つくろう、島の未来

2022年12月02日 金曜日

つくろう、島の未来

1万2,000人あまりが暮らす沖永良部島(おきのえらぶじま|鹿児島県)では、知名町・和泊町がともに環境省の脱炭素先行地域に選出されるなど、持続可能な未来づくりが進んでいます。

ほかにも企業と連携したSDGs事業や、社会的評価の高いビーチクリーン活動など、さまざまな取り組みが生まれる島には「酔庵塾(すいあんじゅく)(※)」という学び舎が存在します。

塾長は東北大学名誉教授でネイチャー・テクノロジーを研究する石田秀輝先生。「島に学びにきた」という石田先生と、先生に学ぶ島人に、リトケイ編集長が話を聞きました。

酔庵塾とは?
2014年にスタートした「子や孫が大人になったときにも笑顔あふれる美しい島つくり」をテーマに開催される私塾。日本の文化を創り上げてきた暮らし方の価値が残る沖永良部島で、地球環境制約のなか心豊かに暮らすためにどうしたらよいかを考え実践するべく、月1回の塾や年1回のシンポジウムを開催。過去100回近く開催され、リアルでは毎回20〜30名、オンラインで50〜100名以上が参加。国内だけでなく海外からの受講生も訪れる

※ページ下の「特集記事 目次」より関連記事をご覧いただけます。ぜひ併せてお読みください。

※この記事は『季刊ritokei』39号(2022年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

>>前回:「学びの最前線。隠岐島前にみる「問い」というキーワード【特集|島だから学べること】」はこちら

登場人物

石田秀輝(いしだ・ひでき)さん
1953年岡山県生まれ。伊奈製陶株式会社(現LIXIL)取締役(CTO最高技術責任者)、東北大学大学院環境科学研究科教授を経て、現在は東北大学名誉教授、京都大学特任教授、合同会社地球村研究室代表社員ほか。
2014年に沖永良部島へ移住。著書に『光り輝く未来が、沖永良部島にあった!』(ワニブックス/2015年)、『2030年の未来マーケティング』ワニプラス(2022)ほか多数


古村英次郎(ふるむら・えいじろう)さん
沖永良部島出身。国内外でのガイド業や旅行会社勤務を経てUターン。
和泊町・知名町の観光協会を統合した、おきのえらぶ島観光協会初代事務局長を経て現在は株式会社オールディビレッジ代表取締役。「確かな未来は懐かしき過去にある」を基本理念に観光ガイドや各種コーディネート等を手がける


竿智之(さお・ともゆき)さん
沖永良部島出身。一男三女の父。ウジジ浜の清掃活動を行う「うじじきれい団」の運転手兼目覚まし係兼保護者。一般社団法人UP HOME WORKs代表理事。酔庵塾事務局長。美容室PEACE CUTSオーナー。
海洋漂着ゴミ問題を、海の生物目線で捉える子どもたちのストレートな想いを、毎日せっせと拾い集めるのが日課

聞き手

鯨本あつこ(いさもと・あつこ)
2010年に離島経済新聞社を創業。NPO法人離島経済新聞社代表。『ritokei』統括編集長。子育てを機に2014年よりテレワークを開始。九州を生活拠点に東京はじめ全国の島々を飛びまわる

これまで開催された塾テーマで、島の反響が大きかったものはありますか?

最近だったらカーボンニュートラルですが、農業とか発達障害がテーマの時なども反応が大きかったような気がします。やはり、島の人たちが実際に困っているテーマだとたくさん来てくれますね。

酔庵未来塾の開催風景。今年8月に開催された第87回テーマは「ロシアのウクライナ侵攻を脳科学で考えてみると…?」と「EV-バイクを活用した新しい移動のカタチ」。世界的な話題から島規模の話題まで幅広い視点で、学びを得ることができる

農業の回は6〜7年前に行なったものですね。農業では最終的に、島の中でどれだけ島のものを循環させられるかがテーマになるので、当時も熱い議論ができていたんですが、それからなかなか進んでいなかったところ、今度はカーボンニュートラルというテーマが生まれたので、もう一度議論ができるところにきました。

遠い場所から燃料やコストを掛けてやってくるものに依存しない循環を、どのように展開するのかと。

そんな酔庵塾では教える立場にいらっしゃる石田先生が、反対に島から学ばれていることは?

