つくろう、島の未来

2024年10月13日 日曜日

つくろう、島の未来

弓削島(ゆげじま|愛媛県)のチヌ、対馬島(つしまじま|長崎県)のアイゴ、与論島(よろんじま|鹿児島県)テングハギを原料に、Chefs for the Blue(シェフスフォーザブルー、以下C-BLUE)の協力のもと、C-BLUEのメンバーとして活動する後藤祐輔シェフがレシピを考案。3島3種の「おいしく食べて海もよろこぶお魚スープ」が完成しました。

シェフの考案したレシピをもとに、どんなアイデアや工夫で製品化を実現したのか。レトルト加工を担当した愛媛海産の大塚康仁さんと、製造サポートを担当したC-BLUEの松尾琴美さんに、商品開発の裏側や海に関わる仕事への思いを聞きました。

2021年より「島の魚食」を盛り上げるプロジェクトを継続するリトケイは、豊かな海と日本の魚食文化を未来につなぐことをミッションに活動するC-BLUEと共に、島々の未利用魚や低利用魚を活用したサステナブルで海の学びにつながる商品づくりに取り組んでいます。

本企画は、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。

リトケイとC-BLUEが開発した「おいしく食べて海もよろこぶお魚スープ」。
手前は、弓削島のチヌを使用した「弓削島ごろっとチヌとさつまいものクラムチャウダー」

瀬戸内の海に感じる変化

魚の卸や小売を営むなか、瀬戸内の漁師から「捕れすぎた魚が余り困っている」と聞き、加工品の開発を手がけるようになった株式会社愛媛海産代表の大塚さん。地元・瀬戸内の豊かな海の幸と共に事業を営んできましたが、年々、海の変化を感じていると語ります。

「35年前はキロ50円だったイイダコの漁獲量が落ち、今ではキロ5千円。市場で多く取引されていたサヨリやメバルなども見なくなりました」(大塚さん)。

温暖化による魚の生息域の変化や、それに起因する北上した魚による食害の可能性など、さまざまな原因が噂されるものの、かつて豊富な漁獲を誇っていた魚が姿を消した原因は、はっきりとは分からないと言います。

海の変化は漁獲量の減少だけにとどまらず、生態系の変化によって、瀬戸内海で盛んな海苔の養殖業にも影響が。

「近隣の漁連から養殖海苔の食害魚として問題になっているチヌの利活用について相談を受けたり、同じく海藻を食べるアイゴが近海で増えてきているので、活用を考えているところです」(大塚さん)。

愛媛海産のオンラインストアでは、さまざまな加工品を販売中

瀬戸内の豊かな海の幸を扱い、一般家庭で楽しむ食品としての商品企画や加工製造のノウハウを蓄積してきた同社ですが、近年の商品づくりでは、未利用素材の活用にも意識的に取り組んでいます。

本プロジェクトでは、同社の課題意識と経験を活かして、島々の未利用魚・低利用魚を活用したレトルトスープの加工製造を手がけていただきました。

シェフのレシピを再現するさまざまな工夫

海底から藻場が消えて海が砂漠化する「磯焼け」の一因とされ捕獲された弓削島のチヌと対馬島のアイゴ、下処理に手間がかかり低利用となっている与論島のテングハギ。

後藤祐輔シェフが考案したレシピを元にレトルトスープを製造する過程で、原料の中には、高温高圧のレトルト加工で独特のクセが出やすい魚種もあることが課題に。

キッチンで考案されたレシピを、工場での加工製造にどう落とし込むか、本プロジェクトでは、飲食業界で商品開発の経験を持つC-BLUEの松尾さんが、両者の間をつなぐ形でコミュニケーションをサポート。サンプルの試作を重ね、目指す味わいを実現しました。

レトルト食品の完成に向けた試食とレシピの調整(左から松尾さん、後藤シェフ)

「シェフがやりたいことと、加工現場でできることを考えながら、大塚さんとやりとりを進めました。一番難しかったのは、アイゴですね」と、松尾さん。アイゴは、切り身にした状態で一度オーブンで焼いてからスープに入れることで、独特のクセを抑えています。

クリームチーズでたっぷりとコクを出したチヌのスープは、油脂分が分離しやすいのが課題となりました。そこで、大塚さんが愛媛県産の「もち麦」でスープにとろみをつける方法を提案。

「このままでは目指す味にたどりつけないんじゃないか、どうしよう?と焦る瞬間もありましたが、一つひとつ、できる形を見つけて商品に落とし込んでいただきました」と松尾さんは振り返ります。

多地域連携で拓く、持続可能な漁業の可能性

「弓削島ごろっとチヌとさつまいものクラムチャウダー」「対馬島のアイゴと野菜の具沢山スープ」「与論島テングハギボールときのこのオニオンスープ」が完成。

それぞれの魚の風味を活かし、具沢山で食べ応えがあり、常温で半年間の保存が可能なレトルト食品に仕上がりました。

2024年2月23日(金・祝)〜25日(日)の三連休に開催された、魚屋サカナバッカでの試食販売会では、合計200食を販売。その名の通り「おいしく食べて海もよろこぶお魚スープ」は、多くの方に海の環境や島々の漁業をとりまく課題に目を向けていただくきっかけとなりました。

関連記事>>「魚屋sakana bacca」で同時開催!「おいしく食べて海もよろこぶお魚スープ」試食販売レポ

手前から時計回りに「弓削島ごろっとチヌとさつまいものクラムチャウダー」「与論島テングハギボールときのこのオニオンスープ」「対馬島のアイゴと野菜の具沢山スープ」

「加工場を持たない地域の魚でも、ある程度の量があれば、丸のまま冷凍して送り、常温のレトルト食品やパスタソース、生協などの宅配に向けた冷凍ミールキットなどの加工販売や、ものによっては愛媛海産の販売ルートへの流通も可能です」と大塚さん。

本プロジェクトで3つの島から集めた魚の商品化を実現できたことで、多地域を結んだ商品開発や販売の可能性も見えてきました。


【関連サイト】

>>株式会社愛媛海産
>>オンラインショップQUEEN MADE

     

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