つくろう、島の未来

2024年10月15日 火曜日

つくろう、島の未来

自分が暮らしている島やゆかりのある島がオーバーツーリズムに陥らないために、どう対策すべきか。観光を専門とする実践的学術研究機関・公益財団法人日本交通公社で、座間味村を対象に持続可能な観光づくりに取り組む観光地域研究部上席主任研究員の中島泰さんに、オーストラリアの島・カンガルー島の事例をもとに、持続可能な観光づくりのヒントを話を聞いた。

この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』29号「島と人が幸せな観光とは?」特集(2019年8月27日発行)と連動しています。

大型フェリー就航により島内で噴出した観光公害への懸念

南オーストラリア州のカンガルー島は、1990年代以前はプロペラ機で1~2週間滞在する高単価な長期滞在者が主で、数も少なかったので、島の人はゆっくりとした暮らしを営んでいました。

オーストラリア南部のアデレードから船または飛行機で渡島できるカンガルー島。人口は約4,200人(©️ PIXTA)

しかし、1990年代中頃に大型フェリーが就航すると、日帰りで訪れて4WD車を乗りまわして帰るような観光客が現れることが心配され、島の人は「日帰り客ばかりでは島にお金が落ちない」「のんびりとした日常が失われる」「水や電気が足りるのか」「ゴミが増えるのでは」と懸念し、役場に詰めかけました。

そこで各人の意見を集約するワークショップが開かれ、住民や観光業者、野生生物の研究者などの主張を整理し、持続可能な観光をめざすための4項目が整理されました。

関係8組織が持続可能な観光をモニタリングするKI-TOMM

このモデルは以後、「カンガルー島の観光を最適化するための管理運営モデル(KI-TOMM ※KangarooIsland,TourismOptimizationManagementModel
)」となり、「地域の代表者」「観光産業の代表者」「行政」「自然保護機構」「開発機構」「観光協会」「政府環境・遺産省」「南オーストラリア観光局」の8組織が、持続可能な観光を守るための15指標をモニタリングできる仕組みが構築されました。

各組織が、データをもとに合意したり、新たな対策を講じたりできる意思決定構造は非常にわかりやすく、モニタリングの結果「1人あたりの宿泊数が短くなってきた」場合には、宿泊数をのばすために、本土側の旅行会社に対してカンガルー島が求める客層を訴え、「商
品づくりを考えてほしい」と主張。目
標の宿泊数まで回復させ、現在は
環境配慮型の高単価なリゾートと
なっています。


座間味村で実施中「島の健康診断プロジェクト」

カンガルー島の事例をもとに、日本交通公社
では座間味村の協力を得て平成27
年より「島の健康診断プロジェクト」を実施しています。

那覇から船で50~90分の座間味島を中心に、阿嘉島、慶留間島の3島に人々が暮らす沖縄の座間味村(©️OCVB)

座間味村では、持続可能であることを「地域の健康」に例え「地域住民」「事業者」「観光客」「地域自然」の4項目の健康を「観光客アンケート」「島民アンケート」「観光資源調査」を通じて測っています。

数値の算出はこれからですが、観光を中心とした四方よしの構造をつくり、観光地づくりの主体となる地域の関係者が主体的に、持続可能な観光づくりを議論していく土台を築いています。

特集記事 目次

特集|島と人が幸せな観光とは?

現在、国が定義する日本の有人離島は416島。豊かな自然や多様な歴史文化、人と人が助け合う共助社会が存在する島は、いずれも住民やゆかりを持つ人にとって重要な場所であり、海洋資源や国土保全の視点に立てば、すべての日本人にとって重要な拠点ともいえる。 しかしながら、多くの島では戦後から人口減少が続き、離島地域に暮らす0~14歳の人口は、平成17年から27年までの10年間だけで、20%も減少している現実がある(平成17年、27年国勢調査)。 いくら愛着があっても、島を担う人が不在となれば、その島の文化は途絶えてしまう。離島経済新聞社では、住民にとって、島を想う人にとって、すべての日本人にとって、重要な島の営みが健やかに続いていくことを願い、「島の幸せ」を「健全な持続」と説き、持続可能な離島経済のあり方を追求。 今回は、多くの島で産業の中心を担う「観光」をテーマに、持続可能な観光を考える。 この特集は有人離島専門フリーペーパー『季刊リトケイ』29号「島と人が幸せな観光とは?」特集(2019年8月27日発行)と連動しています。

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