リトケイが一般社団法人Chefs for the Blue(シェフスフォーザブルー、以下C-BLUE)と協力して進めている、島々の魚を使ったおいしく食べて海もよろこぶ商品開発。
このプロジェクトでは、対馬島(つしまじま|長崎県)のアイゴ、弓削島(ゆげじま|愛媛県)のチヌ、与論島(よろんじま|鹿児島県)のテングハギという3島3種の魚を使ったレトルト商品の開発を進めています。
おいしく食べられるレトルト商品をつくるため、どのような工夫を凝らしたのか。外食業界でさまざまな加工品の企画・開発に携わってきたC-BLUEの松尾琴美さんと、代表の佐々木ひろこさんに話を聞きました。
2021年より「島の魚食」を盛り上げるプロジェクトを継続するリトケイは、豊かな海と日本の魚食文化を未来につなぐことをミッションに活動するC-BLUEと共に、島々の未利用魚や低利用魚を活用したサステナブルで海の学びにつながる商品づくりに取り組んでいます。
本企画は、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。
取材・ritokei編集部 文・べっくやちひろ
人物紹介
一般社団法人Chefs for the Blue(シェフスフォーザブルー、以下C-BLUE)
代表理事 佐々木ひろこさん
食文化やレストラン、食のサステナビリティ等をテーマに活動するフードジャーナリスト。2017年よりシェフ達とともにC-BLUEを立ち上げ、豊かな海を取り戻し食文化を未来につなぐための活動を続けている。農林水産省 水産政策審議会特別委員。
C-BLUE
商品開発担当 松尾琴美さん
バイヤーとして日々産地を巡りながら、「未来も美味しい食」を目指して様々な商品の企画/開発に携わる。2023年よりC-BLUEに参画。お気に入りの島は、奄美大島。
NPOリトケイ
編集部 石原みどり
『ritokei』で編集・記事執筆。本プロジェクトでは広報を担当。離島の酒とおいしいもの巡りがライフワークの食いしん坊。著書にくじらとくっかるの島めぐり あまみの甘み あまみの香り 奄美大島・喜界島・徳之島・沖永良部島・与論島と黒糖焼酎をつくる全25蔵の話』(共著・鯨本あつこ、西日本出版社)。
シェフの力と外食産業の経験が掛け合わさり、プロジェクトが実現
松尾さんは、このプロジェクトが始まるのとほぼ同時期にC-BLUEに参画されているんですよね。どのような経緯で加わったのか聞かせていただけますか。
私はこれまで外食産業で商品開発に携わってきました。魚がどんどん仕入れにくくなる中で未利用魚・低利用魚に目を向けることの大切さに気づき、本業のほうでも未利用魚を使ったメニュー開発を担当していたんです。
その経験やスキルを活かせるのならと思い、以前から活動に共感していたC-BLUEに参加させていただくこととなりました。
レシピの提供はシェフの力をお借りできますが、加工品の開発はまた別の知見が必要です。なので、私たちにとってもこの取り組みは大きなチャレンジでした。松尾さんは外食産業で商品開発の経験を持っているので、彼女がジョインしてくれたのは大変ありがたいことでした。
プロジェクトでは、恵比寿のフレンチレストラン「アムール」の後藤祐輔シェフに島々の未利用魚や低利用魚をおいしく食べるレシピ開発をしていただきました。たくさんのシェフが在籍している中で、後藤シェフが参加することになったのはどうしてでしょうか。
後藤シェフはフランス料理人としての実力はもちろんのこと、一般の方向けのレシピを多く手がけられていて、また市場で求められているものに応じて柔軟な視点でメニューを考案されてきた実績があります。目的がはっきりしている今回のプロジェクトには、ぜひ後藤シェフの力をお借りすべきだと考えました。
また社会課題に対してアンテナが高いことや、島の文化や島のめずらしい魚に興味をお持ちだったことも、今回のプロジェクトにぴったりでした。
社会課題への貢献とおいしさを両立するために
アイゴ(対馬)、チヌ(弓削島)、テングハギ(与論島)と3つの島の魚を使った商品を開発するにあたって、大変だったのはどんなところですか?
