つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

2050年もその先も、 島の営みが続くために重要な存在は「島の担い手」に他なりません。そこで注目したい 「子どもたちが帰ってこれる島づくり」 の取り組みについて、リトケイ編集部員であり、離島地域での教育プログラム推進や、東京・利島村の教育委員会で教育コーディネーターとして教育改革に携わる松本一希が厳選します。

文・松本一希 写真・リトケイ編集部

人口300人離島の手厚い子育て支援

皆さんこんにちは、松本です。僕は今、1ヵ月の半分を小豆島、もう半分を利島で過ごす離島二拠点生活を送りながら、利島の教育改革をサポートするという、重大任務にあたっています。

利島は人口300人台の1島1村。規模からイメージすれば子育て環境に関して「何にもない」と感じる人もいると思います。けれど、島に長く滞在してみて分かったのは、想像以上にいろいろなモノ・コトが揃っていること。

令和6年4月時点で24人いる島の児童生徒は、学校の先生や地域住民によるピアノレッスンや合唱、柔道・剣道、サッカー、バトミントン、太鼓、書道、有志住民による受験生への勉強指導など、学校の部活動のほか、さまざまな社会教育・体育活動が身近にあります。

 東京 • 利島小中学校の校庭で遊ぶ子どもたち。 部活動のほか、 社会教育・体育活動が充実している

また、給食費や医療費を無償化する島の例はよく聞きますが、利島ではさらに希望する生徒の海外留学費用までサポート(!)。島内に高校や大学がない代わりに、都内の高校に通う高校生がいる世帯には、一人あたり毎月4万円が補助される仕組み(※)もあります。

※「離島高校生修学支援事業(文部科学省)」により補助

もちろん、全国の島々によって子育て教育環境の充実ぶりは大きく異なるものの、人口300人台の利島村にこれだけ充実した環境があることには、驚きました。

いつか帰ってくる君へ 奨学金も充実

進学のための補助制度は多くの島にあります。調べてみると、古いものでは昭和30年代に、鹿児島県の硫黄島竹島黒島からなる三島村で、高校生や大学生への補助を行うための「三島村奨学条例」が施行され、昭和42年に三島村の隣にある十島村でも同様の動きがありました。

十島村の「十島村育英奨学基金」では月10万円まで無利子で奨学金を借りることができます。この奨学金は親が十島村に住所を有している子のほか、山海留学(離島留学)制度で2年以上在籍して中学校を卒業した子も利用することができ、手厚さを感じます。

三島村の1島、竹島の人口は50人台。 「三島村奨学条例」により島を巣立つ子どもたちを支援している

国では、「大学等卒業後、ふるさとに帰って就職や居住した場合に奨学金の返還を支援する自治体の制度」に対して、特別交付税措置を講じています。

小豆島町の「保健医療福祉関係職修学資金制度」や、新潟の粟島浦村の「粟島浦村看護師等就業支援事業」では、「医師や看護士等の資格を取得してふるさとに戻り、就職する場合は奨学金が免除」されます。地域にとって欠かせない人材確保のため、このような仕組みを導入している自治体は少なくないようです。

こうした奨学金を利用するには「住民」であることが条件になりそうなところ、海士町の「海士町人材育成基金」はユニークで、住民だけではなく「定住の意思があれば誰でも借りられる」という柔軟な運用をしています。

鹿児島県の長島町が2016年にスタートした「ぶり奨学金制度」も有名。高校や大学に進学後、10年以内に島に帰ってくると返済不要となる独自の教育ローンで、離島地域では愛媛県上島町でも同様の奨学金制度が導入されています。

お金も大事だけど環境の魅力化も大事

お金の支援はとても大事ですが、そのほかの支援として、子育て層(出身者でも移住者でも)に選ばれる環境・制度・雰囲気づくりや子育て教育環境の魅力化も大事だと感じています。

0歳から15歳までが魅力的な環境で学ぶことができる福島県大熊町の「学び舎ゆめの森」や、大崎上島でグローバルな学びを得られる「叡智学園」などは、そこで学びたい子どもや家族が移住するきっかけになっていると聞きます。魅力的な教育環境をつくっている取り組みは注目したいですね。

加えて、子どもたちが暮らせるために必要なインフラを、どう残していけるか。小豆島では今年の3月で常勤の産婦人科医が定年退職し、リスクのあるお産などは高松市内の医療施設と連携をする体制ができました。これまで当たり前だった環境がなくなると急に不安になるのだなと感じます。

手厚い支援制度がある十島村・ 悪石島の学校。 人口60人台 ~ 130台の有人7島すべてに小中学校がある

一方で、利島には昔から産婦人科がなく、それを当たり前と考えて暮らしている人がいるわけで、島によって「ない」の程度も考え方も千差万別です。例えば、大きなスーパーが必須なのか小さな商店だけで十分なのか。必要なインフラは一人ひとりの価値観によって異なっていて、どこまで許容できるのかは人によって変わります。

元々島で生まれ育った人は「ない」ことへのギャップも感じにくいと思いますが、島育ちでない人が移住する場合は「思ったより生活できなかった」ということもあります。島の子育て教育環境に何が必要かは、これから先の時代に、島で生きていきたい人のニーズや考え方をもとに、それぞれの島で答えを追求していくことが大事だと思います。

特集記事 目次

特集|2050年に向かい島と私たちはどう生きるか

2024年を生きる私たちの日常は、2050年にはどんな姿をしているでしょうか。25年前には存在しなかった スマートフォンを、今や多くの人が当たり前に手にしたように、25年後には想像できない新技術が浸透しているかもしれません。

どんな時代でも、安心して暮らせる家や、食べもの、人が生まれ、育ち、すこやかな人生をまっとうできる環境はあってほしいもの。そんなリアルな豊かさを支える基盤は、法律や技術だけでなく、自身を生かす身近な世界にあると、リトケイは考えます。

本特集では、そんな身近な世界に注目し、人口減・高齢化・地球沸騰化の時代を心豊かに生き抜くために、今、考えたいテーマを追求します。

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