人に人柄があるように、土地には土地柄がある。そして島にも島柄がある。同じ人間がいないように、同じ島もない(名前が同じことはありますが)。個性豊かな日本の島々。その島柄をのぞいてみる。※この記事は『季刊ritokei』08号(2014年2月発行号)掲載記事になります。
■対馬の島柄「ありすぎる島」
「島柄」とは、島にある自然や人や歴史や文化などが織り重なってあらわれる模様のようなものだと、ぶつぶつ考えながら私はこの原稿を書いている。大抵の島では、目立つ色が軸となり柄ができるのだが、対馬はとにかく色数が多い。
1月下旬に対馬(つしま)を訪れた。対馬は新潟県の佐渡島(さどがしま)、鹿児島県の奄美大島(あまみおおしま)に次いで大きな島である(※1)。飛行機から見下ろす対馬は島というより山であり、珊瑚の群生のようにもこもことした山肌が延々と連なり、海岸線は複雑に入り組んだリアス式海岸が続く。
島の中央部より少し南にある空港から最北端までは車で2時間もかかるが、まずは異国が見えるという展望台(※2)に向けてレンタカーを走らせた。複雑な地形を縫うような細道をくねくね進む道中には、日本昔話に出てきそうな山々や田園風景が続き、「ツシマヤマネコに注意」の看板も目についた。
ようやく到着した展望台からはモヤで何も見えなかったのだが、その場で携帯が鳴り画面を見ると、携帯電話会社からの通知で「韓国へようこそ!」という表示があらわれていた。ここから韓国までは49.5km。韓国の電波を拾ってしまうほど近いのだ。船で1時間で渡れる隣国からのお客さんは年間18万人にのぼるといい、トイレの張り紙や看板にはハングルが並んでいた。
展望台からほど近い野生生物保護センターに立ち寄り対馬の「自然」に目を向けてみる。有名なのはツシマヤマネコだが、実はツシマテンやツシマジカなど「ツシマ」がつく動植物は10種類以上いるらしい。日本の島々には島名のつく固有種は多いが、対馬のそれは相当数。自然だけで分厚い本が書けそうなほど深いようだ。
北部から2時間かけて南下。対馬の市街地、厳原(いずはら)でコノソレ(※3)という若者グループと出会った。かつて対馬藩主の城下町だった厳原には、立派な石塀や屋敷など名所旧跡が街中に点在している。風情ある町の居酒屋で、寒ブリや肉厚の対馬しいたけが並ぶテーブルを囲みながら、若者たちが博多弁に近い方言で島のことを話てくれた。
「対馬はPRが難しい。隣の壱岐は上手いんだけど」と話すのは島おこし協働隊で働く須澤佳子さん。確かに、日本の離島には島の特徴を「ないものはない」とPRする島もあるが、対馬の場合「ありすぎて困る」らしい。歴史だけをみても『古事記』や『日本書紀』に記されていたり、元寇でモンゴルが攻めてきたり、遣唐使が来たりと話題豊富。歴史を外しても全国の漁師が集まる漁場、農産物、建造物、珍しい動植物、韓国との話題など、とにかく色々「ある」のだ。
韓国といえば厳原でも韓国人旅行者を多く見かけた。「日本に来ている韓国人の1/3は対馬に来ている」とコノソレの代表を務める岸良広大さんが言う。ネットやテレビでは悲しいやりとりが多いけど、ドラゴンボールがめっちゃ好き!という韓国の人もいるんですよね」。副代表の新庄清孝さんも「韓国のお客さんがどうやこうやと聞かれるが、国籍は違ってもお客さんだし、なんとか対馬を良くしたいと思っている韓国の人もいる」と話した。
携帯の電波も届いてしまう距離である。たとえ日韓の仲が冷え込んだとしても、対馬と韓国が隣にあることに変わりはないから、いがみあいたくはないのは島人の本心だろう。「いがみあってるとモンゴルが来るからね」と誰かが言う。さりげない言葉に対馬がユーラシア大陸との「国境」にあることを実感する。
コノソレのメンバーは市職員、会社員、自営業者など総勢11名。ほとんどが対馬出身という。隠さずに言えば「国境の島」だけに強面集団を覚悟していたのだが、若者たちには強面どころか誰かがボケると優しく拾う和やかさがある。拍子抜けしながら、対馬の人はみんなそうなのかと聞くと「そうだ」という。和やかな酒盛りは居酒屋からカラオケに流れ、深夜に解散。そしてまた数時間後に彼らと再開する。
日曜日の朝9時。新庄さんが経営する対馬バーガーに昨夜の面々が集まり「ゴミ拾い」がスタートした。月に1回、コノソレではゴミ拾いも行っている。「今日も厳原の町はオレたちを待っとる」と新庄さん。若者たちは火ばさみを片手に町を歩き、ホット缶を拾えば「ゴミ拾いで四季を感じる」と笑い、大量のゴミを見つけると「誰か住んでるのかな」と推理して笑いあう。
聞けばゴミ拾いチームは対馬に複数あるらしい。「流行っとるんかな」と新庄さんが笑う。楽しいゴミ拾いは2時間で終了し、炊き出しのスープを全員でいただいて解散。
空港までの帰り道、送ってくれたメンバーは「コノソレにめぐり逢えてよかったです」と嬉しそうに話してくれた。
数日滞在したくらいで対馬の島柄を正しく表現するのは難しい。移住して3年の須澤さんでさえ「ありすぎる」という以外、一言で表現できないのだ。パンフレットに書かれた「国境の島」の表現も正しいが、その言葉では足りない人の温もりも対馬には「ありすぎる」のだ。
(文・写真 鯨本あつこ)
<注釈>
※1 対馬……面積は696.48k㎡。人口は約34,000人。大小いくつもの島々で構成され壱岐対馬国定公園にも指定される。
※2 異国が見えるという展望台……北部にある「異国の見える丘展望台」は朝鮮海峡に突き出すように設置され、気象条件が良いと韓国釜山市の街並を見ることができる。
※3 コノソレ……對馬次世代協議会(通称「対馬コノソレ」)は国境の島・対馬の若者による、對馬の明日を切り開く地方発信型未来創造グループ。「対馬にかける夢」を共有し、よりよい対馬の未来をつくり対馬の熱い心を次世代につなぐために活動している