つくろう、島の未来

2024年04月18日 木曜日

つくろう、島の未来

ケガも病気もないけど、気持ちが沈んで消えてしまいそうなことはありませんか?もしも自分が暮らす地域で「生きづらさ」を感じることがあるなら、解決のヒントは“自殺で亡くなるひとが少ない地域”に隠れているかもしれません。
世界各国を旅しながら「生きやすさ」を追い求め『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』を記した精神科医の森川すいめいさんに話を聞きました。

※この記事は『季刊ritokei』43号(2023年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

自殺希少地域に習う 生きごこちの良さ

厚生労働省の調べでは、2022年の自殺者は全国で2万1,811人。原因や背景には、経済や生活の問題、家庭問題、職場や学校での人間関係など、多様な問題が重なっているといわれています。

自ら命を絶ちたくなるほどの「生きづらさ」がうずまく日本の中で、精神科医の森川すいめいさんはある日、自殺希少地域に出会いました。

「自殺希少地域の論文を発表された岡檀さん(※)の研究発表を聞いた時に、そもそも“生き心地の良い地域”があるんだと知りました」。発表では自殺者の少ない市町村が30地域挙げられていました。そして森川さんは、そのうちの5地域を訪れ、その記録を1冊の本にまとめます。その名も『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』。

※ 自殺希少地域5地域を訪ねた記録。自殺希少地域の特徴や「即時に助ける」「ソーシャルネットワークの見方」「柔軟かつ機動的に」「責任の所在の明確化」「心理的なつながりの連続性」「不確かさに耐える/寛容」「対話主義」といったオープンダイヤローグの原則を紹介

相手は変えられない 変えられるのは自分

自殺で亡くなるひとが少ない地域(以下、自殺希少地域)には島が多く、森川さんが訪れた5地域のうち2つは広島の下蒲刈島(しもかまがりじま)と東京の神津島(こうづしま)でした。

下蒲刈島を訪れた森川さんは、島の老人に「困っている人たちがいたら、今、即、助けなさい」と教えられます。また、ある時、島で移動手段がなく困っていた森川さんに島の人は「乗っていきな」と声をかけ、他にもトイレを貸してくれたり、食べ物を分けてくれたり。

「誰かの困りごとに気づいた人が、即時に解決する。助けたいと思ったら相手に確認する前に助ける、ということは、他の自殺希少地域にも共通していました」。

続く神津島では「なるようにしかならない」という姿勢で生きる人々に出会います。本のタイトルとなった『この島のひとは、ひとの話を聞かない』も、神津島の若者からもらった言葉。

あらがいようのない大自然と同様に、相手が変えられないものであるなら「自分がどう変わるか」を考えた方が良い。だから島の人にとって大切なのは「自分がどうしたいか」であり、結果「ひとの話をきかない」島となる。森川さんの著書の中で紹介される人々はそんな風に心の平穏を保っていたのです。

著書では他にもたくさんの「生きやすさ」のヒントが紹介されますが、島だからといってすべてが生きやすいわけではなく、自殺者が多い島を訪れた時には「ここは島だっけ?」と感じることもあったと森川さんは話します。

幸福度世界一の国民は「勝手に解釈しない」

「生きづらさ」を感じる島を「生きやすい」島にするにはどうしたらよいのでしょう?

「世界一幸福度が高い国としても知られているフィンランドの人々は、『その人がいないところで、その人の話をしない』ということを徹底していました」。

かつては自殺率が高かったフィンランドでは、オープンダイアローグ(※)という対話手法を取り入れながら生きごこちのよい国づくりを進めています。

※ フィンランドで生まれた対話による精神疾患の回復援助プログラム。「人と人の関係のなかで発症する」という心の病に対し、問題にかかわる人たちとの対話によって回復を目指す

「そこでは『本人に直接聞かなければ分からないことは勝手に解釈せず、本人がいる場で、理解しあえるまで何回も話す』ことを意識しながら対話されていて、革新的だなと思いました」。

島のように小さな社会には、うわさ話がつきものです。それが誰かの勝手な解釈により広がったネガティブな話だとすれば、うわさの的となった人は生きづらさを感じてしまいます。

「フィンランドがどんな工夫をしているかは、生きやすい地域をつくるヒントにもなるでしょう」。

生きづらさは環境のせいに 生きやすさをつくる工夫を

「ピーター・ドラッカー(※)はマネジメントを大事にしますが、それは生きやすい地域をつくる上でも参考になります。生きづらさは環境のせいにして、一人ひとりが孤立しない工夫や、生きやすい環境をつくる工夫をすれば良いのです」。

※ 人が共同することにより結果や成果を生み出せるという概念を「マネジメント」として体系化した経済学者

その仕組みとは例えば、本で紹介されるバス停がない場所でも、乗りたい人や降りたい人がいれば停まってくれる町の事例。

「バス停でしか停まれないとしたらバス停まで行けないおばあちゃんたちの困りごとになってしまう」けれど、バスの運転手が「停まろう」と現場で意思決定をして、おばあちゃんを乗せることができたら、その町は「生きやすい」町になる。小さな島では採用しやすい工夫です。

対話と呼吸で人の心は回復できる

「日本人は何でも頑張ろうとしてしまいますが、フィンランドの人は頑張らなくて済むようにどう工夫するかを考える人が多い。人が頑張らなくても、どうしたら軽くなるか?どうしたら生きやすくなるか?と考えて仕組みがつくれるといいですね」。

それでも生きづらさを感じてしまう人に森川さんは「呼吸」を勧めます。

「調身・調息・調心という言葉がありますが、呼吸を整えると思考も変わっていきます。困っていることを頭だけで解決するのは難しいので、とりあえず呼吸を整えてみましょう」。

森川さんはフィンランドで「人が呼吸するように、人は対話をする」とも教えられました。大人になるにつれてだんだん緊張が強くなり、自然な呼吸やコミュニケーションが下手になることも。そして自分をとりまく環境と対話できなくなったときに、人は病んでしまうのです。

「自殺希少地域の人たちはよく対話していると感じました」と森川さん。そんな地域から生きやすさを学んでみてはいかがでしょうか。


【お話を伺った人】

森川すいめい(もりかわ・すいめい)さん
1973年、東京生まれ。精神科医。鍼灸師。オープンダイアローグ(開かれた対話)トレーナー。2003年にホームレス状態にある人を支援するNPO法人「TENOHASI」を設立。認定NPO法人「世界の医療団」ハウジングファースト東京プロジェクト代表医師・理事。著書に『オープンダイアローグ私たちはこうしている』(医学書院)など

その島のひとたちは、ひとの話をきかない』(青土社)
自殺希少地域5地域を訪ねた記録。自殺希少地域の特徴や「即時に助ける」「ソーシャルネットワークの見方」「柔軟かつ機動的に」「責任の所在の明確化」「心理的なつながりの連続性」「不確かさに耐える/寛容」「対話主義」といったオープンダイヤローグの原則を紹介


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