つくろう、島の未来

2024年10月15日 火曜日

つくろう、島の未来

ひとえに「島の観光」といっても、地理的条件や自然環境、歴史、文化、産業構造、人口規模などの違いによって個性があります。

400島あれば400様ある個性の一端にふれるべく、7つの島に「観光の歴史」「見どころ」「課題」「取り組み」について尋ねました。

小笠原諸島・父島は竹芝桟橋(港区)から定期船で片道24時間(一週間に1本程度就航)でアクセスできる島。一般社団法人小笠原村観光協会に聞いた、父島観光とは? (取材・上島妙子)

この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』29号「島と人が幸せな観光とは?」特集(2019年8月27日発行)と連動しています。

ホエールウォッチング(提供:一般社団法人小笠原村観光協会)

国内初のホエールウォッチングと海洋島ならではの独自の生態系が魅力

1976年に小笠原村観光協会が発足。当初は海水浴を目的にした観光客が多く、その後徐々にスキューバダイビングを中心にしたガイドツアーが始まりました。

1989年に国内初のホエールウォッチングが開始された際、小笠原本来の自然を保ちながら観光を楽しんでいただけるよう、自主ルールを定めました。現在はクジラのほか、天然記念物や絶滅危惧種などでも、自主ルールやガイドラインを定めています。

小笠原は大陸と陸続きにならなかった「海洋島」のため、独自の生態系が育まれてきました。このことが評価され、2011年6月には世界自然遺産に登録されました。

ダイビングの風景(提供:一般社団法人小笠原村観光協会)

ホエールウォッチングと絶景ポイントのハートロックトレッキングが評判

小笠原観光の自慢は「ホエールウォッチングおよびドルフィンスイム・南島」です。小笠原諸島では鯨類を年中見ることができ、特に12月~4月はザトウクジラの子育てが観察できます。

イルカと一緒に泳ぐことができるドルフィンスイムや、国の天然記念物である無人島「南島」への上陸ツアーも人気です。南島は植生保護等のため1日の上陸人数や滞在時間が厳格に決められていますが、その分、南島では幻想的な雰囲気を味わうことができます。

世界有数の透明度を誇る「ボニンブルー」の海に潜り、「魚の群れ」「鯨類」「沈没船」などを見る「スキューバダイビング」や、父島南端にある千尋岩・通称“ハートロック”を目指す「ハートロックトレッキング」も自慢です。

陸路から片道2時間半歩くハートロックへのツアーでは、海抜26mの断崖絶壁から眺める大パノラマの絶景をお楽しみいただけます。

ハートロックからの景色(提供:一般社団法人小笠原村観光協会)

来島者はミドルエイジが中心、他地域と比べ団体客が少ないことが特徴

特に多い観光客は「40~60歳の男女」「30~40歳の男女」「60歳以上の男女」。旅程が長く費用がかかるためにある程度経済的余裕がある方が来島されますが、男女比はあまり変わらないようです。

60歳以上の方は年々増加傾向にあり、世界自然遺産区域での自然散策をされる方が多いですね。家族や友人と来島される方のほか、一人旅の方もコンスタントにいますが、他地域と比べると団体ツアーは少ないようです。

イルカウォッチング(提供:一般社団法人小笠原村観光協会)

来島者を増やすよりも、限られた観光客により快適に、安全に過ごしてほしい

小笠原諸島へは片道24時間の船旅が必要です。船が約1週間に1往復、一度の乗船人数が900人弱のため、それ以上の来島者はありません(不定期で来島する観光船や実習船等は除く)。

また、自然保護区や国有地が非常に多いうえ、建築資材の運送コストが非常に高く、宿泊施設の新築が困難です。島内の宿泊施設の収容力は1,000名程度で、島内の野営は防災上の理由から、条例により禁止されています。

そのため観光産業が発展しても、定期船の乗客数、島内の宿泊者数ですぐに頭打ちとなるため、観光協会では来島者を増やすことよりも、来島者がより快適に、より安全に過ごし、満足していただけるよう努めています。

南島(提供:一般社団法人小笠原村観光協会)

片道24時間の旅の先にある非日常を体験してほしい

小笠原諸島の印象は「行ってみたいけれど、なかなか行けない場所」だと思います。電波の通じない洋上で24時間過ごす必要がある分、島には独特な自然・歴史・文化が存在しています。他では味わえない「非日常」を楽しめる小笠原諸島へ、ぜひご来島ください。

特集記事 目次

特集|島と人が幸せな観光とは?

現在、国が定義する日本の有人離島は416島。豊かな自然や多様な歴史文化、人と人が助け合う共助社会が存在する島は、いずれも住民やゆかりを持つ人にとって重要な場所であり、海洋資源や国土保全の視点に立てば、すべての日本人にとって重要な拠点ともいえる。 しかしながら、多くの島では戦後から人口減少が続き、離島地域に暮らす0~14歳の人口は、平成17年から27年までの10年間だけで、20%も減少している現実がある(平成17年、27年国勢調査)。 いくら愛着があっても、島を担う人が不在となれば、その島の文化は途絶えてしまう。離島経済新聞社では、住民にとって、島を想う人にとって、すべての日本人にとって、重要な島の営みが健やかに続いていくことを願い、「島の幸せ」を「健全な持続」と説き、持続可能な離島経済のあり方を追求。 今回は、多くの島で産業の中心を担う「観光」をテーマに、持続可能な観光を考える。 この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』29号「島と人が幸せな観光とは?」特集(2019年8月27日発行)と連動しています。

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