つくろう、島の未来

2024年12月14日 土曜日

つくろう、島の未来

日本社会を支える仕組みは、島特有のものも含めて人の営みを支えるためにつくられたものですが、助けになる仕組みがあれば、壁になってしまうものもあるのが現実。そこで、リトケイ編集部では島々にお住まいの読者にアンケートを実施。リアルな声を届けていただきました。

※この記事は『季刊ritokei』42号(2023年5月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

Q1. 皆さんが関わる島で活用できる法律・制度について、特に「助かっている」「支えられている」と感じるものは?

⚫️航路の運賃補助。

⚫️離島振興法。離島振興には公的な視点が必要不可欠で、行政の支援なしには持続しない。この法律は行政が離島に関わる機会になっている。

⚫️離島独自の課題に対する制度としては、空路運賃補助。気軽に沖縄本島に行く方ができる。自分の生活に特にありがたいのは子どもへの助成金や免除。離島は給与が低く、生活費の占める割合が高いため、子育てにかかる経費を安くできるのはありがたい。

⚫️有人国境離島法による運賃補助(離島割引)。子育て中は、島では解決できない症状などもあって、本土へ移動することも多々ありましたが当該制度のおかげで生活費の低廉化につながりました。

⚫️ドクターヘリ制度。特に重篤な状況でも迅速に本土へ搬送いただけることは、島で安心して生活ができることにつながります。

⚫️補助航路制度。赤字航路であっても、生活物資を運ぶために航路を維持する補助金を充当していただいているおかげで生活ができていると実感します。

⚫️特定有人国境離島法に基づく、国の特定国境離島地域社会維持交付金(島民対象の航空路運賃に対する補助)。

⚫️離島のガソリン流通コスト対策事業。

Q2. Q1と反対に「困っている」「壁になっている」と感じるものは?

⚫️ない。

⚫️法律や制度に対する理解そのものを正しく理解している人が多くない。法律より個人的な感情や理屈が優先されやすい。特に労働環境。

⚫️行政庁舎でなければできない手続き(ex.パスポート申請)がある。本島で暮らす住民はクリアできても二次離島に暮らす住民には不便だと感じます。

⚫️漁業権制度について、漁業を排他的に営む権利が新規参入を阻害している。年金暮らしで稼ぐ必要のない高齢者が恒久的に漁業権を持ち続けていれば、限りある海洋資源を活用して起業する若者は増えない。

⚫️法律や助成制度について地元自治体が詳しくなく、相談したりフォローしてもらえる場が身近にないこと。

Q3. 島のこれからを展望した時、特に「あったらいいな」「こう変わってほしい」と思う法律・制度は?

⚫️子育てにかかる経費の免除が所得等関係なく全世帯が対象となること。離島だからこそ子育ての環境が充実して、優秀な人材がたくさん育ち、将来の島の経済や政治、行政を担ってほしい。

⚫️未相続土地の解消。何代も前の故人が所有者で相続人が不明な固定資産の名義を一定の目的をもって変更できる制度がうまれると、移住促進等に活用できるのではないでしょうか。

⚫️農地法の改正。親子であっても、農業事業目的でなければ名義変更できないのは不便さを感じる。

⚫️社会保障費(国保・後期高齢等)を人口が多いところ程、保険料率を高くして、へき地や離島に配分できる制度があったらいいなと思う。

⚫️外洋離島で暮らす者は、言わば国境の最前線で暮らし国防を維持しているので、国から「有人国境手当」の支給があってもいいと思う。

⚫️漁業権の対象エリアを海洋資源量などを基準にして区画分けし、企業などの新規参入を促す仕組みが必要ではないか。

Q4. 島を支える法律・制度をより良く活用するために必要なことは?

⚫️DX導入のための人的支援。

⚫️知ること、考える機会があること、行政や政治家と住民との意見交換の場をたくさん設けること。

⚫️例えば、前例踏襲が多い行政では、現状を「不便なこと」と認識することもなかったり、変化を嫌がることもあって、DXで何がどのように便利になるのか想像できていないのも現実なのではないでしょうか。どんなに良い制度があっても、それを活用できる「人づくり」こそ必要なことだと感じております。

⚫️既得権に期限をつける仕組み。行政主導による開かれたプロセスによる既得権の破壊。

⚫️島を取り巻く法制度について、住民の社会サービスとして、事業者向けに、それぞれ勉強できる機会(講座のようなもの)を自治体がつくる。肌感覚として、利用する側(島)の知識と理解が全然追いつかないところで、いろいろな整備が進んでいるので、その認識のズレや溝を埋める努力が、整える側にも利用する側にも必要。

\この声に注目!/
例えば、人口500人以下の小規模離島は白ナンバー特区に(※)

※「白ナンバー」は自家用自動車、「緑ナンバー」は事業用自動車につけることのできるナンバープレートを指す

小規模離島における旅客運送の特区化。人口の少ない(500人以下くらい)地域経済の規模が小さな離島においては、緑ナンバーの営業許可をとって旅客運送を業として成立させるのはコストに見合わず難しい。タクシーや公共バスが運営するのが難しく、あるいは存在しない小離島はたくさんある。

こういった地域であっても運賃をもらって人を乗せる場合、現行法ではいわゆる「白タク」(※)になってしまう。小離島の滞在移動には車が欠かせないことが多く、来島者はレンタカーを利用するケースが多い。

※国の許可なくレンタカーや運送業などを行い金銭を受領する違法車両

しかしこうした地域は道路も狭く坂道も多いので、ペーパードライバーや運転技術に自信のないドライバーにとっては運転のハードルが高い。自損や物損事故も起きやすく、何より人的事故が起きた際に対応できる医療に限界があるため、地域の暮らしの安全の観点からも不安がある。

白ナンバーでの旅客運送の許可が小規模離島などに限って特区として認められれば、島の住民が積極的に車を利用した兼業(副業)を担えるようになる。暮らしぶりと道路事情を熟知した地元住民とのドライブは安心安全でもあり、来島者への情報伝達・相互交流の面でもメリットが大きいと思う。

船や航空便の就航時間帯限定のタクシーをしたり、民宿など車を利用した観光オプションを充実させたりできると思う。

ある程度の人口規模の離島であれば、旅客運送を専業で行う事業者が責任をになうのが、地域社会の安全を守り安定した地域経済を継続していくためにも好ましいと思う。

しかし、いろいろな仕事を兼業することでなんとか暮らしを成立させている小規模離島では、過疎地域として特殊な対応が必要。車・道路事情も内地とは大きく環境が異なるので、道路交通法にも地域に見合った特区を設けて、小規模な離島の地域経済が活性化する糸口をつくってもらいたい。

2023年4月下旬から5月中旬にかけて実施したオンラインアンケートおよび離島経済新聞社の取材により作成。ご協力いただいた皆さまに感謝を申し上げます。

>>次回:「島を支える仕組みを小さな島が活かす ポイントは「知見の共有」【特集|島を支える仕組みのキホン】」に続く

特集記事 目次

特集|島を支える仕組みのキホン

1万4,125の島からなる日本には421島の有人島があり、そのうち416島が有人離島と呼ばれています。 人の営みがある島のそれぞれに、自らが暮らす地域を支える人がいて、島の外から島を支える人や、島を支えるさまざまな法律や制度があります。 この特集では、離島特有の法律や制度を中心に、島を支える仕組みのキホンを紹介します。

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