つくろう、島の未来

2020年05月29日 金曜日

島根半島の沖合約60キロメートルに浮かぶ隠岐島前は、海士町(中ノ島)、西ノ島町(西ノ島)、知夫村(知夫里島)の3島3町村で構成されています。地方創生のトップランナーとしても知られる海士町でスタートした「高校魅力化プロジェクト」は、島前地域や全国に広がり、海士町そのものの魅力に昇華。その魅力を観光につなげる新たな動きと、海士町と西ノ島町で島内外の人をつなぎ、暮らしを支えているユニークな図書館を紹介します。

西ノ島に生まれたコミュニティ図書館「いかあ屋」

ないものはない——。そう掲げる海士町(中ノ島)には、住民や移住希望者のよりどころとなる図書館が存在していたが、海士町の西側に浮かぶ隣島・西ノ島でも、それまで島に存在しなかったものが生まれ、地域のにぎわいをつくっている。

隠岐島前と呼ばれる海士町、西ノ島町(西ノ島)、知夫村(知夫里島)の3島3町村は、島前内航路で朝7時台から22時台まで航行する船でつながれている(※年末年始等はダイヤが変わる)。

海士町の菱浦港から西ノ島町の別府港までは、最短7分で到着する。西ノ島町や知夫村から島前高校がある海士町へ通う人もいれば、スーパーや病院のある西ノ島町に海士町や知夫村からやってくる人も存在する。

西ノ島の景勝地「通天道」

島前の北側に浮かぶ西ノ島町は、周囲116キロメートルと比較的大きい。火山島らしいダイナミックな景観に富み、地図をみると2つの島が中央でくっついているようにも見える。

そんな西ノ島の別府港から車で10分程度、島の東西が接合される西ノ島町の真ん中に、2018年7月、「西ノ島町コミュニティ図書館」がオープンした。

芝生の広場や児童館も併設される西ノ島町コミュニティ図書館

海士町然り、小さな島然り、それまで図書館が存在しなかった地域では、図書館の必要自体を考えたことのない住民も少なくないため、町が図書館建設を志せば、疑問や反対の声も聞こえてくる。

そんな西ノ島町で初めて生まれる図書館には、それまでの島になかった機能を補おうと、基本的な図書館機能に加え、「コミュニティ」を育てる機能も備えられることとなった。

島の人や暮らしに寄り添う蔵書をセレクト

西ノ島には同じ名字が多いため、古くから名前ではなく屋号で呼び合う風習が根付いている。そこで図書館にも「いかあ屋」という屋号がつけられた。

「行こうよ」と声をかける言葉を西ノ島の方言では「いかあや」という。いかあ屋のコンセプトは「西ノ島の暮らしを支えるまちの居間『西ノ島みんなの家』」。司書を務める真野理佳さんに話を聞いた。

小学校教員を経て司書となった真野理佳さん

隠岐の島町出身の真野さんは西ノ島出身者との結婚を機に、約18年間、西ノ島で暮らしている。小学校教員を経て、いかあ屋の前身である公民館図書室の手伝いをしていたところ、図書館ができることを知り「この機会に」と司書の資格を取得したという。

公民館図書室時代からコミュニティ図書館が生まれた現在にかけて、島はどのように変化したのか。真野さんに、図書館を利用する人の数について尋ねると、「多いです!」と弾むような返答が返ってきた。

「公民館図書室の頃は来る人が限られていた」と話す真野さんは、図書館はもちろん、「縁側カフェ」と呼ばれるカフェスペースやキッズスペースなどが備えられるいかあ屋に集まる、老若男女の姿を見ては目尻を下げる。

飲食もできる縁側カフェ

「本を借りる人も本当に多くて、みんなそんなに読むんですか?! と思うくらいです(笑)。平日の午前中は地域の大人や子連れのお母さんが来て、夕方になると小学生もやってきます。土日は朝から子どもたちが来ていて、海士や知夫里から来る人や、観光や帰省の人も多いですね」(真野さん)

大都市の図書館ほどの蔵書はなくても、いかあ屋に並べられる本セレクトは、島の暮らしや、島に暮らす人の心に寄り添っている。

西ノ島町コミュニティ図書館の内観

「公民館図書室には5,000冊くらいしか蔵書がなく、小説や子どもの本などがメインでしたが、今は子育てを支援するための絵本や、地域の産業に関わる本を多く選んでいます」。

畜産業、漁業、観光業が盛んな西ノ島の人にとって、具体的なヒントになる本が選書され、例えば、養蜂や農業など「これから島で新しくできるんじゃないか?」と思い立った人がヒントやアイデアを探すためにやってくることも想定されている。