日本の文化には44要素あるんですけれど(※)、沖永良部島にはそのうちの30もの要素が残っていて、とんでもなく濃いんです。だから僕はそれを学ぶためにここに移住してきました。想定はしていましたが、島で体感しているのは、いかに自分に生きるという能力が無いかです。

※ 塾長・石田秀輝ら研究者が、90歳へのヒアリングによって可視化した「日本の文化を創り上げてきた暮らし方の価値」。「1.自然に寄り添って暮らす」「16.何でも手づくりする」など、自然・人・暮らし・仕事・生と死のそれぞれとの関わり方として44要素が挙げられる

戦前に成人し1960年代に40代を過ごした人々(2013年調査当時で90歳前後)600人超に対し、石田先生らが聞き取り調査を行い明らかにした「日本の文化を創り上げてきた暮らし方の価値」の44要素。このうち30もの要素が沖永良部島に残っている

能力がない?

何もできないんです。僕は島の人ではないので、島での生き方を全然知りません。笑い話のようですが、集落の人からは僕が何かできないと「お前本当に大学行ったのか?」と言われます。

島で生きていくために、魚や鶏はさばけるようになったけど四足はまださばけない。そうした術をここで教えてもらっているわけで、大学教授をやっていることなど通用しないのです。

先生は島に学び、島の方は先生に学ばれているのですね。塾を続けて感じる変化は?

「とにかく未来のことを考えなきゃ」という人が多少なりとも増えているのではないのかなと思っています。

4月に初めて2町が一緒になって脱炭素先行地域に選ばれたことも、沖永良部島としてアクションできるようになってきたからかと。

古村さんや竿さんはどう感じていますか?

全然違いますね。石田先生の話や竿さんの活動を知って島に来る人も多くて、取り組みを見に来る人が増えています。

僕はよその地域をまあまあ見ていますが、1万人規模の地域と比べても、おもしろい人が多いことは自慢です。

島の未来を考えるときの「考え方」みたいなものが浸透してきていると感じています。未来の捉え方とか考え方は、酔庵塾でずっとやっているので、高校生でもポイントを外さずに島の良さを語れたりします。

石田先生はずっと「子や孫が大人になる頃までに」とおっしゃっているので、僕が子で、うちの子どもたちが孫だと勝手に思っていて、みんなで考え続けることが大事なんだと解釈しているので、塾で教えてもらったことを子どもたちにシェアして、色々やっています。

それがうじじきれい団(※)にもつながるんですね。

※ 夏休みの作文の題材として漂着ごみを拾いはじめたことをきっかけにスタートした清掃活動。2017年の開始以来、毎朝15分ほぼ毎朝行われている。環境保全活動として数々の賞を受賞

自宅前のウジジ浜を清掃するうじじきれい団

子どもたちがビーチクリーンを始めた時に、早い段階で石田先生に相談をしました。子どもたちにごみを拾わせてよいものか?とか、(ごみ袋を買う)お金も自分で払いたいと言っているけどよいものか?とか。

そういったことを、先生や周りの人に相談すると「いいんじゃない?」「子どもたちがやりたいなら応援してあげたら?」と後押ししてもらえたから、迷わずに続けられていると思っています。

>>次回:「島に学ぶ先生と先生に学ぶ島人の化学反応(後編)【特集|島だから学べること】」に続く

特集記事 目次

特集|島だから学べること

地球レベルの気候変動にテクノロジーの進歩と社会への浸透、少子高齢化、孤独の増加、人生100年時代の到来etc……。変化の波が次から次へと押し寄せる時代を生き抜くため、近年、教育や人材育成の現場では「生きる力」や「人間力」を養う学びに注目が集まっています。 そんななか、離島経済新聞社が注目したいのは学びの場としての島。厳しくも豊かな自然が間近に存在し、人と人が助け合い支え合う暮らしのある離島地域には、先人から継承される原初的な知恵や、SDGsにもつながる先端的なアイデアや挑戦があふれています。本特集では全国の島々にある学びのプログラムや、それらを運営する人々を取材。「島だから学べること」を紹介します。

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