人口数人から数万人まで多様な生活環境がある日本の島々。そんな島々で暮らすリトケイ読者の皆さんから寄せられた「島で守る命と健康」についてのリアルな声を紹介します。
※ウェブ版『ritokei』にて2023年7月に実施したオンラインアンケートにお寄せいただいた声を紹介しています。ご協力いただいた皆さまに厚い感謝を申し上げます。
※この記事は『季刊ritokei』43号(2023年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
毎日を元気に過ごすために行っている活動や島の知恵は?
ー社会との関わりー
●運送会社や郵便局による高齢者の見回り
●おしゃべり(笑うこと)
●月に2回社会福祉協議会のサロン(折り紙とか塗り絵とか体操とか)
●社会福祉協議会による出張サロン
●集落ごとの集まり
●俳句などのサークル活動
●ご老人が家の前で待ち、鬼太鼓やロングライドの自転車集団から若者のエネルギーを受け取っている
ー健康づくりー
●嚥下(えんげ)体操(※)
●島言葉ラジオ体操
●集落放送でのラジオ体操
●コミュニティラジオでの健康診断の周知
●健康体操教室
●島内で行われる大規模なラジオ体操大会
●朝方、夕方など、暑くなる前後の散歩
※ 食事の前に口・舌・頬・声帯・首・肩・などの筋肉を動かすことで、飲み込みをよくし誤嚥(ごえん)を防ぐ体操
ー食ー
●島に生えている薬草の活用(お茶、塗り薬など)
●伝統的な保存食をいただく
●健康的な伝統食がある
●趣味で行っている地元野菜の家庭菜園
●適度な農業(家庭菜園ぐらいの規模)を島民の多くが生活の一部として実践している
●畑仕事や釣りを日課にしてる人は身体がしっかり動いてる
島で守る命と健康についての考え・体験エピソード
凡例:ペンネーム(エリア/島の人口規模/職業)
ほしにょん(日本海エリアの島々/10,000人以上/医療)
私は人口5万人の離島で医療に従事している。CTやMRIがあり、アンギオ室(血管造影室)もあるためカテーテル治療もできる。赴任する前に想像していたよりも医療資源には恵まれていると思う一方で、それでも島ならではの制約は避けられない。
例えば特定領域のスペシャリストがいない点が挙げられる。心臓血管外科の常勤はおらず、心血管系の緊急手術は対応できない。天候でドクターヘリが飛ばなければ、保存的治療を行うほかない。ならば病気にならぬよう予防医療に力を入れるべきだろうか。
米、酒、魚のこの島で成し得るだろうか。天気のせいで助からないとき、己の無力さを思い知らされる。
あわしま(日本海エリアの島々/100〜499人/医療)
島の特徴として、海産物中心の食事で、醤油や塩を多く使っていることから、健康診断でほとんどの島民が高血圧、高脂血症、糖尿病と診断される。しかしながら、島に住む人々はとても元気で、90歳を超えていても手押し車を引いて街の中を歩いている人もおり、島の人々のパワーはとてつもないものを感じる。
それは、島に医療資源が乏しく、介護を受けて生活できるような環境ではないために、自立して生活しなければいけなくなった結果でもあり、単純に良いこととして片付けてはいけないものでもあるだろう。
okogame(日本海エリアの島々/2,000〜4,999人/観光業)
物価が高いこともあり不必要に嗜好品を買わなくなった。自分の暮らす島には畜産が牛しかいないため、豚肉や鶏肉が本土からの流入で冷凍品しかないこともあり、必然的に鮮度の高い魚へ食生活が切り替わっていった。都市に暮らしていたときよりも体調が良いという自覚はある。
ダンドリスト(九州沖縄エリアの島々/10,000人以上/自営業)
奄美大島は比較的人口が多いので、近くのかかりつけ医と県立大島病院という2つの診療体制があり、詳しい検査が必要な場合や緊急の場合は県立病院がバックアップする。盲腸になった時もかかりつけ医と救急救命センターの外来で診ていただいた。
