大量生産・大量消費型の経済活動は、大量廃棄型の社会を形成し、健全な物質循環を阻害するほか、気候変動問題、天然資源の枯渇、大規模な資源採取による生物多様性の損失などさまざまな環境問題にも密接に関係している。
ごみが大量に生まれる現代社会の課題を「環境白書」はこう記し、世界の潮流が「一方通行型の経済社会活動」から、持続可能な形で資源を利用する「循環経済(サーキュラーエコノミー)」へと変化していることを示しています。海に囲まれた島は、その内外でどのような循環を目指すのがよいのでしょう?
鹿児島県・硫黄島に暮らす環境博士・大岩根尚さんと、「循環商社」を掲げるECOMMIT代表取締役CEOの川野輝之さんにヒントをいただきました。
※この記事は『季刊ritokei』41号(2023年2月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
登場人物
大岩根尚(おおいわね・ひさし)さん
株式会社musuhi取締役。元南極地域観測隊員でSDGsや気候変動の普及・啓発活動を行う硫黄島在住の環境学博士。大崎町SDGs推進協議会サーキュラーヴィレッジラボ初代所長
川野輝之(かわの・てるゆき)さん
高校卒業後に中古品輸出企業に就職。22歳でECOMMIT創業。中国に輸出された日本の電子ごみによる環境負荷を目の当たりにしたことをきっかけに環境問題に向き合う
リサイクル率全国1位 大崎町に学ぶ好循環
サーキュラーエコノミーを島が目指すには何ができるのか。硫黄島(いおうじま|鹿児島県)で暮らす環境学博士の大岩根尚さんは、「ごみをごみの問題としてだけでは捉えないことが大事」と話す。
大崎町は「リサイクル率14年連続全国1位」「リサイクル率83%」という驚異の数字で界隈の熱視線を集めている。大崎町は埋立処分場の残余年数の逼迫をきっかけに、細かな分別リサイクルをスタートさせた。83%超を誇るリサイクル率の内訳は、60%が生ごみ・草木の有機物、残る23%が資源ごみだ。
まず、生ごみ・草木は町内の事業者が堆肥化を行い、安価な堆肥として再流通され、畑に戻される。「生ごみが焼却炉に入らなくなるだけでも水分が減り、燃えやすくなるので焼却炉の運用コストは下がります」(大岩根さん)。
同じ仕組みを島が導入するなら各島の条件に合わせた工夫も必要になるが、大岩根さん曰く「生ごみの堆肥化は離島でもハードルが低い」ため、はじめの一歩であり、大きな一歩になりうる。
続く資源ごみは、住民が洗浄・分別し、町内のリサイクルセンターに集められ、検品や中間処理を経て町外の再生施設へと運ばれる。住民が分別する資源ごみは24品目。
思わず手間と面倒を想像するが、資源ごみのうち、プラやペットボトルなどを除く少量のものはひとつのビニール袋にまとめて保管し、月1回の回収日に衛生自治会毎(約150カ所)に設けられる集積所に持ち込み、その場で分別を行うため、「分別数の多さから想像するほどの手間はなさそう」と大岩根さんは言う。
ある自治会では、住民が車で集積所に到着したそばから担当者がドアを開け、袋を受け取り分別開始。住民が車を降りる頃には分別が終わっているという「ドライブスルーごみ出し」のような例もあるそうだ。
注目すべきは「ごみをごみの問題としてだけでは捉えない」点での副次的なメリットだ。
月1回の資源ごみ収集日には「あのおばあちゃんが来ていないな」と気づく見守り効果があり、井戸端会議の場や、新たに引っ越してきた人と地域の人が交わるきっかけとしても機能する。
堆肥の売り上げやごみ処理費用のスリム化により生まれた財源は、町を巣立つ子どもたちへの奨学金など、住民の暮らしにも還元されている。
離島地域はそれぞれが特有の事情も抱えているが、それでも「再循環」を目指すことで得られる多様なメリットがあり、何よりただ燃やすだけ、埋めるだけという悪循環を脱することができる。
「ごみの再循環から生まれる社会的・経済的な良い影響もしっかり評価したいですね」(大岩根さん)。
先進的な静脈チームが島のごみを夢に変える
持ち主には不要でも、“まだ使えるもの”は少なくない。例えば、島を離れる家庭の家財は、引っ越し費用をおさえるために一部が捨て置かれることもある。仮にも正しく処理されなければ不法投棄されるか、退蔵されるか。“まだ使えるもの”はごみとなり島に残り続けてしまう。
そんな不要品を島内外に再循環させる実証実験が屋久島(やくしま|鹿児島県)で始まった。2022年10月、屋久島の体育館で開催された「無料回収・譲渡会」には、多くの住民が不要品を持ち込み、譲渡会は行列ができるほど盛況となった。
同会はリユース・リサイクル事業を手がけるECOMMITと、島の廃棄物処理に携わってきた丸山喜之助商店、京都大学、屋久島町の連携による「ごみを減らす実証実験」の一環。
不要品を島内に再循環させ、残ったリユース品はECOMMITの循環センター「ECOBASE KAGOSHIMA」(薩摩川内市)に運ばれ、国内外に向けて販売される。
「島内で循環すべきものは島内で循環すべきですが、島の外から来たものは島の外にある大きな循環に戻してあげたい」とECOMMITの川野輝之さん。「大きな循環に戻すには物流面が一番の課題」というなかで、屋久島の回収・譲渡会が成功したのは、行政、運送会社、船会社、リサイクル会社のそれぞれが協力関係を構築できたからだ。
屋久島にはもともとペットボトルや古紙などを本土に送る物流があった。その流れに注目し、空きコンテナの一部を活用して安価に輸送できる体制を組んだのだ。
「先進的な取り組みを行うには、古い業界ならではの抵抗や、競争入札制度による業者の入れ替えなどの複雑な関係が壁になりますが、屋久島では町がイニシアチブをとり、各事業者も取り組みに理解をしてくれました」(川野さん)。
注目すべきはこの取り組みがごみ処理費用削減にもつながることだ。焼却するにも埋め立てるにも、そのコストは税金から賄われる上、ごみが島に残り続ける。
ならば、分別の手間はあれど島外に運び出すモデルを構築した方が、島にとっても自治体にとっても負担が減るというわけだ。「(安価に輸送するため)今は町や各事業者が痛み分けのように少しずつ負担している状態ですが、できないモデルではないと思っています」と川野さん。
環境負荷低減効果の測定を含めて、屋久島モデルを横展開するにはまだまだ時間がかかるというが、成功すれば島内サスティナビリティのロールモデルとして、より深刻なごみ問題に苦しむアジアの島嶼国のお手本にもなれる。
「国や県もこれからより一層注目していくべきでしょう」(川野さん)。生かし方次第で、ごみは夢にも変わるのだ。