つくろう、島の未来

2022年12月06日 火曜日

つくろう、島の未来

1万2,000人あまりが暮らす沖永良部島では、知名町・和泊町がともに環境省の脱炭素先行地域に選出されるなど、持続可能な未来づくりが進んでいます。

ほかにも企業と連携したSDGs事業や、社会的評価の高いビーチクリーン活動など、さまざまな取り組みが生まれる島には「酔庵塾(すいあんじゅく)(※)」という学び舎が存在します。

塾長は東北大学名誉教授でネイチャー・テクノロジーを研究する石田秀輝先生。「島に学びにきた」という石田先生と、先生に学ぶ島人に、リトケイ編集長が話を聞きました。今回は後編をお届けします。

酔庵塾とは?
2014年にスタートした「子や孫が大人になったときにも笑顔あふれる美しい島つくり」をテーマに開催される私塾。日本の文化を創り上げてきた暮らし方の価値が残る沖永良部島で、地球環境制約のなか心豊かに暮らすためにどうしたらよいかを考え実践するべく、月1回の塾や年1回のシンポジウムを開催。過去100回近く開催され、リアルでは毎回20〜30名、オンラインで50〜100名以上が参加。国内だけでなく海外からの受講生も訪れる

※ページ下の「特集記事 目次」より関連記事をご覧いただけます。ぜひ併せてお読みください。

※この記事は『季刊ritokei』39号(2022年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

>>前回:「島に学ぶ先生と先生に学ぶ島人の化学反応(前編)【特集|島だから学べること】」はこちら

登場人物

石田秀輝(いしだ・ひでき)さん
1953年岡山県生まれ。伊奈製陶株式会社(現LIXIL)取締役(CTO最高技術責任者)、東北大学大学院環境科学研究科教授を経て、現在は東北大学名誉教授、京都大学特任教授、合同会社地球村研究室代表社員ほか。
2014年に沖永良部島へ移住。著書に『光り輝く未来が、沖永良部島にあった!』(ワニブックス/2015年)、『2030年の未来マーケティング』ワニプラス(2022)ほか多数


古村英次郎(ふるむら・えいじろう)さん
沖永良部島出身。国内外でのガイド業や旅行会社勤務を経てUターン。
和泊町・知名町の観光協会を統合した、おきのえらぶ島観光協会初代事務局長を経て現在は株式会社オールディビレッジ代表取締役。「確かな未来は懐かしき過去にある」を基本理念に観光ガイドや各種コーディネート等を手がける


竿智之(さお・ともゆき)さん
沖永良部島出身。一男三女の父。ウジジ浜の清掃活動を行う「うじじきれい団」の運転手兼目覚まし係兼保護者。一般社団法人UP HOME WORKs代表理事。酔庵塾事務局長。美容室PEACE CUTSオーナー。
海洋漂着ゴミ問題を、海の生物目線で捉える子どもたちのストレートな想いを、毎日せっせと拾い集めるのが日課

聞き手

鯨本あつこ(いさもと・あつこ)
2010年に離島経済新聞社を創業。NPO法人離島経済新聞社代表。『ritokei』統括編集長。子育てを機に2014年よりテレワークを開始。九州を生活拠点に東京はじめ全国の島々を飛びまわる

島で暮らしているとどうしても視野が狭くなりがちなところ、塾を通じて地球規模の知見が交わることで、色々な可能性が広がっているように感じます。

ニュートラルな情報ってどうやって知れるか分からないんです。

酔庵塾で色々なことを知れるのはありがたくて、だから悩まずに進めているような気がします。

最近、東京から来た経営者の方々から、島のことをすごく褒めていただいたんですよ。昔は島国根性で負けるもんか!と頑張っていたことが、今は自分たちが誇りをもって頑張れるような褒め方をしてくださる。

逆に言うと、どれだけ東京周りの人たちは病んでいるのかということです。正直、僕らにとっては普通なんだけど、と感じることもあります。

そんな都会の方が島に学べることは何でしょう?