人口が少ない場合は、近隣の島と共同でドクターヘリやICTによる遠隔医療なども使いながら高度医療機関との連携体制があるとよい。
あべあづみ(九州沖縄エリアの島々/1〜99人/自営業)
普段からよく笑い、よくしゃべる、よく動くことが健康につながっていると思う。病気持ちも多いし、食べ物もそんなに健康的ではない気がするのに、長生きでボケる人がいない。
その辺にある草を活用して体調を整えたりもしているし、わたしは島に暮らし始めてから自分の体の調子がよく分かるようになった気がする。
とはいえ、救急の対応もしっかりしておく必要もあると思う。夜怪我をしたばあちゃんが救急搬送された時のこと、ばあちゃんたちは怪我をしたばあちゃんを励まし、私は救急隊などとのやり取りをし、夫は車など搬送の用意をして、それぞれができることを相談もせずに動いている。
緊急時に何が必要か(搬送される人の情報、保険証、お薬手帳、家族への連絡など)、どういう行動が必要か(電話、準備するものなど)をある程度頭に入れておくとスムーズに動ける。消防や救急隊との日頃からの関わりも大切にしている。
五香屋(九州沖縄エリアの島々/100〜499人/観光業、小売業、自営業)
「マンジュネイ(パパイヤ)食ってたら死なんよ」のオジーの言葉を守り食べまくっています。祭事に奉納される野草はおいしいですし、夏バテなどによく効きます。
しまぼく(九州沖縄エリアの島々/100〜499人/公務員)
「島には何もないからね」と気軽に通院もできないし、介護も充分に受けられない。だから、島には元気でいる努力をする人がなんて多いのかと島に暮らして思う。
都会の高齢者は病院や介護サービスを色々選ぶことができるけど、島ではそうはいかない。むしろ、人に頼ることすら拒否したり、人目を気にする風習がある。大好きな土地で暮らすために努力が必要なのは島の特徴かもしれない。
ネルソン(九州沖縄エリアの島々/10,000人以上/自営業)
幼い頃、頭の上に水や塩をのせて運んだ祖母。90歳になった今もときどき、スーパーの帰りに頭の上に袋を絶妙なバランスでのせて手も添えずに歩く。幼い頃の習慣が今7、80年経った今も強い体幹をつくっているのだなと思った。
エース(日本海エリアの島々/10,000人以上/医療)
島で生きる以上、本土と陸続きでないことから制限されることは多くある。必要な物資が届くまでに時間がかかったり、大学病院でなら行えた緊急手術が搬送までの時間が足りずに行えなかったりする。
私は見習いの医師なのだが、島に住んでいるが故に諦めないといけなかった命を何人か見てきた。特に、妊婦は容態が急変しやすく、医療環境が整った施設ならもしかしたら救えたかもしれないが、母体を取るか、子どもを取るかの究極の二択を選択せざるを得ない状況にはとても心が痛んだ。
そういった制限があることを知ったうえで島で暮らし、島で子を産むことを選択している人も多くいるが、いざ自分がその状況に追い込まれると強く後悔する人がいることもまた現実である。
私個人の願いとしては、島にいても安心して子どもを生める環境を用意するか、出産が近い時期になったら一定期間は緊急時でも対応ができる所に住んでもらいたい。
こりおり(瀬戸内海エリアの島々/5,000〜9,999人/小売業)
面倒にも感じる集落の集会や回覧、清掃作業などは、高齢化や人口減少が進む地域ではメールやオンラインで済ませたり、業者に委託したらいいのでは、と思うこともあるが、顔を合わせるからこそ感じられる様子の変化や気に掛けられる体調、声掛けがあり、見守りにつながっている部分があるのだと思う。
また、年配の方々が「しんどい」と言いながらも率先して草刈りや清掃を行う姿を見ていると、若さを感じると同時に、ちょっと気合を入れてでも出ていく場があり、担わなければならない役目があることが、張り合いを生み出し、生き甲斐にもなっているのではないかと感じる。