つくろう、島の未来

2024年11月23日 土曜日

つくろう、島の未来

離島医療と本土の地域医療の違いや、離島医療の抱える課題、最新の技術・テクノロジーについて、ウェブメディア『離島医療情報ネットワーク』編集長の池上文尋さんにお話を伺いました。

※この記事は『季刊ritokei』43号(2023年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

Q1. 離島医療と一般的な地域医療の違いは?

まずは専門医の不在です。奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)のように大きな島の病院には専門医もいますが、小さな島の診療所では専門医ではなく、総合診療医が活躍しています。機器・薬・輸血などのリソースにも差があります。血液も薬も消費しなければ損失になるため、絶対的な使用量の少ない島では在庫も最低限しか置くことができません。

ただし、南西諸島ではハブに噛まれた場合の血清は必須だし、アナフィラキシー対応の緊急キットは最低限置かれています。しかし、大きな怪我や病気には対応不可です。緊急搬送にも時間と手間がかかります。

多くの島ではドクターヘリが活躍していますが、厄介なのは天候不良と夜間。このふたつが重なると非常に厳しいため、悪条件下では自衛隊に搬送を依頼することがあります。

Q2. 島のお医者さんにはどんな人が多い?

「人を助けたい」と思って医者になる人が多いのが特徴的です。よって、離島医療についてもその意義が理解ができた人が島につながります。

島の人と仲良くなり、信頼を寄せてもらえることは島のお医者さんにとってありがたい反面、医者は科学者の一面もあるため勉強や技術習得のための研鑽もしなければなりません。島にいるとなかなか勉強ができないので、定期的に大きな病院や海外で勉強できる仕組みがあるといいですね。

Q3. 離島医療に感じる課題は?

医師やコメディカル(※)の絶対数を確保することです。最近は総合診療医を目指すプログラムも増えており、あえてへき地を選ぶ先生も増えていますが、「島に行きたい」と思っても家族に反対されて都会に留まる医者も少なくありません。

『Dr.コトー診療所』でも描かれていましたが、コトーひとりが奮闘しても島の健康は守れません。また、竹富島(たけとみじま|沖縄県)など観光客が多い島では、来島者の体調不良に医療のリソースが割かれてしまうと住民の健康が守れません。入島税が島の診療所にも活かされるような仕組みもあっていいかと思います。

※Co-medical(和製英語)。医師・歯科医師以外の医療従事者で、医師と協同で医療業務を担う人たち

Q4. 離島医療をみつめてきた印象は?

「本来の医療とはどういうものなのか?」を教えてもらいました。『Dr.コトー診療所』のモデルになった瀬戸上先生はじめ、島には地域を理解し、患者の家族関係も分かり、地域の状況も分かった上で治療をしておられます。

都市部では患者さんを3分診療で診るに留まり、症状を聞いて薬を出して、よくならなかったら薬を変えるような治療に終始するケースが多いです。

しかし、島の先生は違い、「お腹が痛い」と言われたら「昨日奥さんと喧嘩した?」みたいな話から解決に導いていくようなナラティブな治療になっています。ちゃんと、人間と向き合っている島の先生方を見て、医療って本来はそうあるべきなのではないかと学ばせて頂いています。

Q5. 島で増えている技術やテクノロジーは?

コロナ禍によって遠隔診療システムが広がったことはプラスだと思います。また、ドローンによる医薬品輸送や、長野や浜松の山間へき地では看護師が遠隔診断車で患者宅に行き、検査データを送ってオンライン診療を行う仕組みも出てきています。

ただ、実証実験で行われているものは継続するための予算問題が残るので、命と健康を守るため本当に必要なものを運ぶには、国が支援する仕組みをつくることが重要です。

Q6. 離島医療にあったらいいなと思うアイデアは?

米国などでは医師に近い仕事ができる「ナース・プラクティショナー(診察看護師)」が活躍しています。すべての島に医師を配置することは現実的に難しいですが、看護師資格の権限拡大で簡単な治療ができるようにするとサポートの幅が広がります。

本土の医師が週に1〜2回、午前中だけ診療に訪れるという島もありますから、そうした島にナース・プラクティショナーがいれば在宅医療にも応用でき、島の高齢者のサポートができるのではないでしょうか?

【お話を伺った人】

池上文尋(いけがみ・ふみひろ)さん
『離島医療情報ネットワーク』編集長。製薬企業のMR(医薬情報担当者)や医療法人の事務長を経て、医療系ベンチャーを経営。ゲネプロ(※)で活躍する齋藤学医師との出会いから、離島で活躍する医師の存在に強く惹きつけられ2016年よりウェブメディアを立ち上げ、島々を巡り続けている。

※合同会社ゲネプロ。へき地医療の先進国、オーストラリアのへき地医療学会と提携し、国内外を問わず活躍できる医師の育成・支援を行う「離島へき地プログラム」を提供する団体

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