つくろう、島の未来

2020年07月15日 水曜日

5月25日、東京・神奈川・千葉・埼玉・北海道で続いていた改正新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急事態宣言が解除され、先月7日に出された同宣言が、約1カ月半ぶりに全面解除となった。

しかし、6月18日までは首都圏と北海道への移動自粛が継続され、感染拡大のリスクもゼロではないことから、離島地域への渡島には引き続き慎重な声も聞こえる。

観光業が盛んな島の多くは、例年ならゴールデンウィーク頃より本格的な観光シーズンを迎えるが、今年は多くの事業者が苦戦を強いられている。

そんな中、屋久島(やくしま|鹿児島県)ではオンラインを駆使したさまざまなイベントが展開され、活気を帯びている。屋久島で開催されているオンラインイベントを取材した。

来島自粛に負けない!オンラインを駆使してつながる人々

1993年、青森県と秋田県にまたがる白神山地とともに日本初の世界自然遺産に登録された屋久島は、平成30年度は約28万人(令和元年度版『統計屋久島町』屋久島入込客の推移)が訪れた観光の島だが、4月9日に町長が来島自粛のメッセージを発信し、現在も県をまたいだ来島自粛が呼びかけられている。

来島者が影を潜める屋久島で、盛り上がりを見せているのがオンラインイベントだ。

5月10日に開催された「屋久島ナイト」は、福岡市内の飲食店「喫茶とスナック nayuta」と屋久島のゲストハウス「屋久島サウスビレッジ」、同じく屋久島のアウトドアガイド「島結-SHIMAYUI-」の共催で開かれた。

もとは「屋久島サウスビレッジ」を経営する阪根充さんと「喫茶とスナック nayuta」の店主 葛西敬子さんの親交をきっかけに、福岡市内でリアルイベントとして企画されていたが、新型コロナの影響で中止となったため、オンライン企画に切り替えたという。

参加費は1,000円から1万円。2,000円以上のチケットには「島結-SHIMAYUI-」の屋久島グルメや「屋久島サウスビレッジ」の宿泊割引券や島内ツアーの割引券が届く仕組みだ。

5,000円チケットで届く、特産品のトビウオを使った産品や宿泊割引券

日本から、世界から、屋久島の森歩きをバーチャル体験

当日20時にオンライン会議システムのURLにアクセスすると、主催者や参加者など10名ほどが画面に映し出された。

参加者は、東京、福岡、鹿児島などに居住する7名。ほとんどが「まだ屋久島に行ったことがない」と話し、SNSで告知を見かけて申し込みをしたという参加者もいた。

それぞれが自宅から屋久島の森歩きを体験するバーチャルツアーは、「喫茶とスナック nayuta」のある福岡市内から屋久島へ渡る体験からスタート。

「屋久島ナイト」でのバーチャルツアー画面。まずは福岡市内から屋久島へ向かう

福岡から屋久島への空路は1日1本あり、鹿児島とつながる定期船も運行しているが、緊急事態宣言の発令中はいずれも減便され「ゴールデンウィーク中はガラガラだった」という説明を耳に、福岡空港から空路で屋久島に渡り、屋久島空港到着後、阪根さんが経営する「屋久島サウスビレッジ」にチェックイン。

20時台という時間帯を生かし、坂根さんは画面越しにゲストハウス内を案内しながら、明朝から屋久島の森に出掛けるために必要な装備や、出発時間などのアナウンスを行った。

屋久島側で参加者を受け入れる屋久島サウスビレッジのスタッフ一同

「島結-SHIMAYUI-」の笹川健一さんに進行が切り替わると、参加者から「雨の日は楽しいですか?」と質問が。笹川さんは「かつてないほどの雨をあびる経験になるかもしれませんが、水たまりにあえて突っ込んでいく人も出てきます。子ども心に帰るような瞬間も面白いですよ」と回答。

「タオルは何枚いりますか?」という質問には、「1枚あれば良いですが、せっかく持ってきたタオルも水浸しになることがあるのでビニール袋に入れていた方が良いです」「貴重品はいちいちビニール袋にいれておきましょう」と当日のガイドさながら臨場感たっぷりに答え、参加者の気持ちを高ぶらせた。

