鹿児島本土と沖縄本島の中間に位置する奄美大島は、奄美市、龍郷町、大和村、宇検村、瀬戸内町の1市2町2村で構成される島です。面積は東京23区よりも少し広い712平方キロメートル。5市町村ともに人口減少傾向にありますが、2014年に格安航空会社(LCC)が就航を開始し、首都圏からの交流人口は拡大傾向に。奄美大島に都市住民を迎える取り組みとして、全国的にも注目される3つの取り組みを紹介します。
この連載企画は、内閣府の補助事業として運営されている地方創生『連携・交流ひろば』とリトケイ編集部のタイアップによりお届けいたします。(取材・リトケイ編集部)
「情報」と「イベント」で島と人を強力につなぐ島の地域メディア
奄美大島には情報とイベントで、島と人をつなぐ企業もある。
奄美市が進める「フリーランスが最も働きやすい島化計画」でも重要な役割を果たしている株式会社しーまである。
奄美群島のブログポータルとして機能する情報サイト『しーまブログ』の運営や、グルメ情報を集めた『みしょらんガイド』などのフリーペーパー発行を行い、2017年からは「島でジョブセンバ」という、島の企業とUIターン希望者とのマッチングイベントも行っている。

株式会社しーま 深田小次郎さん
島の発展のためには情報量が必要
株式会社しーま代表の深田小次郎さんは昭和51年に奄美大島北部の笠利須野集落に生まれた。20代はドラマーとして音楽の道を志し、プロデビューも果たしたが30歳にして道を諦め、都内の通信社に勤めていた。
「いずれは島に戻ってきたい気持ちがありましたが、東京にいると島の情報がまったく入ってこなかったんです。メディア企業で働いていたこともあり情報量が少ないことが問題ではないかと感じました」と深田さん。寂しさが湧き出すとともに、東京から見た島が、とても弱いもののように感じたという。
「島の発展は情報量に比例する」。深田さんはこの仮説を掲げながら、しーまの活動を続けている。情報量が増えれば、きっと奄美も盛り上がるはず。そう思い、2010年に奄美大島のブログポータルサイトとなる『しーまブログ』を立ち上げた。
『しーまブログ』で情報を発信するのは、奄美群島に暮らす人々である。
深田さんは「ブロガー」という存在がそれほど一般的でなかった2010年頃から、奄美群島各地で「ブログ講習会」を開いてまわり、登録ブロガーを増やしていった。地道な活動は現在につながり、活動開始から10年を迎える今『しーまブログ』を5,000ブログが集まる一大サイトに成長している。

しーまブログのホームページ画面
『しーまブログ』を通じて、奄美群島中のブロガーが島情報を発信する素地は整った。しかし、深田さんは東京で知り合った奄美ファンという人に、「奄美に旅行してもどこ食べに行けばいいか分からない」と言われショックを受けた。
「島から情報発信をする人は増えたけど、島を訪れる人には届いていなかったんです」(深田さん)。そこで、深田さんは情報を編集して届ける必要性を感じ、編集部を結成。自身も東京から島に拠点を移し、島のグルメ情報を載せたフリーペーパー『みしょらんガイド』の制作を始めた。
フリーペーパーやイベントで情報発信
現在、奄美大島を歩くと『みしょらんガイド』のほかに、求人情報誌である『ジョブセンバ』、女性のための情報誌『amammy』などのフリーペーパーを各所で見かけ、手に取ることができる。

株式会社しーま 出版物
最近では、地元の直売所と提携して島の産品を販売するECサイト「いっちば」を運営し、観光名所として名高いあやまる岬観光公園に「みしょらんカフェ」もオープン。各種イベントを開催するなど、活動の幅はどんどん広がっている。

みしょらんカフェの外観
そんな中、特に話題になっているのが、子育て中の女性と企業をつなぐ「ジョブカフェ」とUIターン希望者と島の企業のマッチングをする「島でジョブセンバ」だ。
「仕事がない」という課題から、奄美市では「フリーランスが最も働きやすい島化計画」が展開されているが、詳しくは「仕事の種類がない」や「スキルにあった仕事がない」となる。
実際、島には人手不足を深刻な問題として抱える企業がいくつも存在しているのだ。 「男性の97%は就職しており、人手不足を補うには、シルバー人材か女性をターゲットにするしかありません。シルバー人材はハローワークに登録すれば仕事を探せますが、子育て中の女性が仕事を探すのは難しい状況でした」(深田さん)
そこで2018年にスタートしたジョブカフェでは、新たな人材を確保したい奄美市内の企業10社と仕事を探す女性70人が参加し、4組のマッチングに成功。参加した女性からは、企業から働く環境について直接話しが聞けるだけでなく、「同じように子育てで悩む女性同士の繋がりもできたことが良かった」という声が聞かれたという。
奄美大島には転勤で引っ越してくる人も多い。夫の転勤で島に移り住んだ女性の中には、島での生活に不安を抱える人も少なくないが、そこに島とつながれる場が存在することはありがたい。
島で働きたい都市住民と島内企業をつなぐ「島でジョブセンバ」
UIターン希望者と島の企業のマッチングをする「島でジョブセンバ(※)」は、「島で暮らしたい」「島で働きたい」という都市住民を島に誘引するイベントだ。
(※)仕事の「ジョブ(JOB)」と島の方言で「〜しないといけない」を意味する「せんば」を合わせた造語東京と大阪で開催されている島でジョブセンバは今年で3年目。今年は東京で70人、大阪は台風の影響で開催が延期されたが、それでも40人集まり、2018年には37人の参加者のうち10人が移住。移住率がかなり高いイベントとなっている。

