【特集|島で守る命と健康】」に続く

【お話を伺った人】

室原誉伶(むろはら・ほまれ)さん
1989年熊本市生まれ。東京での研修医修行を経て、総合診療や地域医療に興味を抱きゲネプロに参加。上五島、モンゴル、西ノ島を経て、2020年に下甑島へ。
1年間の休業期間を経て2023年4月より下甑手打診療所所長に就任。毎月1週間は実家である菊南病院(熊本市)で働きながら、4児の父として家族と共に島暮らしを楽しんでいる


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特集|島で守る命と健康

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