つくろう、島の未来

2024年05月27日 月曜日

つくろう、島の未来

人気漫画『Dr.コトー診療所』で描かれるコトー先生のモデルとなった瀬戸上健二郎先生や、合同会社ゲネプロを立ち上げた齋藤学先生が歴代の所長を務め、地域医療を支えてきた下甑島(しもこしきしま|鹿児島県)の手打診療所では、2023年4月より室原誉伶先生が新所長に就任。”医療以外”のプロジェクトをニコニコ顔で「やってみました!」と語る令和のDr.コトーほまれ先生に、リトケイ編集長が話を聞きました。

>>「大好きな島で暮らしを楽しみ、命を支える令和のDr.コトーほまれ先生の頭の中(前編)【特集|島で守る命と健康】」はこちら

※この記事は『季刊ritokei』43号(2023年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

島を好きになって地域診療にハマり、気になったことから次々に「やってみよう!」が生まれている印象ですが、この夏は熊本大学の学生たちが下甑島で御用聞き体験にやってくるそうですね。

このプログラムはそんなチャレンジから生まれた産物ですよね。

そうなんです!めちゃくちゃ良いんです。

昨年、実家の病院が熊本大学の医学生向けに行う講義を担当させてもらって、離島医療や御用聞きのことなどを話したら、学生たちが御用聞き体験にやってくるというプログラムになったんです。

毎月1週間は実家の菊南病院に勤務。その間は「コールメディカル福岡」からの派遣医が手打診療所を守る

医学生が地域社会を知るのは、島のお医者さんを増やす意味でもとても良いですね。

僕は2年前まで島から出ずに、診療、診療とやっていたんです。それで、色々な人に「ありがたい」と言われ、患者さんとの関係もよかった。

けれど、そうやっていると二度と抜けられない沼にハマり、次のお医者さんが来れなくなると思ったんです。

沼とは?

地域医療を担うなかで住民の皆さんにもらう信頼は心地よく、自己肯定感も高まります。

けれどそれは、僕という局地的には良くても、島という大局的にはよくない。情報発信をしないと、結果的に次の先生も来なくなってしまいます。

時には漁船での緊急搬送も。島暮らしのかたわら深夜早朝問わず人々の命を守っている

確かに。どれだけ感謝されても、たったひとりで住民の命と健康を背負い続けるのは厳しいですよね。

それに医者の仕事って、人からの感謝を目的にやってたら続かないなとも思ったんです。必死に働いていても、色んなことを言われることがあるから、燃え尽きてしまう人もいる。

だから目標を他者に求めないことが大事。僕も自分の目標が別にあるからあれこれ言われても大丈夫なんです。

ほまれ先生の目標とは?

シンガポールで子育てしてみたいです。

?!(予想外……)

昨年1年間、医師を休業していた時の子育てがめちゃくちゃ楽しかったんです。だから子育てできる環境とか時間が欲しくて、日本の医師免許でそのまま仕事ができるのがシンガポールなので行ってみたいなぁと。

甑島列島の最南端に位置する下甑島の手打集落で、4人の子どもたちと暮らすほまれ先生

近未来にですか?

と言ったものの、そんなに簡単なことではないんです(笑)。実現するには手打診療所でも実家の病院でも、診療の現場がしっかりまわることが必要。だからそれぞれをコミュニティホスピタル(※)にできたらなと思っています。

実家の病院と手打診療所が連携できれば、学生や研修医が行ったり来たりしながら、実家の病院では専門医のスキルを学び、手打診療所では地域医療とかプライマリ・ケア(詳しくは「どのように生きたいか 島人の力とプライマリ・ケア【特集|島で守る命と健康】」で紹介)をどっぷり学べ、医師の確保にもつながります。

※ おおむね200床未満の病院で、地ケア病棟(病床)を運営し、総合診療外来を志向しながら年間10名程度の在宅看とりを実践するワンストップサービス病院(コミュニティ・ホスピタル・ジャパンより)

良いですね。

世間的には総合診療医が少ないから、継ぐ人もいない。それで10年後の地域医療を考えたら、総合診療医を増やすしかありません。

だから「学生だ!」と思って、隠岐島前病院の白石吉彦先生(※)に伝えたら「今更気づいたんか」って言われました(笑)。

※ 現在は島根大学医学部附属病院総合診療医センター長

ほまれ先生もへき地医療の教育プログラム「ゲネプロ」の受講生。ゲネプロの齋藤学先生(左)から手打診療所の所長を引き継いだ

隠岐では当たり前だったんですね(笑)。

白石先生は隠岐で20年かけて地域医療を確立されていて、僕も参考にさせていただいています。

島根大学は、総合診療に進みたいという医学生の希望が多いんですが、それはそこにいる先生が魅力的だったり、やられていることが楽しそうだったりするからだと思っています。

ゲネプロ時代には海外研修も体験。モンゴルの若手医師向けに研修プログラムをつくるという難題に挑んだ

室原先生の情報発信でも、島暮らしや地域医療って楽しそうだなと感じます。

はい、楽しいんですが、実は今、手打診療所は医師が1人になっちゃったので仕事量も増えちゃって…。

けど、これは二人体制になれば解消されるから、ひた隠しにしています。苦しい状況ばかり発信したら誰もこないから(笑)。

お医者さんの仕事は本当に大変だと思いますが、楽しさとやりがいが伝われば、離島へき地にやってくるお医者さんや総合診療医が増え、結果として島の命と健康も守られやすくなる。リトケイもそんな未来を期待しています!

【お話を伺った人】

室原誉伶(むろはら・ほまれ)さん
1989年熊本市生まれ。東京での研修医修行を経て、総合診療や地域医療に興味を抱きゲネプロに参加。上五島、モンゴル、西ノ島を経て、2020年に下甑島へ。
1年間の休業期間を経て2023年4月より下甑手打診療所所長に就任。毎月1週間は実家である菊南病院(熊本市)で働きながら、4児の父として家族と共に島暮らしを楽しんでいる


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特集|島で守る命と健康

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