つくろう、島の未来

2024年11月27日 水曜日

つくろう、島の未来

新上五島町(しんかみごとうちょう)地域おこし協力隊 兼 フリーライターの竹内 章による島グルメコラム。観光客目線ではちょっと気が付かない、地元ならではのおいしい五島飯を紹介します。

写真A

ホカホカの「かんぼこ」に笑顔

〽一ツひとより力もち~ 二ツふるさと後にして~

アニメ「いなかっぺ大将」の主題歌「大ちゃん数え唄」をスピーカーで流しながら、島のはずれの集落に移動販売車がやってきました。

今か今かと道端で待っていた人が2人。歌を聞きつけやってきた人が3人。あっという間に車を囲みます。

「よく買いに来るんです。なつかしい味がして、おいしいのよ。あなた食べた?」

笑顔をみせる常連さんの手には、まだ温かい「揚げかまぼこ」。長崎県・五島列島のひとつ、新上五島町の中通島(なかどおりじま)で、手づくりかまぼこを製造販売する「いわ瀬かんぼこ」の看板商品です。

イキのいい魚があるから

「いわ瀬かんぼこ」の「いわ瀬」は、「岩瀬浦」という島の地名に由来します。「かんぼこ」は「かまぼこ」の方言。

岩瀬浦は、かまぼこが有名な地域で、昔はどの家庭でも「おふくろの味」としてつくられていたそうです。「この地区にいたおばあさんが、かまぼこ屋を始めたのがきっかけでブランドになった」と聞きました。

「いわ瀬かんぼこ」代表の藤田伸子さんも、岩瀬浦出身。高校を卒業後に島を離れましたが、54歳で島にUターン。実母直伝のかまぼこに改良を加え、5年前の2012年に起業しました。

「イキのいい魚が手に入る島だから、もっともっとおいしいかまぼこができるはず」そう思ったことが、独立のきっかけだったそうです。

写真B

こだわりの無添加

「いわ瀬かんぼこ」の特徴は、無添加にこだわっていること。とれたての新鮮な魚だけで勝負しています。

アジを中心に、イサキやカマスなど、季節ごとに旬の魚をブレンドし卵、砂糖、酒、塩で味を調えるだけ。余計なものは一切使いません。

冷凍魚も使わないため、海が荒れ船が漁に出られない日が続くと製造中止。つくれない、というよりはつくらない。その分収入も減りますが「うちの味が保てなくなるから。正直な商売をしたいんです」と譲りません。

木枠を使って形を整える自慢の揚げかまぼこは、厚さ1センチ超と肉厚。噛むと口の中で身がプリプリと踊ります。塩加減が絶妙で魚の味もしっかりしているので、献立の主役にも。

ゴボウや野菜など、混ぜる具材によって数種類ありますが、すべて1枚170円(税込)。サイズは大きめのコロッケぐらいと大ぶりで、値ごろ感があります。

写真C

高校生が広めた評判

藤田さんが移動販売による商いを始めたのは、「買物弱者」であるお年寄りに、本当においしいかまぼこを届けたいから。

島はいろいろな課題を抱えていますが、「その課題の改善に貢献したい」という藤田さん自身の思いもありました。

開業した5年前は、移動販売と言っても作業場近くを回る程度でしたが、口コミで評判が広がり、販売エリアもどんどん拡大。現在は週2日の営業ですが、藤田さんは朝から1日10集落ほど駆け回ると言います。

島での評判を広めてくれたのは、主婦でも観光客でもなく、意外にも高校生でした。

開業間もない頃、作業場のすぐ前にある高校の生徒が、夕方お腹をすかせて、よくかまぼこを買ってくれたそうです。離れた集落から通う生徒もいて、それぞれの地元に帰り「あそこのかんぼこ、おいしいよ」と噂を広めてくれたのです。

たっぷりの思いやりと愛情

このエピソードには、あまり知られていない裏話があります。

それは、藤田さんが高校生に、つくり置きではなく、揚げたてのかまぼこを売っていたこと。

揚げかまぼこは、なんといっても揚げたてが一番おいしい。なので、下校時間を見計らって油を温めながら高校生が来るのを待っていました。来るかどうかも分からないのに。かまぼこは普段、車を走らせる前の早朝に揚げますが、何枚かとっておいたそうです。

「高校生だけじゃなくてね、みんなにできるだけおいしいかんぼこ食べてほしいの。もうね、それだけ」

新鮮な島の魚に、愛情と思いやりをたっぷり込めた「かんぼこ」。
どうりで、おいしいわけでした。

     

離島経済新聞 目次

【島Column】うまいぞ五島

新上五島町地域おこし協力隊 兼 フリーライターの竹内 章の島グルメコラム。観光客目線ではちょっと気が付かない、地元ならではのおいしい五島飯を紹介します。

竹内 章(たけうち・あきら)
1974年生まれ、富山県出身。元中日新聞社記者。フリーライター。2015年、長崎県・五島列島の新上五島町に「地域おこし協力隊」として移住し活動中。趣味は釣り。

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