集落を横断して人と人がつながる空間に

いかあ屋には「縁側キッチン」というキッチン付きのスペースもある。そこでは飲食を含めたイベントが開かれ「よるのブックカフェ」という名で月1回は21時まで開館時間を延長し、その日に合わせてさまざまなイベントが開かれている。

真野さんは「大人向けのイベントは5〜6人から10人規模ですが、子ども向けのイベントでは50人くらい集まったりもします。大人向けで人気があったのはお酒を飲むイベントですね」とにこり。

それはもちろん宴会ではなく、西ノ島にあった酒造会社の奥さんがお酒について語ったイベントであり、お酒やおつまみを囲みながら、島の人が、島の知らない一面を改めて知る機会となっていた。

移住者が島にスキルを還元するプログラミング教室

いかあ屋には、パソコンを広げて仕事に打ち込める「書斎スペース」もある。

コワーキングスペースとしても活用できる書斎スペース

この場所で日々、仕事をしているという小山瑛司さんは、2015年に東京から西ノ島に移住したひとり。プログラマーとしてIT業界で働いたのち、移住を機に独立。島内外のウェブサイト制作やアプリ開発を行い、いかあ屋のホームページ運用も担当している。

小さな集落に暮らし、2児の親として育児に励む小山さんは、西ノ島の暮らしを「全般的に気に入っている」と話し、いかあ屋ができたことでさらに充実感を覚えている。

「いろんな世代の人が交流できるようになったと思います。キッズスペースと縁側カフェが隣接しているので、子連れの人も多くて、おじいちゃんおばあちゃんが子どもたちを可愛がってくれます。集落ごとの集まりはこれまでにもありましたが、集落を横断して集まる場所はなかったので『別の集落でこんなことやってるんだ』と、つながる空間になっています」(小山さん)

小山さんが開催した3Dプリンターの体験イベント 提供・小山瑛司

小山さんはいかあ屋のスペースを活用して、島の子どもたちに向けた3Dプリンターの体験会やプログラミング教室も開催。移住者が持つスキルやノウハウを、島の子どもたちや暮らしに還元できる場所としてもいかあ屋は機能している。

真野さん曰く、いかあ屋は「すごく自由な図書館」。そんな雰囲気は若者の心も引き寄せ、島前高校に通う生徒たちも船に乗ってやってくる。

2018年のオープン時には、島前高校の生徒がオープニングイベントを企画した。以来、イベント時には、高校生が「子守します!」と名乗りでて、小さな子どもたちの面倒を見てくれることもあるという。

イベント時にサックスを吹く小山さん 提供・小山瑛司

「ここを『すごい好き』と言ってくれる人もいて、(島前高校を卒業して)島を離れた子もいつも気にしてくれているんです」と喜ぶ真野さん。

笑顔がつながる新たな場所となったいかあ屋。そのまわりからはいつしか、「図書館なんかいらない」という声も聞こえなくなったという。

日本海にぽつんと浮かぶ孤島ではなく、個性の異なる3つの島が寄り添い、共存する島前3町村では、教育魅力化を中心とする「学び」や「図書館」が、人と人、島と島をつなぐ存在として機能していくことだろう。

特集記事 目次

島×地方創生「ない」から生まれる創造力の「ある」島へ

ある人は、島の暮らしを「東京の真逆」と言いました。
お店、公共サービス、交通機関、学校、病院、介護施設など、どれもが少ない(あるいは無い)島の暮らしは、確かに、真逆と言えるでしょう。しかし、島には「ない」から生まれる動きがあり、その動きをつくる「人」がいます。島には、多くの都市で見られなくなったものがあり、雄大な自然に、人と人が助け合う暮らし、創造的な地域づくりなど、島だから「ある」ものがあります。この連載企画は内閣府の補助事業として運営されている地方創生『連携・交流ひろば』とリトケイ編集部のタイアップによりお届けいたします。


地方創生とは、日本の視点でいえば、「人口の東京一極集中の是正」であり、島の視点に立てば「戻っておいで」「移り住んでおいで」を後押しする動き。内閣府の補助事業として運営しているウェブサイト「地方創生『連携・交流ひろば』」では、全国の地方創生に関心ある人がつながるきっかけとなる情報や、地域づくりのノウハウ、専門家と意見交換ができる交流掲示板などを提供。「島に移り住みたい人」も「移住定住者を増やしたい島」にとっても有益な情報が集まっています。

『地方創生カレッジ』は、インターネット環境とパソコンやスマートフォン、タブレット端末があれば、島でも学ぶことができる無料講座。累計2万人が受講しています。講座内容は「地域ビジネスモデル」「地域公共サービス」「地域産業」「プロジェクトの資金調達」「魅力ある観光地づくり」「地場産業のブランディング」「ジビエビジネス入門」など、167 種類(2019 年11月現在)。島の課題解決のヒントにお役立てください。

ritokei特集