島ではよく聞くのに、都会だと聞こえてこない言葉があります。それは「子どもはみんなで育てる」こと。核家族化や地域コミュニティの衰退から、日本の子育てが「孤育て」と呼ばれる現代。『季刊ritokei』32号の特集「子どもは島で育てたい」では、「子育て環境としての島の可能性」を探るべく、島に暮らす読者や専門家を始め、島の子育てに興味のある人々と共に島の子育ての価値と課題、可能性を探ります。(編集・ritokei編集部)
※この記事は『季刊ritokei』32号(2020年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
「子どもは島で育てたい」特集目次
※特集記事は9月初旬から下旬にかけて随時更新いたします
●「孤育て」に悩む都会と「共同養育」が残る島々
●”守姉”の島。多良間島にみる「人間本来の子育て」|根ヶ山光一先生インタビュー
●リトケイ読者に聞きました。”子どもは島で育てたい”その理由
●かつて島の子どもだった読者のご意見
●島で育つ子の「壁」・島で育てる親の「壁」
●壁を超えたい!深島の学校船問題
●島の人口減少に思うこと
●こうなったらいいな!島の子育て座談会(今治大島/屋久島/与論島)
●島という子育て環境をいつまでも(加計呂麻島/口永良部島/祝島/菅島)(公開準備中)
●親にとって、子どもにとって、島にとって、みんなにプラスの離島留学(公開準備中)
●「子どもは島で育てたい」と思うひとりとして(公開準備中)
「孤育て」に悩む都会と「共同養育」が残る島々
人類が誕生して700万年。私たちの誰もが、誰かから生まれ、誰かに育てられ大人になってきた。「人を育てる」という行動は人にとって重要かつ普遍的なものだが、最近の日本ではその環境が崩れかけている。
文明の広がりから高度経済成長を経て、日本人の暮らしは一変してきた。この間に起きたことを一言で表せば「ライフスタイルの多様化」であり、人々の暮らしは、個人の満足や利便性を追求する(あるいは追求すべきとされる)ことが主流となり、経済社会もその欲求を支え続けてきた。
原始的な暮らしと比べれば、日本人の暮らしは良くなったのかもしれない。しかし、人を生み、育てる原初的な営みをめぐる環境には別の問題が生まれている。
2016年に放送され反響を呼んだNHKスペシャル『ママたちが非常事態!?』は、現代の日本で母親たちが悩む子育ての過酷さを、最新科学で解き明かした。この番組は、自身も母となり子育て問題に直面した女性ディレクターが発案したもの。背景には共働き世帯が増える一方で「子育ては母親が主体となって行うもの」という日本特有の固定観念や、核家族化や地域コミュニティの衰退による「孤育て」が、日本の育児環境を過酷にしている実態があった。
番組では、人間の祖先がチンパンジーなど他の霊長類から分かれて進化した際に「共同育児」を行うことで繁栄を叶えたことにも注目。取材したカメルーン奥地で暮らす部族は、女性たちが皆で子育てを共同し、大きな子どもが小さな子どもの面倒を見ることも当たり前という、伝統的な共同育児を成立させていた。
実のところ、離島経済新聞社は今の日本にも共同育児が残っていることを知っている。2010年から現在までの10年間、取材で訪れた多くの島で「子どもはみんなで育てる」と話す人々に出会ってきたからだ。
そこで本特集では、島と子育ての実態を探るべく、島での子育て経験者や、「子どもは島で育てたい」と考える読者、子ども時代を島で過ごした読者など、200人を超える読者と、専門家の声を集めた。離島地域には、日本全国の倍近いスピードで子どもたちが減っている現実もあるが、子育て環境としての島の価値を探ると、持続可能な島をつくるヒントも見えてくるかもしれない。
『ママたちが非常事態!?最新科学で読み解くニッポンの子育て』(著・NHKスぺシャル取材班/ポプラ社)