圧倒的に生き方、生き様ですね。生きていくことを学ぶのは島しかない。お金がなくてもコミュニティにちゃんと入れると、生きていけるよとかね。

あるいはコミュニティでちゃんと評価されるのはどういうことですか?ということ。都会にいるとお金がないと生きていけないので、お金を稼ぐことが中心になっちゃいます。

そこは絶対的な差で、ここでの当たり前が、都会では当たり前ではない。古村さんも言うように、都会の人が何でそんなに感動するのか、島の人は分からない。そのギャップを知ることはとても大事だろうね。

それを僕らはどういう風にして島の人に伝えるべきなのか。その伝え方が僕にとっては喫緊の課題だと思ってます。

島にある当たり前と、都会の当たり前ともいえる経済社会が交わるとき、その折り合いをどうつけていけばよいのでしょう。

ある意味、その折り合いをつけてどっちから見てもわかるものさしをつくっているのが酔庵塾の仕事です。

島は島だものと、何となく言っていたものを、何となくではなくて論理的に示す。島にあるもののものさしをきちっとつくってお話をする。

両者が理解できるように努力をしているのが、酔庵塾だと思うのです。

そこで島にもともとあるものを再評価していらっしゃる?

再評価ではなくて、先達がつくりあげてきた本当に素敵な文化を、未来の子どもたちに渡せるように仕立て直すのが僕たちの仕事だと思います。

カーボンニュートラルの話にしても、もともと島は持続可能だったわけです。それを色々なところから、色々な物を入れ始めてお金が島からじゃぶじゃぶと外に流れていくようなことにしてしまった。

50年前は持続可能な島だったわけですが、だからといって50年前に戻るのではなくて、50年前の文化を進化させる概念でやらないと。

なるほど。叶うことなら酔庵塾の名の下、お酒を飲みながらずっと耳を傾けていたいお話です。

お金じゃない話がしたいよね。

うち(うじじきれい団)では「ビーチクリーンをしていると、みんなからすごく褒めてもらえて、ラッキーだよね」という話を子ども達によくしてます。「こんなに皆さんから褒めてもらえて、ありがたいね」と。

ものすごい成功体験だと思うよ。

竿家の当たり前が、世の中からするとすごい驚きになっているということですよね。

なぜ褒められるのだろうと、みんなで一生懸命議論することが大切ですね。

確かに。そこまで話をしたこと はないかもしれないですね。

そろそろ議論できてもいいでしょう。だって古村さんのお母さんだって毎日ごみを拾っているのに、なんでうじじきれい団だけ褒められるのか。

そういう議論ができると、次のステップが見えてくるかもしれない。それこそがFSR(※)なんだよ。

※ FSR(ファミリー・ソーシャル・レスポンシビリティ/家族の社会的責任)。CSR(企業の社会的責任)をヒントに、竿家の活動方針として掲げられている

そうですね。「めっちゃラッキーだな」と片付けていました。

行動だけで終わってはだめ。何でも考えなければいけないんだよ。

きっとこうした会話から新しい化学反応が生まれてくるんですね。

そういえば、国連が2015年にSDGsを発表したとき、2016年には先生を通じて僕たちの耳に入っていました。

僕はその当時、島に落とし込もうとしたけど、とんでもなく早かったので、みんなクエスチョンマークで「どこぞの宗教に入ったのかと思った」と言われたのを強烈に覚えています。

最近は当たり前になっていますが、僕らはずっと前から石田先生から聞いているわけで、このありがたさに尽きる。

カーボンニュートラルの話も、僕らは早くから指針を預けてもらえたからやれているんです。

半歩先の未来をみんなが理解できる範囲で議論していき、そのなかで島が徐々に変わっていき、色々な人から憧れられる島になればいい。

そうなるときっと、なんであの島はあんなに素敵なんだろうと思う人がまた、学び始めますよ。

学びの連鎖ですね。沖永良部島から巻き起こる化学反応が、世界に広がってゆくことに期待します。

>>次回:「手に負えない自然のなかで知識が知恵に代わる学びを【特集|島だから学べること】」に続く

特集記事 目次

特集|島だから学べること

地球レベルの気候変動にテクノロジーの進歩と社会への浸透、少子高齢化、孤独の増加、人生100年時代の到来etc……。変化の波が次から次へと押し寄せる時代を生き抜くため、近年、教育や人材育成の現場では「生きる力」や「人間力」を養う学びに注目が集まっています。 そんななか、離島経済新聞社が注目したいのは学びの場としての島。厳しくも豊かな自然が間近に存在し、人と人が助け合い支え合う暮らしのある離島地域には、先人から継承される原初的な知恵や、SDGsにもつながる先端的なアイデアや挑戦があふれています。本特集では全国の島々にある学びのプログラムや、それらを運営する人々を取材。「島だから学べること」を紹介します。

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