つくろう、島の未来

2019年11月20日 水曜日

離島地域や日本経済にとって、観光産業が重要な役割を果たしていることは自明の事実。しかし、今や観光産業は世界規模で急成長を続け、億単位の人間が移動する時代。野放しに観光を推進すれば「観光公害」を招く危険性もあることをふまえ、世界の事例と日本の離島地域のオーバーツーリズムを知るための最新図書を紹介します。

この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』29号「島と人が幸せな観光とは?」特集(2019年8月27日発行)と連動しています。

『観光亡国論』(アレックス・カー、清野由美・著)

奄美という聖域を
犠牲の地にしていいのか?

――日本の観光産業のために、奄美という聖域を日本の「サクリファイスゾーン(犠牲の地)」として差し出していいのか?

2017年に浮上し、現在も論争が続いている奄美大島南部・瀬戸内町の大型ク
ルーズ船誘致計画(※)について、
同著は世界の事例をもとに、こう
提言する。

例えば「ゼロドルツアー」。タイや
バリ島で問題となっている観光ス
キームで、中国の旅行業社が低価
格のツアーで観光客を送客し、現
地でほぼ強制的に宝石店などでの買物を組み込むツアーだ。

土産物店はもちろん、宿、ガイド、バスなどは中国の業者と提携しており、ツアー中に観光客が支払う金額のほとんどが現地に落ちない。

タイ政府の調査では、このスキームがタイ経済に与えている経済損失は毎年約20億ドル(2,200億円)に上るという。

一度に大量の観光客がやってくるクルーズ船は、観光産業の成果を「数」で見れば、大きな効果が見込まれる。 しかし、クルーズ船の乗客が一般の旅行者に比べて寄港地で使うお金は格段に少ないことも、各地の調査で明らかになっている。

奄美のクルーズ船問題が、世界で問題となっている大型観光の負の側面に酷似していないか。同著は警鐘を鳴らし、健全な観光を展望するヒントを提唱する。

論者は小値賀島(おぢかじま|長崎県)の古民家ステイをプロデュースするアレックス・カー氏と、ジャーナリストの清野由美氏。

訪れた国の自然や環境、文化に触れ、地元の人々の精神的な部分までを理解する「観光コミュニティ」の精神がある観光こそが、小さな村の暮らしが成り立つ観光だとし、日本の観光業に根を張ってきた「量の観光」を、いかに「質の観光」へ転換できるか。

国内外の豊富な事例をもとに建設的な解決策を探る。

※2019年8月23日に瀬戸内町が大型クルーズ船誘致計画を断念する方針を発表。

『観光亡国論』(アレックス・カー、清野由美・著2019年3月/中央公論新社定価820円+税

特集記事 目次

特集|島と人が幸せな観光とは?
現在、国が定義する日本の有人離島は416島。豊かな自然や多様な歴史文化、人と人が助け合う共助社会が存在する島は、いずれも住民やゆかりを持つ人にとって重要な場所であり、海洋資源や国土保全の視点に立てば、すべての日本人にとって重要な拠点ともいえる。 しかしながら、多くの島では戦後から人口減少が続き、離島地域に暮らす0~14歳の人口は、平成17年から27年までの10年間だけで、20%も減少している現実がある(平成17年、27年国勢調査)。 いくら愛着があっても、島を担う人が不在となれば、その島の文化は途絶えてしまう。離島経済新聞社では、住民にとって、島を想う人にとって、すべての日本人にとって、重要な島の営みが健やかに続いていくことを願い、「島の幸せ」を「健全な持続」と説き、持続可能な離島経済のあり方を追求。 今回は、多くの島で産業の中心を担う「観光」をテーマに、持続可能な観光を考える。 この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』29号「島と人が幸せな観光とは?」特集(2019年8月27日発行)と連動しています。

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