「島のシマ」特集ではつよく・やさしく・たのしい地域共同体(シマ)をつくる人々の動きや、心豊かなシマを保つためのヒントをお届けします。この春、口永良部島(くちのえらぶじま|鹿児島県)で商店を始めた貴船 森(きぶね・もり)さんに、商店を中心としたシマづくりについてお話を伺いました。(制作・ritokei編集部)
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※この記事は『季刊ritokei』38号(2022年5月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
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今年3月、これまで営業していたJAの店舗が撤退したため、4月から商店を始めました。他島の例や共同売店の形態も参考にしましたが、島の人はそれぞれ仕事を持っているので今以上の負担はかけられず、まずは母体となる一般社団法人を立ち上げ、夫婦で切り盛りしています。
商品は主に宮之浦のJAから仕入れていますが、船代が加算されてしまうことが悩みです。担当省庁に相談したところ「送料がかからないものをネットで仕入れてはどうか?」というアドバイスを受けましたが、そうなると遠くから仕入れる送料無料商品よりも屋久島(やくしま|鹿児島県)の地物を仕入れた方が高くなり、釈然としない違和感を感じます。
高齢者は特に商店に依存していますから、商店という場所がコミュニティセンターのように寄り合える場所にできたらいいなと思います。島では何をするにしても、地域の人に認めてもらえないと進められませんから、行政との連携も模索しながら、地域に還元できるような状態を目指したいです。
口永良部島の人口は104人で、高齢者率は38%前後。私が区長になって7年目になります。心がけているのは楽しそうに暮らすこと。毎日、「じいちゃーん!ばあちゃーん!」と声をかけまくっていて、同じ話を聞かされることもあるけれど、それも楽しみなんです。
区長の仕事として、地域行事の計画や運営、行政とやりとりしながら地域づくりも進めているのですが、時折「口永良部島をこうするんだ!」と大きな声をあげながら、指を差すことも大事な仕事だと考えています。これだけ小さな島だと、主体的な声があることでみんなが安心するんですよね。
この島にとって重要なつながりは、20年以上前から受け入れている離島留学の子どもや親、学生とのつながりです。留学生だった子が親となり子どもを連れてくることもあれば、最近は、島留学に来ていた子が「島で暮らしたい」といって住み始めました。マンパワーが不足しがちな島に、若者が流れてきてくれるのはとてもありがたいです。
商店を始めて1カ月、実感するのは支え合って暮らしていることです。お互いにできることをやっていて、そのことを五感で理解できる。それが島で暮らすことの生きがいや喜びにつながっていると感じています。
お話いただいた人
くちのえらぶ商店 貴船 森(きぶね・もり)さん
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