つくろう、島の未来

2021年05月15日 土曜日

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)が蔓延する社会の中、人々の命や健康を守る医師・看護師・保健師らは、体調不良者や感染者に直接ふれる第一線で活躍している。専門的見地から、コロナ対策の前線や地域社会をみつめる保健師に、Q&A方式で話を聞いた。

※この記事は『季刊ritokei』33号(2020年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

奄美群島の与論島では7月に大規模なクラスターが発生。島内では混乱が生じながらも、住民らによる誹謗中傷の拡大防止や、感染者を思いやる言動が見られた

島の保健師に聞く
感染症から島を守るには?

青木さぎ里(あおき・さぎり)さん
1976年東京都生まれ。自治医科大学看護学部講師。NPO法人へき地保健師協会代表理事。専門は地域看護学。自給自足への憧れと大学時代に島を訪れたことをきっかけに、青ヶ島村の保健師として約7年活動し、現在は島やへき地で活動する保健師のサポートを行う。著書に『離島の保健師 -狭さとつながりをケアにする-』(青土社)


Q. 保健所や保健師の仕事とは?

A. コロナ対策で重要な役割を担っている保健所で、保健所は都道府県等により設置されます。 島の保健師には「保健所保健師」のほかに「市町村保健師」がいて、それぞれ担う仕事は違います。

保健師は看護師免許と保健師免許を持ち、多くは公務員として公的機関に勤めています。 保健師は、すべての人々の健康レベルの向上を目指して、人々が自らの健康問題を解決できるように支援したり、予防につながる取り組みを行ったり、家族や個人だけでなく、コミュニティの力を引き出す活動をしています。 住民側から支援を求められなくても必要があれば働きかけていくのが保健師活動の特徴です。

Q. 島の保健師のコロナ禍での役割は?

A. 一つ目は、医療崩壊を防ぐための助言役です。保健師は行政の中で医療の専門知識を持つ数少ない専門職となるので、患者発生前の感染予防対策や、患者発生時の受け入れ態勢や移送方法の検討、島と本土との移動自粛の進め方など、行政が判断する際の助言や関係部署や島内外関係機関との調整をしています。

離島では患者発生時に島外に移送することが多いのですが、移送手段の確保が課題です。交通手段は限られていて、運営する事業所は民間で小規模なところが多い。「万が一、従業員が感染して就航できなくなったら、住民生活はどうなるのか?」という問題もあり、なかなか要請に応じてもらえない場合もあります。どう移送すれば安全なのか、事業所と知恵を出し合い、合意点を探っていきます。

二つ目は、感染者を医療につなぐ調整役です。感染者が発生した時に医療機関へ移送したり、積極的疫学調査を行うのはもちろん、濃厚接触者には該当しないけれど感染者と接触した・症状があるなど不安がある住民の相談にのったり。退院した住民の帰りの交通費は本人負担となるのですが、離島だととても高くなります。公的な補助ができないか、市町村保健師があちこちから情報収集した例もあります。

三つ目は、感染者発生後の暮らしを守っていく役割です。感染者や濃厚接触者は「自粛や予防をしていなかったんじゃないか?」と言われたり、皆に迷惑をかけたと自分を責めたりして、その後島で暮らしにくくなる可能性があります。差別や偏見が起こらないよう予防的に啓発しながら、必要なら個別に説明し理解を促すこともあります。

Q. 保健師の視点から見る、島の暮らしに与えるコロナの影響は?

A. コロナ禍以前に行なっていた保健活動が停滞することで、疾病に対してハイリスクな人が生まれやすくなりました。子どもの発達で気掛かりなことがあっても、適切なタイミングで島外の専門機関につなぐことが難しかったり、デイサービスや訪問介護が中断したことで困窮する人も増えたりしています。

Q. 感染が確認された島で生まれている問題は?

A. 島の住民は日頃から、島の外へと「押し出す力」と、島内に「引き止める力」の綱引きの中にいるように感じています。

「本土の方が良い生活ができる(就労、医療、福祉、教育など島にはない資源がある)」「(介護などが必要になり)迷惑をかけたくないので出よう」といった島外への移住を促す力(押し出す力)と、「住み続けたい」「出ていかないでほしい」「これくらいならやっていける」といった島内居住を継続する力(引き止める力)です。社会資源の乏しい島ほど押し出す力が強くなります。

コロナの恐ろしさは、感染者への「押し出す力」が強大で、文字通り一度島から押し出され、本来「引き止める力」となるはずの家族や近隣住民と突然引きはがされてしまうことです。さらに、外出自粛で周囲の人との接点も減り、「引き止める力」が弱まっています。感染者が出れば経済的影響は避けられず、患者本人は「迷惑をかけた」と感じて居づらくなり、島を離れてしまうような現象も起こります。

Q. コロナをきっかけに島から人が減らないためには?

A. 感染者が島に帰りにくい状態になる前から「帰ってきてね」「ともに生きよう」といったメッセージを意識して発信することが大事です。日頃から住民の側にいる市町村保健師もそのサポートができればと思います。

Q. 感染者を支える方法は?

A. 島では一度の失敗がその後の信頼形成に長く影響してしまうことがあります。未知の問題に直面する際に役立つのは、むしろ失敗例。非難は思考停止に近い。感染=失敗ではありませんが、身近な感染事例からどう学べるかが大事。「感染してもいい」という雰囲気をいかにつくっていけるかが明るい未来への鍵となると思います。「完璧でなければ」と自分や周りを追い詰めず、「むしろありがたい」「皆で成長しよう」と感染者を支えられると良いですね。

Q. 島の人間関係に息苦しさを感じたときはどうしたらいい?

A. 自分で心掛けられることとしては「受け取り方」があります。島は24時間生活が丸見えの感覚がありますが、それを「見守り」だと思うか「監視」だと思うか。自分が弱っている時ほど「監視」と感じやすい。

見守りも監視ももとはともに生きる仲間に対する気遣いから生まれています。また、住民が互いを「見る」のは、互いから学び合っているためです。小さな島ほど住む人の存在そのものが島の財産でもあります。心細く疑心暗鬼になった時こそ「自分のありのままが周りの役に立っている」と思うトレーニングをするのも良いかもしれません。

Q. 精神的な不安を感じている人はどうしたらいい?

A. 「安心してしゃべれる場所」を確保することが大事です。口から出した言葉が、どこにどう伝わって、どう誤解され、どう広がってしまうのか? そうした恐怖を感じている人は、深刻な悩みほど口に出すことを恐れてしまいます。島の中でなくても良いので、安心して話すことができ、秘密が守られる場所を確保することが精神面においては大事です。

Q. 島内や知り合いに相談相手がいない場合は?

A. 保健所にも電話相談窓口があります。また、都道府県や特定非営利法人などが設けた相談窓口なら相談相手が知り合いであることはまずないでしょう。相談は保健師、医師、精神保健福祉士などの専門職が対応しますので、不安な場合はぜひ相談してください。

Q. 心身の健康を保つために平時からできることは?

A. 医療も介護も都会の方がサービスは豊富ですが、島にも少なからずサービスがあります。ただ、元気な人ほど島で受けられるサービスの存在を知らないことが多いので、健康な時から何かあったときに受けられる島のサービスを知っておくことが大事です。市町村保健師としても、それを住民の皆さんに知ってもらえるように働きかけていきたいと思います。


【関連記事】
感染症専門医に聞く 感染症から島を守るには?【特集|島から考えるポストコロナ】

ritokei特集