その後、バーチャルツアーは翌朝の設定へと切り替わり、笹川さんは白谷雲水峡までの道のりを、写真や映像、音声を駆使しながら案内。

バーチャルツアーで白谷雲水峡へ向かう風景

参加者は深い緑に包まれた屋久島の森に、美しい川のせせらぎ、ヤクシマザルとの遭遇などを楽しみながら、バーチャルツアーを楽しんだ。

途中、通信トラブルに見舞われると「離島ならではの電波の悪さもお楽しみいただけたら」「通信トラブルは屋久島あるあるですね(笑)」と和やかなムードでオンラインイベントは進行した。

「屋久島ナイト」の参加者

全3回開催された屋久島ナイトでは、東京、福岡、兵庫、和歌山、愛媛、埼玉、千葉から遠くスウェーデンからの参加もあり、のべ19人が屋久島の森をバーチャルで体験した。

坂根さんは「世の中はコロナ騒動の真っ只中ですが、屋久島の自然はいつもとかわらず存在しています。この世界を必要としている人に(リアルに)体験してもらえないということが観光業に携わる人間としては悔しいので、(オンラインイベントで)屋久島の空気が少しでも届いていれば。次は本物の空気を感じに屋久島に来て欲しいです」と話した。

海遊びや森と海のつながりをオンラインで届ける「オンライン遊漁体験」

「屋久島ナイト」に現地側から参加していた中島遼さんも、オンラインイベントを企画するひとりだ。

北海道出身の中島さんは2016年に屋久島に移住。昨年、屋久島育ちの男性と結婚し、家族とともに「漁師の暮らし体験宿 ふくの木」「遊漁船さかなのもり」の立ち上げに携わっている。

「漁師の暮らし体験宿 ふくの木」の風景(画像提供・中島遼)

地元メディアのライターとしても活動する中島さんは、「屋久島の魅力を伝えたい。より良い屋久島にしていくためにできることをやっていきたい」と話し、この春、漁師である義父と、島の漁師仲間とともに遊漁体験を提供する「遊漁船さかなのもり」と宿泊施設「漁師の暮らし体験宿 ふくの木」を開業する予定だった。

しかし、新型コロナの影響により春夏にかけて予定していた開業はいずれも未定に。

困惑する時間のなか、親交のあった旅行会社や漁師仲間との会話から「屋久島に来たくても来れない人に海や魚の魅力を伝えよう」と、オンラインで遊漁体験を提供するアイデアがまとまった。

「遊漁船さかなのもり」での遊漁体験イメージ(画像提供・中島遼)

「オンライン遊漁体験」は7名限定。参加費は3,000円だが、申し込んだ参加者には屋久島の鯖節や魚醤、塩など海の幸が詰まったギフトと「遊漁船さかなのもり」もしくは「漁師の暮らし体験宿 ふくの木」の割引券3,000円分が届けられる。

「屋久島には九州で一番標高の高い山があり、そこから海までがぎゅっと凝縮された地形も特徴です。森と海の距離が近く、森のおかげで存在する海の豊かさがあることを、体験を通して知ってもらえたら」と中島さん。

初めての取り組みのため不安もあるが、当日は、屋久島の森と海のつながりを感じることができるスポットを訪れ、島の子どもたちにとってポピュラーな屋久島の自然を使った遊びや釣り体験をオンライン越しに提供する予定だ。

海から九州で最も標高の高い宮之浦岳までが一気につながる屋久島(画像提供・中島遼)

中島さんは遊漁体験を通じて「魚釣りを楽しむだけではなく、自然に対する感謝も感じてもらいたい」と話す。「自然はすべてがつながっていて、循環しています。そのことを分かってもらえたら、日々の行動の中で何かを選択するときに、自然にやさしい選択もしていただけると思います」。

参加者を屋久島へ導く「オンライン屋久島祭り」

オンライン遊漁体験の開催は5月31日だが、今月末はほかにも屋久島のオンラインイベントが開催される。

5月30日には島で唯一の女性漁師が屋久島特産のトビウオを使った料理をオンライン越しに伝授する企画や森の音楽会イベントも企画され、5月31日にはリモートワークやワーケーションを体験できるオンラインイベントなど、多数のオンラインイベントが予定されるため、中島さんらはこの期間を「オンライン屋久島祭り」と呼んでいる。

本来、島で体感できることのすべてをオンラインで体験してもらうことは不可能だが、オンラインイベントをきっかけに生まれる島との縁やリアルな体験への渇望は、その後、参加者を島に導く強力な磁石となるはずだ。


【関連サイト】
屋久島サウスビレッジ
Remote Travel 最終夜!”屋久島サウスビレッジ” @屋久島
島結-SHIMAYUI-
遊漁船さかなのもり facebookページ
漁師の暮らし体験宿 ふくの木

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