つくろう、島の未来

2020年09月29日 火曜日

子育て環境としての島の可能性を探るべく、島をフィールドに母子の関係や養育環境を研究する早稲田大学人間化学学術院教授の根ヶ山光一先生と、先生が注目する多良間島(たらまじま|沖縄)で育った若者に話を聞きました(取材・ritokei編集部)

※この記事は『季刊ritokei』32号(2020年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

「国の重要無形民俗文化財にも指定される多良間島の豊年祭「八月踊り」では、島の子どもたちも重要な役割を担っている。(撮影・離島経済新聞社/2015年)

島の少女が子守を担当する「守姉」の島

石垣島と宮古島の中間に浮かぶ多良間島(たらまじま|沖縄県)は1998年から2002年の5年間、合計特殊出生率(※)が全国一(3.14)だったことでも知られている。当時の全国最下位は東京都渋谷区の0.75。少子化のうねりが高まる中、高い出生率を誇る多良間島に根ケ山先生は「島の子どもたちはどのように生活しているのだろう?」と疑問を抱いた。

※15〜49歳までの女性の年齢別出生率を合計した値

2004年、多良間島に渡り、子どもたちを観察するため保育園を訪れると、すぐさま子どもたちに取り囲まれた。「まるで警戒心や不信感とは無縁の天衣無縫な積極性」を持つ子どもたちに圧倒される根ケ山先生を見て、園長先生が「これが多良間っ子です」と微笑んだ。

保育園のお迎えには、母親、父親、祖父母、親戚、ご近所、子どもの兄弟など、さまざまな人がやってきた。子育てに参加する父親の姿も印象的で、父親たちが追い込み漁を教える行事では、子どもたちの眼差しが「父親の頼もしさ」にふれる瞬間を目の当たりにした。

保育園や小学校から帰宅した子どもたちは、他の子どもたちと遊びに興じる。チャンバラごっこに木登りなど、まさに天真爛漫。島では下校中の寄り道も子どもまかせ。言い換えれば「子どもへの信頼感」と「地域への信頼感」が子どもたちの姿に現れていて、そんな島に嫁いできた女性は皆が「子どもを皆で見守ってくれることが島の良さ」と口を揃えていた。

木登りをする多良間島の子どもたち(撮影・離島経済新聞社/2015年)

ある日、集落で小さな園児を抱いて歩く少女に出会った。彼女は小学6年生で、園児の「守姉もりあね」だった。多良間島には血縁関係のない間柄、もしくは遠縁の少女が小さな子どもの世話役になる風習があるのだ。

都会で失われた人間本来の子育て

島人にとって守姉はどんな存在なのか。現在、沖縄本島に暮らす多良間島出身の波平雄翔なみひらかずとさんに聞くと「僕はムレネエって呼んでいて、土日に親が畑に行っている時にムレネエの家で遊んでいたりしました」と教えてくれた。弟たちには別のムレネエがいて、末の妹は波平さんの同級生の子どものムレネエになった。血縁関係はなくとも絆は強く、波平さんはムレネエのお母さんを「おっかぁ」と呼び、還暦のお祝いに花を贈った。

そんな島の風習を波平さんは「特別とは思っていなかった」と言いながら「楽しい思い出しかない」という幼少期を支えてくれた島の人たちへの感謝を口にした。

「島のみんなで子どもを育てる」という人々の暮らしがある多良間島は、周囲約20キロメートルの小さな島。役場や学校、民家などは島の北部に集中している。(撮影・離島経済新聞社/2015年)

「子育ては本来、社会のなかで『年齢という縦軸』と『地域という横軸』の広がりをもった豊かな行為だったんです」と話す根ケ山先生は、多良間島を「人間本来の子育てが残っている」と評価する。もともと霊長類研究に力を入れていた根ケ山先生は、地域の大人や子どもが子育てを共有するアフリカのピグミー族を例に「親以外の複数の個体が子育てをシェアすることは、サルではあまり見られない人間の特徴」と説明し、「都市化された場所ではそれが崩れている」と言う。

都会の子育てにも利点はあるだろう。しかし、根ケ山先生が指摘するのは、より根本的な問題だ。まず、人工物で固められた環境では、人類が何百万年もかけて得てきた「自然界の物理環境に適応する力」が養われない。

次に、都会人の多くは「心を許しあわず、警戒しあっている」こと。子育て中の親は「誰にでもついていっちゃだめ」「地域は危ない場所だ」と子どもに教えるほかなく、「親にとってはそれも愛情ですが、子どもの自由を奪っている側面もありますし、『世の中は怖い』『大人は信用してはいけない』という価値観を子どもに与えてしまう」のだ。

共有する子育ては人類の特徴

いずれは島に帰り、地域を担いたいと考えている波平さんは、「(守姉などの島の育児は)0円でできていたことなので、こうした文化を再評価し、進化させれば持続可能な社会をつくれるんじゃないか」と期待する。

そんな島の価値は、研究者である根ケ山先生の言葉からも立証できるだろう。「島の子どもたちは知っている大人に取り囲まれ、のびのびと安心して育ち、マルチな愛着を形成している。規制されるばかりではなく、時に大人と対等な存在として認められ、元気でたくましく、明るくフレンドリーに育っています」(根ケ山先生)。

日本を見渡せば、少子化にあえぐ国に、都会の子育てに悩む親がいて、人口減少に悩む島がある。そこで今、島に存在する「人間本来の子育て」を見つめ直す意義は深いのではないだろうか。


根ヶ山光一(ねがやま・こういち)。早稲田大学人間科学学術院教授・早稲田大学災害復興医療人類学研究所研究員。NPO法人保育・子育てアドバイザー協会理事長や乳幼児医学・心理学会理事長も兼務。著書に『アロマザリングの島の子どもたちー多良間島子別れフィールドノート』(新曜社)、共著『ヒトの子育ての進化と文化ーアロマザリングの役割を考える』(有斐閣)、共著『共有する子育て:沖縄多良間島のアロマザリングに学ぶ』(金子書房)など多数

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