今回のプロジェクトにおいては、おいしさはもちろん、3島の魚のメニューにそれぞれわかりやすい違いを出すことが難しいポイントだったと思いますが、どんな魚でも暖かく受け入れてくださる後藤シェフの柔軟さにとても助けられました。中華風、クラムチャウダー、フランス風煮込みなど、どうすればおいしくなるかを考えて、味のバリエーションをいろいろ提案していただきました。
3種の中で特に大変だったのはアイゴですね。海の砂漠化を止めるためにうまく消費しなければならない一方で、おいしく調理するのが簡単ではないことを改めて実感しました。今回はスパイスを使った煮込み料理にすることで、アイゴ独特のクセを抑えています。
レトルト加工は愛媛にある、長年お世話になっている加工会社さんにご協力をお願いしました。3種類のみ、しかも1つひとつの生産数も少なく、先方にとってはメリットの少ない案件だったと思います。
それでも「海の環境を守ることや漁師さんが暮らせることは自分たちにとっても身近な問題だし、プロジェクトに共感するから協力するよ」と前向きに受けてくださったので本当に感謝しています。
おいしいスープが、海を身近に感じるきっかけに
「海のごちそうフェスティバル2023」で初お披露目した「対馬島のアイゴと野菜の具沢山スープ」は、お子さまから大人の方まで非常に好評でした。おふたりは、今回のメニュー開発が海の未来にどのように貢献するとお考えですか。
私は魚を食べることも好きですし、それ以前に海が大好きです。海が身近にない人でも、まずは「この魚がおいしい」「あの魚がかわいい」とか、何でもいいので海や魚について知り、興味を持つことが「海を大事にしよう」と感じるきっかけになると思います。
今回はレトルトのスープを通じて島の魚を知っていただく機会をつくり、それが「海を守ろう」という気持ちにつながっていけばいいなと考えています。
日本の魚のすばらしさは、世界中のシェフが注目するほど貴重なもの。それは世界で6番目に広く多様性豊かなEEZ(排他的経済水域 ※)と、それを漁獲・利用するサプライチェーンの精緻な組み立て、料理人や消費者のリテラシー、すべてが組み合わさった奇跡的なバランスの上に成り立っています。
※ 天然資源の調査・開発や漁業活動の管理などの権利を沿岸国に認める水域。「海の憲法」とも呼ばれる国連海洋法条約に基づき、沿岸から200カイリ(約370キロメートル)までの範囲をEEZとして設定できる。離島もEEZの海域を決める基点となる
海の変化に対応しつつ、縄文時代から脈々と続いてきた魚食文化を継承して未来につなげるために、今回のような新しいメニューの考案を含め、私たちができることを探しながら実行していきたいですね。
今日はお話を聞かせていただき、ありがとうございました。お二人をはじめ、後藤シェフや愛媛海産さん、3島の生産者などたくさんの人たちの力を合わせてプロジェクトを形にできたことをありがたく思います。
島々の連なりである日本が紡いできた魚食文化のバトンを未来へ手渡せるよう、引き続き、よろしくお願いします!
海と漁業の課題をもっと知りたい方へ
海と漁業の課題をもっと知りたい方へ。C-BLUE佐々木さんおすすめの書籍をご紹介します。(紹介文作成・リトケイ編集部)
牧野光琢・著『日本の海洋保全政策』
環境、水産、国際連携、海洋エネルギーなど多様な分野について、最新の話題に触れながら統合的に体系化。海について学ぶすべての人たちへの羅針盤となる、海洋保全政策論。(東京大学出版会/税込2,860円)
https://www.utp.or.jp/book/b543360.html
ダン・バーバー・著 小坂恵理・訳
『サードフード・下 エシカルな食の未来を探して』
「ファーム・トゥ・テーブル(農場から食卓へ)」をうたい、食材への徹底したこだわりと美しい料理で知られるニューヨークの三ツ星レストラン“ブルーヒル”のシェフが、現代の食システムが抱える諸問題に切り込み、未来の食のあり方に迫る。下巻は先端技術と伝統を融合した「漁業」と「種の育成」について。(税込3,190円/NTT出版)
https://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100002545.html
長崎福三・著『システムとしての森-川-海』
伝統的に良いとされてきた漁場には植物プランクトンを豊富に含む水が流れ込み、上流には豊かな森林があった。本書では漁民による植林活動など、近年見直されてきた海と森の結びつきを実証的に解明。森・川・海をひとつのシステムとしてとらえ、地域の合意に基づく管理と利用を提言する。(税込2,043円/農文協)
https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_4540980246/
勝川俊雄・著『図解入門業界研究 最新漁業の動向とカラクリがよ~くわかる本』
かつて世界一の生産量を誇った日本の漁業が衰退する一方、他国では漁業は成長産業となっている。日本の漁業を再び成長させるための課題とは。日本の漁業の歴史、水産業の現状、漁業法の改正、国際的な漁獲規制などを解説する入門書。(税込1,650円/秀和システム)
https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798059211.html