つくろう、島の未来

2022年10月01日 土曜日

つくろう、島の未来

離島経済新聞社では、学びとしての場としての島に注目。全国の島々にある学びのプログラムや、それらを運営する人々を取材し、「島だから学べること」を紹介します。

今回は、2011年の創業以来延べ2,600人の若者を国内外の島や農山漁村での「住み込み型ボランティア」ツアーへ送り出してきた、村おこしNPO法人ECOFFの代表理事、宮坂大智さんをご紹介。

ご自身も国内外50カ所以上の島を巡り、現在は台湾の島、澎湖(ポンフー)で暮らす宮坂さんの視点で「島だから学べること」を語っていただきました。今回は後編をお届けします。

※ページ下の「特集記事 目次」より関連記事をご覧いただけます。ぜひ併せてお読みください。

※この記事は『季刊ritokei』39号(2022年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

>>前回:「9泊10日の島暮らしで学ぶ「生きること」への気づき(前編)【特集|島だから学べること】」はこちら

インフラよりも重要な豊かに生きるための知恵

この世には情報だけでは得られないことがある。それは宮坂さん自身が感じてきたことでもある。東京育ちの宮坂さんは自然環境に興味を抱いていたが「東京の暮らしではよく分からなかった」。そこで東京農業大学の探検部に入り「国内にすごい場所はないか?」と探すなかでトカラ列島(とかられっとう|鹿児島県)を見つけた。

「僕は探検部でしたしどこでも暮らせる自信があるんです。焚き火も得意で雨の中でも火をつけることができます。ところが、トカラ列島の中之島(なかのしま)で焚き火をしようとした時、薪に火がつけられなかったんです。見かねた地元の人が、その辺に落ちている竹を使ってあっという間に火をつけ、島に独自の知恵があることに気づいて深く感動しました」。

トカラ列島の宝島(たからじま)では手付かずの大自然を体感

大手通信キャリアの大規模障害で電話やインターネットが使えなくなり社会が混乱したことは記憶に新しいが、宮坂さんはそんな風にインフラ頼みの生活に慣れてしまうことに危機感を抱いている。「2025年の太陽フレア問題や大地震などが起きたらどうするのかと考えたら、そういう時に助かる地域は自給自足できるところだと思っているんです」。

ECOFFを立ち上げる前、宮坂さんはタスマニア州のブルーニー島で電気をほとんど使わない生活をしている農家と出会い、電気がなくても暮らせることに気がついた。「実際、調味料と米だけ持って山に入って山菜やきのこを採り、イワナを釣って焚き火や天ぷらをつくったりして、結構豊かな生活ができる。それで気づいたのは、人間ももともと電気のない暮らしをしていたことでした」。

そこで必要なのは「豊かに暮らす知恵」であり、中之島の島民が竹で火をおこした知恵もそのひとつだった。その地域のものを見て、その背景や生態系を認識し、体験しなければ得ることができない。

「世の中にはいろいろなお祭りがありますが、それらにもちゃんと意味があって、人と人がうまく生きていけるように、貧しい人を助けられるようにする仕組みや、教訓があったりするんです。ビルゲイツが世界中の種を保存する倉庫をつくっているのも、大事なことですが、各地域に残されている文化や知恵は、YouTubeやWikipediaを見てオッケーとなるものではないんです」。

プラスもマイナスも見える 島だから学べること

ECOFFの参加者は9泊10日を通じて、さまざまな気づきを得る。ちなみに“9泊10日”になった理由は「トカラ列島に行くには船便が週2便なので9泊10日がちょうどよかった」からだが、どの地域でもこの日数が最適だったという。短すぎると仕事も覚えられず地域の人に顔を覚えてもらうこともできない。一方あまり長いとなかだるみしてしまうこともあるからだ。

与論島(よろんじま|鹿児島県)ではボランティア活動の合間に海も満喫

延べ2,600人の参加者を送り出してきた宮坂さんは、改めて「島でしか学べないことは多いと思います」と言う。「小さな島では人間と自然の関わりがとにかく分かりやすいんです。例えば今、食器を洗っていてその水がどこにいくかといえば、海に流れていくんです。海も山も川もあってそこに人間社会もある。商店で物を買えば、そのお金が島の中に循環されるか目に見え、他地域との境界線もすごく明確なので、この島でどうやって自分たちが暮らすべきなのかとか、自然に関わっているのか?と考えるのがすごく分かりやすい。

大都市だとマイナスの部分が隠されてしまって分かりにくいけれど、島ではプラスもマイナスも見れる。旅慣れていない人でも島で暮らせるプログラムがあったら、世の中がもっと良くなるんじゃないかと思い、ECOFFをつくったんです」。

ホームページに並ぶ参加者の感想にも、島での学びが凝縮されている。「私は何でも知っていた気になっていたけれど、知らないことばかりでした」「自分で生きている食材を捌き、調理をすることでさまざまな食材の命への感謝を心で感じました」「私は決して一人では生きられず、たくさんの方に支えられて生きています。その自覚を忘れずに、ずっと感謝の心を持ち続けていきたい」。

島を訪れ、学んだ参加者の7割が自分の成長を感じ、9割が「人生観が変わった」と答え、中には就職先に地域への移住やUターンを検討する人も。未来を担う彼らが島で学ぶことの意義は計り知れない。

お話いただいた人

宮坂大智(みやさか・だいち)
村おこしNPO法人ECOFF代表理事、日本島嶼学会会員、国際島嶼学会会員、東京農業大学探検部OB。国内外50ヶ所以上の離島をめぐり、現在は台湾の澎湖(ポンフー)に移住、ガイド業やゲストハウスを営む

【関連サイト】
村おこしNPO法人ECOFF
https://ecoff.org/
ECOFFミッションは「農林漁村を活発にすることにより、自然と文化の保護に寄与する」こと。住み込みボランティアツアーは10日間が基本。地域の世話人の家に住み込み、共同生活をしながらボランティア活動を行う。
参加者のほとんどが大学生で、社会人が5%、中高生が1%。焼尻島、奥尻島、伊豆大島、神津島、三宅島、沖島、江田島、屋形島、種子島、屋久島、竹島、硫黄島、中之島、悪石島、宝島、奄美大島、喜界島、徳之島、与論島、渡嘉敷島、澎湖(台湾)など

>>次回:「働き、暮らしながら島で学ぶ「大人の島留学」とは?【特集|島だから学べること】」に続く

特集記事 目次

特集|島だから学べること

地球レベルの気候変動にテクノロジーの進歩と社会への浸透、少子高齢化、孤独の増加、人生100年時代の到来etc……。変化の波が次から次へと押し寄せる時代を生き抜くため、近年、教育や人材育成の現場では「生きる力」や「人間力」を養う学びに注目が集まっています。 そんななか、離島経済新聞社が注目したいのは学びの場としての島。厳しくも豊かな自然が間近に存在し、人と人が助け合い支え合う暮らしのある離島地域には、先人から継承される原初的な知恵や、SDGsにもつながる先端的なアイデアや挑戦があふれています。本特集では全国の島々にある学びのプログラムや、それらを運営する人々を取材。「島だから学べること」を紹介します。

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