つくろう、島の未来

2020年08月11日 火曜日

「島活性化のモデルケース」。長崎県の島で、小値賀(おぢか)島など17の島々でつくる小値賀町は、高い評価を受けてきた歴史があります。リゾート開発の手が入っていない豊かな自然環境や、島の恵みに寄り添った自給自足的な暮らしなど「ありのままの小値賀」を、まるごと観光資源として活用。島経済を支えると同時に国内外でファンを掘り起こし、ヒトを呼び込む好循環を生み出してきました。

この連載企画は、内閣府の補助事業として運営されている地方創生『連携・交流ひろば』とリトケイ編集部のタイアップによりお届けいたします。(取材・リトケイ編集部)

<3>「あなたの宿で働きたい」世界中から届く「ラブコール」

「あなたの宿で、ぜひ働きたい」 世界中から、そんな「ラブコール」が届く起業家が小値賀にいる。

宿の名は「島宿御縁(しまやどごえん)」。Uターン者でもあるオーナーは、初対面でもつい心を許したくなるような笑顔が魅力の岩永太陽さんだ。

岩永太陽さん一家

岩永さんが小値賀にUターンし、語学力を生かして外国人観光客にも対応できる島宿御縁を開業したのは2015年夏のこと。地方創生にはインバウンド対策が不可欠、との思いを胸に、「世界中の人と出会える島宿をつくりたい」というコンセプトが出発点となった。

外国人が海外のインターネットサイトを通じ予約できる小値賀の宿は、2020年当初時点でもこの宿しかない。その意味で、小値賀のオンリーワンとして存在感を示している。

世界中の人と会える宿がコンセプトの島宿御縁

ツアーガイドの経験から、世界中の人と出会える島宿づくりへ

島の高校を卒業後、岩永さんは野球留学制度を活用し渡米。その後、語学への関心が高まったため、野球を離れ英語教師を目指し現地の大学に進学した。

20代半ばで帰国した後、大阪で知人と共同経営という形で飲食店経営に乗り出したが、事業がうまく回ったこともあり「経営の面白さを知った」という。

その後、いったん飲食店経営を離れ、ワーキングホリデー制度を利用しオーストラリアに渡り英語力のブラッシュアップを図りながら接客業を学ぶなどしたが、再度帰国した後は外国人観光客向けツアーガイドの職に就いた。

これが転機となる。外国人を国内の地方観光地に案内するうち、田舎の良さや魅力にあらためて気が付いた。

地方では小さな宿をよく利用したが、個性あふれる魅力的なオーナーが多く、みな心から楽しそうに仕事をしていた。外国人観光客も、心の底から旅を満喫しているようだった。

そんな様子を見続けたからだろうか、宿泊施設の経営に心惹かれたのは自然な流れだったかもしれない。当時、既に結婚して子供もいたが、家族会議の結果、ふるさとの小値賀に帰り、英語力を生かして「海外の人が楽しめる宿をつくる」ことを決断。2014年にUターンした。

「いろいろな人との出会いや縁があり、今の自分がある」との思いから、宿を島宿御縁と命名。進むべき道を照らす理念にもなっている。

小値賀を満喫する外国人

宿泊部門は高稼働率を維持。外国人スタッフをファミリーとして受け入れ

当初は、外国人が好むバス・トイレ完備で畳の部屋がある個室旅館からスタート。その後、国の補助金も活用しながらゲストハウス、カラオケハウス、空き家を利用した民泊施設など、次々と業容を拡大。2018年には法人化も果たすなど、そのスピード感には目を見張るものがある。

収容可能人数も増え、念願だった団体客の受け入れも可能な規模にまで成長。宿泊部門の平均稼働率も、80%程度の高水準をキープしている。

島素材もふんだんに使った料理

岩永さんは開業以降、住居と食事を提供する条件で、外国人スタッフを「助っ人」として世界中から募集してきたが、これまでの応募総数は1000件以上。10カ国以上の延べ100人ほどが来島し、スタッフとして働いてきた。

常時3~5人程度働いている外国人スタッフの役割のひとつが、情報発信。小値賀や宿の魅力を、SNSや動画などをフル活用し外国語で発信してもらっているが、集客にも大きく貢献している。

岩永さんは「外国人スタッフは、ファミリーとして受け入れ、仕事だけでなく島暮らしも楽しんでもらっている。小値賀のファンになってもらい、それが結果的に集客にもつながっているのでは」と話す。

宿にある世界地図。来宿者の出身地にピンが刺されている。

「島にもチャンスがある」柔軟な経営姿勢で未来を展望

岩永さんが、小値賀における起業成功例と称される背景には、その柔軟さがある。

もともと外国人受け入れをコンセプトにスタートしたが、夏休み期間や大型連空などのハイシーズンを除くと、小値賀とはいえなかなか観光客を集められないのが実情だった。

一方、ビジネスでの来島者は年間を通じ比較的安定して見込めることに気が付いたことから、安定経営のためにはビジネス層の取り込みが不可欠と判断、この層の取り込みを積極的に図ってきた。

「島の宿」といえば、どうしても観光客ばかりに目を向けがちだが、岩永さんは「島のような土地で事業を継続するには、ビジネス需要の取り込みは必須。結局、収益を上げられないとビジネスを続けたくても続けられなくなる。理想だけで食べていくのは難しい」と分析する。

いろいろな思いを持った人が訪れる小値賀

島宿御縁の知名度が上がるにつれて、近年は、外国人だけではなく日本人の「助っ人」も増えている。

起業や移住を視野に入れている人も多いといい、実際、島宿御縁で「修行」を積んだ後、ほかの島で宿を起業した人材も複数いるという。

「島とかかわりを持ちたい」という潜在的な関係人口の「ビジネススクール」のような役割も果たしている島宿御縁。

岩永さんは、「インターネットなど、いろいろなものが便利になった現代では『個人』にも大いにチャンスがあると感じている。プレイヤーが少ない分、島にもチャンスがあると思う。あとは、行動できるかどうか」と話している。

特集記事 目次

島×地方創生「ない」から生まれる創造力の「ある」島へ

ある人は、島の暮らしを「東京の真逆」と言いました。
お店、公共サービス、交通機関、学校、病院、介護施設など、どれもが少ない(あるいは無い)島の暮らしは、確かに、真逆と言えるでしょう。しかし、島には「ない」から生まれる動きがあり、その動きをつくる「人」がいます。島には、多くの都市で見られなくなったものがあり、雄大な自然に、人と人が助け合う暮らし、創造的な地域づくりなど、島だから「ある」ものがあります。この連載企画は内閣府の補助事業として運営されている地方創生『連携・交流ひろば』とリトケイ編集部のタイアップによりお届けいたします。


地方創生とは、日本の視点でいえば、「人口の東京一極集中の是正」であり、島の視点に立てば「戻っておいで」「移り住んでおいで」を後押しする動き。内閣府の補助事業として運営しているウェブサイト「地方創生『連携・交流ひろば』」では、全国の地方創生に関心ある人がつながるきっかけとなる情報や、地域づくりのノウハウ、専門家と意見交換ができる交流掲示板などを提供。「島に移り住みたい人」も「移住定住者を増やしたい島」にとっても有益な情報が集まっています。

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