つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

リアス式の地形や海流の影響から日本一多くの海洋ごみが流れ着くと言われる対馬島(つしまじま|長崎県)。そんな対馬では今、海洋ごみはもちろん、一般ごみや産廃ごみを含め「ごみをゼロにしよう!」という機運が高まっています。
行政としてこの問題に取り組む対馬市環境政策課と対馬市SDGs推進室、家業やNPOの立場で活動する岸良広大さんに話を伺いました。

※この記事は『季刊ritokei』41号(2023年2月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

ごみを富に変えるため島をあげて動き出す

リアス式の海岸が連なる対馬島

「世界は今、大量生産と大量消費の結果として、多くのごみであふれています」。2022年6月、そんな一文ではじまる「ごみゼロアイランド対馬宣言」が対馬市議会に提出され、全会一致で可決された。

2万8,000人が暮らす対馬市から1年間に排出されるごみは、家庭系ごみが6,869トン、事業系ごみが4,780トン。回収・処理される海岸漂着ごみは7,598立方メートルにのぼる(いずれも令和3年度)。

家庭系・事業系ごみのうち可燃ごみは焼却施設で焼却処分され、資源ごみは本土に搬出、不燃ごみや粗大ごみは破砕・分別処理、金属類の有価物は売却される。海洋漂着ごみでは、硬質プラスチックと発泡スチロールの一部はリサイクルされるものの、漁網やロープなどリサイクルできないものは埋立処分されている。

海洋ごみの内訳は木材が3割、プラスチック類が2割、発泡スチロールが3割、漁網・ロープが1割、不燃ごみなどが1割未満。流木はチップ状に破砕し、焼却処分される(提供・一般社団法人対馬CAPPA)

欠かせないのは先駆者との連携交流

このままでは美しい島がごみだらけになってしまうのではないか?先の宣言はそんな危機感から出されたもの。

具体的には対馬市のSDGsアクションプランの一環として、「島内で生じるごみ」「島外から流れ着くごみ」の両方からごみの発生抑制に努めるために「ごみの適切な分別の周知・分別品目の細分化等」「リサイクルのさらなる推進」「生ごみ堆肥化事業の推進」「ごみ不法投棄パトロールの強化」「海岸漂着ごみの処理方法の研究」に力を入れていく考えだ。

ごみの減量やリサイクルを島が進めるには、島外との連携が欠かせない。対馬市ではアスクルと提携した使用済みクリアホルダーの回収や、海洋プラを原料としたアップサイクル商品(※)の開発を進めているが、今後は「対馬SDGsパートナーズ登録制度」を推進し、先進的な取り組みを行う自治体や企業との交流・提携を強化。

参考とする先進事例には、与論島(よろんじま|鹿児島県)から全国に広がる海洋ごみ専用の「拾い箱」や、姫島(ひめしま|大分県)で続く空き缶デポジット制度なども挙げられる。

※ 捨てられるはずだった廃棄物や不用品に新たな価値を与えて再生すること

海洋ごみ問題を支える民間組織の活躍

“日本一”の規模で流れ着く対馬の海洋ごみ問題は、一般社団法人対馬CAPPAが縁の下を支えている。対馬CAPPAは市の委託により、海洋ごみの調査・研究、島内外のボランティアと海岸清掃活動や普及啓発を行いながら、関連情報を「対馬海ごみ情報センター」に集積。行政の担当職員が異動しても、知見が引き継がれる体制が構築されている。

また、対馬CAPPAは島とつながる関係人口も増やしている。海岸清掃や環境スタディツアーでは島外の企業や修学旅行生を受け入れ、韓国の民間団体や大学との共同イベントも展開。「海洋ごみ」を起点に、対馬と関わる人材や知見も集めているのだ。

対馬CAPPAの海岸清掃風景。その活動が評価され2022年2月には「第13回地域再生大賞」準大賞を受賞した(提供・一般社団法人対馬CAPPA)

ひとりやみんなで叶える対馬のごみゼロ活動

対馬CAPPAでアドバイザーを努める岸良広大さんは、父から受け継いだつしまエコサービスの代表を努めている。Uターンして廃棄物の処理運搬業などを手掛ける家業を継いだ岸良さんは、離島ならではの燃料高が気になり、天ぷら廃油を回収してバイオディーゼル燃料の精製・販売を行うことを思いついた。

現在は、島内ほぼすべての飲食店・宿泊施設、給食センターから年間4〜5万リットルの廃油を回収。精製したバイオディーゼル燃料は、自社の運送トラックや給食配送車で活用されている。

天ぷら廃油の回収風景(提供・つしまエコサービス)

天ぷら廃油事業はぎりぎり採算性が取れるため継続できているが、小規模事業者が「ごみゼロ」を目指すには「経営を含めて持続可能な形で継続していくことも大事」だと岸良さんは語る。

海岸清掃でも家業でも自分に「できること」を行なってきた岸良さんは、この10年ほどでの住民意識の高まりを感じている。2022年秋には対馬市でごみの減量に向けて市民と語り合う勉強会「SDGsカフェ」も開催された。

そこで出されたアイデアは『広報つしま』を通じて市民に届けられている。住民、行政、島内外の個人・企業・大学など、多様な連携により進められる対馬の「ごみゼロ」に引き続き注目したい。

参考・対馬SDGsアクションプラン「ゼロ・ウェイスト」

自分に何ができる?ごみの減量に向けた対馬市民のアイデア
(『広報つしま』2023年2月号掲載内容)

一人ひとりができること

●分別の徹底。リサイクルできるものはしっかり分別する
●使い捨てプラスチックを積極的に使わない。マイボトル、マイバッグ等の持ち歩きの習慣化
●ごみ削減につながるスマホアプリの活用(mymizu、ピリカ、ジモティーなど)
●漁具を大切に使う
●ミニマリストを目指す。必要なものだけを購入
●レンタル、リース品の利用
●ごみを出した後、どう処理されているのかを知る。自分のごみ排出量を知る
●ごみ拾いのグループとごみ拾い後の分別参考資料づくり など

みんなといっしょに取り組みたいこと

●空き時間での短いごみ拾い運動
●ジョギングやウォーキング、SUPしながらのごみ拾い
●帰省中のごみ拾いの呼びかけ
●ごみの投棄状況のマップ作成と情報発信・情報共有
●転勤、転出前のフリーマーケット
●制服、ジャージ、カバン等、子ども用品のフリーマーケット
●「リペアカフェ」の開催(修繕、リサイクルワークショップ)
●道具・工具のレンタルライブラリー等、ものを共有できる場づくり
●量り売りの普及(容器包装プラの削減)
●祭りなどのイベントではリユース食器のみ出店可能に限定する
●お宿のプラスチック製アメニティの削減
●資源ごみの回収BOXの設置
●海ごみでごみ箱をつくる など

特集記事 目次

特集|きれいな島をいつまでも ごみについて考えよう

最近、島に「ごみ」が増えていると感じませんか?
あちこちの海辺や、人が立ち寄らない隠れた場所にもう、どうにも隠れきれなくなったと言わんばかりに佇むごみ。
島の人々は口々に「昔はそんなになかった」と言います。ごみと呼ばれるものが自然界に存在しないとすれば、それはすべて、人の営みと価値観から生まれたものといえるでしょう。
この特集では、「きれいな島をいつまでも」という願いを込めて島のごみについて考えていきます。

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