離島地域や日本経済にとって、観光産業が重要な役割を果たしていることは自明の事実。しかし、今や観光産業は世界規模で急成長を続け、億単位の人間が移動する時代。野放しに観光を推進すれば「観光公害」を招く危険性もある状況をふまえ、世界の事例と日本の離島地域のオーバーツーリズムを知るための最新図書を紹介します。
この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』29号「島と人が幸せな観光とは?」特集(2019年8月27日発行)と連動しています。
『観光公害-インバウンド4000万人時代の副作用-』(佐滝剛弘・著
)
観光需要に住民が窮する
宮古島は健全といえるのか?
スペイン東部に浮かぶバイアレス諸島のイビザ島やマヨルカ島では、街の中心部にある住宅が観光客用の民泊に転用されたことで家賃が高騰し、やむなく郊外に移り住む住民が増えている。
さまざまな施設が島外資本となり、働き手も島外からやってきていることに危機感を覚えた地元住民は、「島が自分たちのものではなくなりつつある」と、島の変化を嘆く。
両島に酷似した状況は、2011年からわずか7年で観光客が3倍に膨れ上がった宮古島(みやこじま|沖縄県)でも起きている。
観光分野の研究者として、ひとりの非営利観光事業者として、オーバーツーリズムの実態を探る著者は、急激な観光客の増加が地域に影響を及ぼし始めている一方で、さらなる観光客の受け入れ体制が整備されようとしている状況は健全といえるのかと、観光バブルに沸く宮古島の現状に疑念を抱く。
資源が限られる離島地域では、その発展に観光を欠かすことはできない。しかし、海に囲まれる島は地理的に発展の余地がなく、オーバーツーリズムの影響を受けやすい。
同著では、バイアレス諸島州政府や各島の自治体が、「経済性」「社会性」「環境」のバランスがうまく回らなければ観光業の発展はないと表明し、民泊に厳しい規制をかけるなどしながら、秩序を取り戻そうとする姿も追いかける。
観光公害を論じる際には、「殺
到する観光客」が悪者にされやす
いが、本書では儲けを重視して観
光客を優先する「受け入れ側」の
問題にも言及。
「観光という行為に
は、内在的に摩擦や軋轢を生み出
す要素があるのが当然と見るべき」とし、観光客の急増によりビーチを閉鎖したフィリピンのボラカイ島やタイのピピレイ島、中国・廈門(アモイ)のコロンス島、屋久島(やくしま|鹿児島県)、小笠原諸島(おがさわらしょとう|東京都)、石垣島(いしがきじま|沖縄県)などを例に、持続可能な観光を追究する。
『観光公害-インバウンド4000万人時代の副作用-』(佐滝剛弘・著
2019年7月/祥伝社840円+税)