つくろう、島の未来

2019年11月21日 木曜日

日本の観光先進地である島嶼県・沖縄は、「持続可能な観光」をどのように描いているのだろうか。官民一体型で沖縄観光を推進する沖縄コンベンションビューロー(OCVB)の下地芳郎会長に聞いた。(聞き手・鯨本あつこ)

この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』29号「島と人が幸せな観光とは?」特集(2019年8月27日発行)と連動しています。

下地芳郎(しもじ・よしろう) 1981年沖縄県入庁。沖縄県観光企画課長、観光政策統括監などを歴任後、琉球大学観光産業科学部教授学長補佐。2019年6月より一般財団法人沖縄コンベンションビューロー会長に就任。著書に『沖縄観光進化論』(琉球書房)がある

ritokei

「1,000万人観光」を目指す沖縄の観光の方向性について教えてください。

下地会長

沖縄の観光といっても、沖縄本島と各島が歩んできた道は異なり、それぞれの島が、それぞれの理由を背景に、観光に取り組んでいます。

ただ、LCCやクルーズ船の急増など、ここ6年の変化は、1972年の本土復帰以降の変化のなかでも特に著しいです。

ritokei

宮古島、石垣島、竹富島などではオーバーツーリズムの状況も聞かれています。

下地会長

島にとって観光はいいことだけれども、それだけではありません。正直なところ、沖縄全体としては量的な拡大の流れにのっている状況です。

この状況をシフトチェンジすることは、これまで行政にいて、大学にいた経験から、次の時代を展望した時に出てくる考えですが、従来の沖縄観光が目指してきた「大勢の観光客に来てもらって、経済効果や社会的な効果を目指す」という流れは転換期にきているとみています。

「町並み保存地区」に指定される竹富島には、年間50万人を超える観光客が来島。リゾート開発問題に揺れている (©️OCVB)

ritokei

「大勢の観光客」からの転換ですか?

下地会長

今年は10年ごとに更新される「沖縄振興計画」の8年目にあたり、県では次の10年に向けた見直し作業を行なっています。

私は計画を策定する沖縄振興審議会にて観光分野の取りまとめも担当していますが、これを機に「今1,000万人だからといって次が2,000万人ではない」ということを、どのように新たな指標とするのか。議論の方向性に県民の注目が集まっています。

ritokei

重要な議論ですね。

下地会長

離島という視点で考えても、観光は無視できません。

沖縄県には1日あたり9~10万人の観光客が来ていて、その人たちが沖縄本島から島へと渡っていますが、地域住民の医療もままならないなかで、観光客の緊急搬送やレンタカーの事故といった課題も広がっているはずです。

ritokei

宮古島や石垣島などオーバーツーリズムが懸念される地域はどう考えられますか?

下地会長

沖縄本島の視点から、宮古の観光、八重山の観光を考えるのは十分ではない時代にきています。

宮古島にも石垣島にも直接、国内線や国際線、クルーズ船が入っているので、それぞれの島で、地域の人が真剣に観光のあり方を考えなければならないと思います。

これは決して、各島を突き放したいという意味ではなく、地元としてこの状況をどう考えるのか?が一番重要で、地域の自治体が中心となって考えたことを、我々は応援するべきでしょう。

僕はいつも、職員に「1,000万人の観光」という言い方は正しくないと言っているんです。

145万人の県民が住む島に数倍の観光客が来ている状況で、「1,000万人」はひとつの数字としてはいいですが「1日あたりどのくらいの観光客が沖縄に滞在しているか」を考えないと実態を表しきれない。

月によっても変わりますが沖縄全体では1日あたり7~9万人。宮古島なら1日あたり4,000~5,000人の観光客が滞在しています。

人口5万人の島に対して1割の観光客が来ることのインパクトを大きいと見るのか、小さいと見るのか。そこから議論を始めないといけません。

宮古島では2015年に伊良部大橋が開通。2019年3月には伊良部島とつながる下地島にみやこ下地島空港も開業した (©️OCVB)

ritokei

竹富島は新たなリゾート開発問題で紛争状態になっていますが、竹富島の問題に対してどのようにお考えですか?

下地会長

日本の観光政策では「住んでよし、訪れてよし」とよく言われていますが、僕はそこに「受け入れてよし」を常にくっつけています。

受け入れたために壊れてきている地域もある以上、「受け入れてよかったのか?」を考えなくてはなりません。

竹富島の問題を外から言うのは簡単ですが、お客さんも喜ばないような計画が積み上がってきていることには危機感を感じています。

 
ritokei

竹富島の現状では「受け入れてよし」とは考えにくいように思います。

下地会長

オーバーツーリズムは世界的な問題で、イタリアのベネツィアやスペインのバルセロナにも意識して訪問していますが、ベネツィアは観光が全く「幸せのための手段」ではなくなっていて、住民たちが島から出ていかなければならないことになっています。

2013年に開港した新石垣空港。東京、大阪、名古屋、福岡、那覇との直行便のほか、台北や香港などの国際線も就航 (©️OCVB)

ritokei

観光が「幸せになるための手段」であるなら、観光により経済格差も是正されてほしいところです。沖縄は経済格差も目立ちますが、この問題は観光により解決できるのでしょうか。

下地会長

残念ながら世界的にみても、高度な製造業や情報産業に比べると観光産業は労働集約型の産業(※1)であり、雇用という部分では大きくとも、一人あたりの所得に置き換えると課題があります。

観光客が2,000万人になったところで沖縄県民の所得が2倍にならないのは構造上の問題です。

この問題を解くには、観光をどういう風に、農業や製造業などの他産業に波及させられるかになります。

※1 生産要素に占める資本の割合が低く、人間の労働力に頼る割合が大きい産業

ritokei

目標人数を抑えるとならば、宿泊日数の少ない観光客よりも、近年増えているパソコンひとつで仕事ができるようなビジネスの長期滞在者などにも期待したいです。

下地会長

「ワーケーション(※2)」「ブリージャー(※3)」は確実に日本にも増えていくでしょう。僕の言葉ですが「ビジネスリゾート」という、ハイブリッドなリゾートがこれからの沖縄観光の方向性ではないかと考えています。

遊びを目的としてくる人、仕事を目的としてくる人の次は、教育だと思うんです。

教育といっても幅広い教育の視点がありますから、沖縄を学びの宝庫としても考えていきたいです。

※2 旅行先で仕事を行う働き方
※3 業務出張の前後に休暇を加えて滞在期間をのばす働き方

特集記事 目次

特集|島と人が幸せな観光とは?
現在、国が定義する日本の有人離島は416島。豊かな自然や多様な歴史文化、人と人が助け合う共助社会が存在する島は、いずれも住民やゆかりを持つ人にとって重要な場所であり、海洋資源や国土保全の視点に立てば、すべての日本人にとって重要な拠点ともいえる。 しかしながら、多くの島では戦後から人口減少が続き、離島地域に暮らす0~14歳の人口は、平成17年から27年までの10年間だけで、20%も減少している現実がある(平成17年、27年国勢調査)。 いくら愛着があっても、島を担う人が不在となれば、その島の文化は途絶えてしまう。離島経済新聞社では、住民にとって、島を想う人にとって、すべての日本人にとって、重要な島の営みが健やかに続いていくことを願い、「島の幸せ」を「健全な持続」と説き、持続可能な離島経済のあり方を追求。 今回は、多くの島で産業の中心を担う「観光」をテーマに、持続可能な観光を考える。 この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』29号「島と人が幸せな観光とは?」特集(2019年8月27日発行)と連動しています。

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