つくろう、島の未来

2024年12月08日 日曜日

つくろう、島の未来

人々の移動や3密(密集・密接・密閉)の回避が求められた今年、例年であれば各地で開催される移住フェアは軒並み中止となり、移住体験ツアー等、地域と人がつながる機会も減っています。

そんな最中、オンラインで移住相談会を開催する「オンライン全国移住フェア」(主催・LOCONECT事務局)が山口県の島・周防大島で企画されました。

北海道から沖縄まで60を超える団体が出展するというオンライン全国移住フェアの主催者・LOCONECT事務局の泉谷勝敏さんに話を伺いました。

泉谷勝敏(いずたに・かつとし)さん。大阪府堺市出身。証券会社勤務などを経て2007年に周防大島町に移住。ファイナンシャルプランナーとして起業し、周防大島町定住促進協議会に参画。総務省地域力創造アドバイザーとして全国を飛び回るなど、幅広く活動されています

今こそ伝えたい「地方の暮らし」

リトケイ

「オンライン全国移住フェア」を思い立ったきっかけを教えてください。

泉谷

(コロナの影響で)移住フェアが軒並み中止になり、もともと5月31日に開催予定だった大阪のフェアも中止になりました。

ですが、僕の肌感覚では移住希望者は増えている状況で、(周防大島町への)お問い合わせも減っていません。

東京には外出自粛でどこにもいけない人がたくさんいますが、周防大島の生活は(緊急事態宣言の最中も)あまり変わっておらず、いつも通り畑仕事をしたり、家族でバーベキューを楽しむ人がたくさんいます。こんな今だからこそ、(地方の暮らしを)伝えるべきだと思いました。

泉谷さんが暮らす周防大島の風景(写真提供・LOCONECT事務局)

泉谷

通常なら1週間くらいかけて企画を練っていますが、(コロナ禍にある)今はスピードが大事なので、短時間でフェアを企画して動きだしました。

リトケイ

すごい行動力ですね。現時点で、60団体以上から出展のお申し込みがあったとのこと。移住フェアなどでは通常、出展料がかかるところ無料にされたのはなぜでしょう?

泉谷

大きな予算をかけて開催されるイベントだと、出展料だけで数十万がかかってしまうので、それだと予算のある団体しか参加できません。

僕らのような移住者を受け入れてくれるのは、地方で小さなまちづくり団体をしているような人なので、(移住者にとっても)そうした人とのつながりが大事だと思っていました。

(移住フェアに)出展料をかけてしまうと、過疎地域の小さな団体が出展できなくなるので、出展料はとらない! とやってしまったんです。

リトケイ

「やってしまった」なんですね。

泉谷

はい(笑)。現時点で60団体の申し込みがあり、ここ2日で10団体増えました。僕の事務作業が増えるだけなので、まだ大丈夫なんですが。

リトケイ

すごいですね。島根県や広島県など県単位での出展もありますが、小さな団体の出展もありますね。

愛媛県の大三島、広島県の百島と因島はじめ、長崎県の五島市や沖縄県の久米島町など離島地域の団体も多数出展(写真提供・LOCONECT事務局)

泉谷

はい。出展する地方の担当者には「どうやって発信しようか?」というPR方法を、自分たちで考えるくせをつけてもらいたいと考えているので、60団体あれば60通りの言葉で伝えてもらえるよう、出展者のみなさんにお願いしています。

リトケイ

オンラインとはいえ、ものすごい大きなフェアになりそうです。もともと、オンラインイベントはよく開催されていたんですか?

泉谷

いえ、周防大島は(本土と)橋も架かっているので、これまではそこまでのこと(=オンラインイベント)はしなくていいかなと思っていました。

だけど、コロナをきっかけに移住相談などでもオンラインを活用し始めました。移住体験ツアーをYOUTUBEライブで配信したり、他の島の方とオンラインで島の風景を見せ合ったり、今回を機にできることの幅が広がったように感じてます。

オンライン全国移住フェアでは、島の仲間に教えてもらった「Discord」というアプリを使用しますが、(この規模のオンラインイベントは)はじめての経験になります。

オンライン全国移住フェアの画面イメージ。掲示板を閲覧するイメージで出展者のブースを訪れ、情報収集ができるほか、担当者とオンライン通話をつなぎ1対1で会話をすることができる(写真提供・LOCONECT事務局)

リトケイ

出展は無料ですが、参加希望者は1000円の参加費がかかるんですね。

泉谷

通常の移住フェアは逆で、参加者のほうが無料で参加できますが、それだとノベルティだけをもらいにくるような人も少なくありません。

お金をいただくことで、ハードルはあがりますが、それだけ(地方移住について)本気の人だけが集まるイベントにできると思います。

リトケイ

泉谷さん自身も、周防大島町の移住窓口で移住希望者とのやりとりをされているそうですが、島への移住促進について普段から考えていることはありますか?

泉谷

「島暮らしは楽しいですよ」など、あまり夢を見せたくないと思っています。実際、そんなによかったら過疎化していませんし、リアルな部分も伝えたいです。

都会に暮らす人のなかには「田舎は聖なるところ」と思っている人もいますが、田舎には俗っぽいところもたくさんあります。(田舎のイメージを)上げる必要もなく、下げる必要もなく、普通に島を見て欲しいですね。

周防大島の風景(写真提供・LOCONECT事務局)

リトケイ

それでも泉谷さんが見て欲しい部分はありますか?

泉谷

不便だからこそ人のつながりがあることをみてほしいです。

都会が「豪華客船」なら、地方は「穴の空いた船」だと思うんです。豪華客船は沈まないけど、自分で舵を取っていないのでどこに向かうかわかりません。

穴の空いた船は、みんなで穴を塞ぎ続けないと沈んでしまいます。でも、地方に移住している人って、豪華客船で息苦しさを感じて自分の居場所を探しているような人だと思うんです。

それに、元気な地域をみると、穴を塞がないと船が沈んでしまう危機感はあっても、悲壮感はないんですよね。

リトケイ

確かに。元気な地域からは悲壮感を感じません。泉谷さん自身は、周防大島町がどんな島であって欲しいと考えていますか?

泉谷

自分の集落のおじいおばあが「いい島だった」と言って死ねるようにすることと、自分の子どもたちが「自分は島出身だ」と胸を張って言えるようにしてあげたい。あとは、島の子どもたちが東京などに出ても、帰って来れる島にしたいですね。

周防大島町内で仕事中の泉谷さん(写真提供・LOCONECT事務局)

リトケイ

最後に、島や地方への移住を考えていらっしゃる方へのメッセージをお願いします。

泉谷

こういう状況が、改めてワークライフバランスや暮らし方を見直すきっかけになればと思います。

移住するか否かは別として、情報収集は大事ですし、北海道から沖縄までの話を1日で聞くことができるので、ぜひ参加してください。


【関連サイト】
オンライン全国移住フェア(LOCONECT事務局)

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