有人離島を擁する都道県のうち、離島に暮らす人の数が最も多い鹿児島県では、島を支える地域おこし団体が、自立的・安定的に活動を継続できるよう支援すべく、2016年度より離島地域おこし団体事業化推進事業を実施している。この流れから2019年に鹿児島離島を支える当事者らが主導する「鹿児島離島文化経済圏(リトラボ)」がスタート。9月に実施された合宿型フィールドワーク「種子島トレセン」(詳しくは#04)に続き、10月16日に行われた「硫黄島トレセン」を取材した。
(写真・鹿児島離島文化経済圏 文・さわだ悠伊)
島の未来を背負う覚悟を問う「硫黄島トレセン」へ
10月16日、鹿児島港南埠頭に赴くと、待合には続々と参加者が集まっていた。
今回の目的地は、三島村の硫黄島。鹿児島県本土と屋久島の間に位置する竹島、硫黄島、黒島の3島からなる三島村は、村全体の人口が381人(2019年7月1日現在)と鹿児島で最も小さな自治体だ。
硫黄島トレセンでは、硫黄島の大岩根尚さん、棚次理さん、玉利希望さん、大町祐二さん、竹島の山崎晋作さん、黒島の藤原温子さんの計6名で結成したチーム「リバース」がホスト役を務める。
硫黄島への所要時間は約4時間。9時30分に船が出航すると、リトラボ運営者の山下賢太さんがリトラボの趣旨について話し始めた。
鹿児島県内にはたくさんの離島があるが、各々が抱える悩みや課題を自治体の中だけ、あるいは外部業者に頼って解決しているのが現状だ。だが、外部に丸投げすると、島民の中にも「島=支援される側、外部=支援する側」という認識が生まれやすいことを山下さんは危惧する。
「志ある人々が一同に会し、それぞれの役割を果たしながら互いに目線を合わせて繋がり合うことが、リトラボの目的」と山下さんは言う。
次に大岩根さんが今回のトレセンの目的を語る。
今回の主な目的は「離島のくらしの持続可能性や、それを支える価値観について考えること」「共通の体験を通じて、リトラボメンバーが話し合う土台を作ること」「立場の違う人同士がお互いを受け止めるための対話を始めること」の3つ。
硫黄島には店舗などがほとんどない。つまり硫黄島は地理的条件のみならず、経済的側面から見ても隔絶性の高い場所である。これは一見ディスアドバンテージに捉えられがちだが、そういう場所だからこそ提供できる新たな価値観もあることを、トレセンを通じて知ってもらうことが、リバースの狙いである。
「地球は生きている」と肌で感じられる硫黄島に上陸
次にペアを作ってお題に沿って話す「ペアトーク」や皆で車座になって好きなタイミングで挙手をして自己紹介をする「チェックイン」を行い、昼食を取ると、入港の時間が近づいてきた。
硫黄島の主峰・硫黄岳は常時噴煙を上げているが、桜島と違って火山灰は降らない
もうもうと噴煙を上げる硫黄岳の姿と港を覆う赤茶色の海水を目にすると、その迫力に言葉を失う。「硫黄島は『地球は生きている』ということを肌で感じられる場所。ここが好きすぎて移住したんです」と大岩根さんは話す。
大学や大学院で地質学を専攻していた大岩根さんは、自身の知識を生かし、現在は火山ガイド活動も行っている。
選択制アクティビティで、硫黄島の大自然を体感
下船後すぐにアクティビティの準備に取り掛かる。今回のトレセンでは「カヤックで貝採り体験」「磯または堤防で釣り体験」「筍採り&火山ガストレッキング」の中から好きなアクティビティを選ぶことができ、各アクティビティでは島の名人が指導してくれる。
一行は、さっそくそれぞれの場所へと向かう。「筍採り&火山ガストレッキング」を選んだ参加メンバーは、鬱蒼と茂る竹林に入った。
硫黄島で採れる筍は、「ダイミョウダケ」という細くて小ぶりな筍だ。今はオフシーズンだが、名人は筍が生えていそうな場所を熟知している。
最初は名人についていくだけだった参加メンバーも、慣れてくると自ずと考えて動くようになる。ダイミョウダケが見つかると、参加者の顔にも満面の笑みが浮かんだ。
収穫を終えた一行は、火山ガスが噴出するスポットへと向かう。この火山ガストレッキングは、硫黄島らしさを最も体感できるアクティビティだ。
火山ガスや落石に備え、ヘルメットとガスマスクを装着する。
岩山を登り、火山ガスが噴き出すスポットに急接近。ガスが目にしみるものの、地球の鼓動を間近に体感した一行は、興奮冷めやらぬ様子だった。
下山後、サツマイモも少し収穫してアクティビティは終了。集合場所へと向かう。
自給自足の豊かさを伝えたい
空にうっすらと茜色が混じり始めた17時、選択制アクティビティを終えた参加メンバーが次々とキャンプ場「冒険ランドいおうじま」に集まってきた。
今日の収穫物はBBQの食材になる。自給自足の豊かさを伝えることも、リバースのメンバーが硫黄島トレセンで掲げていた目的のひとつだ。
メンバーと食材がそろったところで、さっそくBBQの準備を始める。特に役割分担をせずともそれぞれが自分にできることを見つけ、行動する。
メンバーの中には今日が初対面という人もいたが、特異な環境下で同じ体験をすることで、メンバー同士の距離がぐっと近づき、炊事場には心地よい一体感が生まれていた。
三島村に今、必要なものとは?
賑やかな雰囲気の中、食事を終えた参加メンバーたちは、硫黄島での1日を終え、今何を思うのか。
20時より会場を屋内施設に移し、ワークショップが始まった。まずは日中のアクティビティごとに分かれ、1日を振り返る。
カヤック体験のメンバーからは「波が高く湾外には出られなかったが、島の魅力をたくさん教えてもらい、楽しかった」という意見が出る一方で、リバースの大町さんは「波の影響で湾外に出られないのはよくあること。湾内でも楽しめる方法を模索したい」と述べた。
磯釣り体験のグループにいたリバースの棚次さんは、「魚が釣れないと退屈するのではないかと思っていたが、断崖で釣りをするということ自体を楽しんでくれたようで、(硫黄島在住の)自分にとっては当たり前のことが参加者にとっては非日常なのだと実感した」とホッとした様子。
また、筍採り&火山ガストレッキング体験では、壮大な自然に感動しながらも「筍を探したりトレッキングをしたりしている間も、『この素晴らしい財産(観光資源)をどのように活かすべきか』といった議論が積極的になされ、刺激を受けた」との意見も。
#09に続く