島でジョブセンバのイベント風景
都市部で行われる移住イベントでは、行政関係の人が移住相談に乗ることが多い。島でジョブセンバの特徴は、島の企業担当者がイベントに足を運ぶことだ。
UIターンを希望する参加者は企業担当者の熱をリアルに感じ、わからないことを直接尋ねることができる。担当者に住まいの相談をしたことで、住まいまで紹介された移住者の例もあるという。
「企業側はイベント参加のために交通費などの実費がかかります。参加企業を集めるのは大変でしたが、以前から『ジョブセンバ』という求人情報誌を発行していたので取引先との関係が築けていました。イベントには10事業者が参加し『普段出会えないような人と出会えたので良かった』という声ももらえました」(深田さん)
参加者の年齢層は30〜40代と若く、業種も公務員、銀行員、デザイナー、料理人と多岐にわたる。SNSや新聞を見て来た人もいれば、イベントを知った島の親戚から「参加してみれば」と言われて参加した人や、観光で島を訪れたときにポスターを見かけ、参加を決めた人もいたという。
深田さんは、ミスマッチングを防ぐため「デメリットも包み隠さず話すようにしている」という。人間関係が近いこと、台風が多く市内でも2日間停電することがあること。虫やハブがいること、マクドナルドがないことなど、デメリットを説明することで「移住のイメージがより鮮明になった」と参加者の満足度も高い。

島でジョブセンバ 参加者の皆さん
島と人をつなぐ有力なパイプが築かれてきたところで、深田さんは「今後は一次産業に携わってくれる人や、すでに売り先を持っている人、Web系のマーケティングができる人が島に来てくれると、より島が発展するのではないか」と展望する。
「島の発展は情報量に比例する」。深田さんが信じる仮説が正しかったかどうか尋ねると、「何を持って発展かと言われると分からないが、イベントや媒体を面白いと言ってくれて、島暮らしを楽しむ上で役に立っているのなら発展と言えるかもしれない」と深田さん。
2020年で創業10周年を迎えるしーまには12人のスタッフが在籍している。そんなしーま自身の課題も「人材育成」といい、深田さんは「子育て中の女性や移住者を積極的に採用し、どうすれば働きやすい環境を整えられるか」を実験しようと考えている。

株式会社しーま スタッフの皆さん
「子どもがいると時短になるし、突発的な休みもある。解決しないといけない問題はあるが、取り組むことで島全体の人手不足を解決する方法を見つけられるかもしれない」(深田さん)。
情報で、イベントで、都市と島、島と人、企業と人をつなぐしーまの挑戦は、今後も島の持続に大きく貢献するだろう。
特集記事 目次
島×地方創生「ない」から生まれる創造力の「ある」島へ
ある人は、島の暮らしを「東京の真逆」と言いました。
お店、公共サービス、交通機関、学校、病院、介護施設など、どれもが少ない(あるいは無い)島の暮らしは、確かに、真逆と言えるでしょう。しかし、島には「ない」から生まれる動きがあり、その動きをつくる「人」がいます。島には、多くの都市で見られなくなったものがあり、雄大な自然に、人と人が助け合う暮らし、創造的な地域づくりなど、島だから「ある」ものがあります。この連載企画は内閣府の補助事業として運営されている地方創生『連携・交流ひろば』とリトケイ編集部のタイアップによりお届けいたします。

地方創生とは、日本の視点でいえば、「人口の東京一極集中の是正」であり、島の視点に立てば「戻っておいで」「移り住んでおいで」を後押しする動き。内閣府の補助事業として運営しているウェブサイト「地方創生『連携・交流ひろば』」では、全国の地方創生に関心ある人がつながるきっかけとなる情報や、地域づくりのノウハウ、専門家と意見交換ができる交流掲示板などを提供。「島に移り住みたい人」も「移住定住者を増やしたい島」にとっても有益な情報が集まっています。

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