2020年初頭、世界中に広がった新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)は、10月末時点までに約4,500万人に感染し、約118 万人を死に至らせた。離島地域を含む日本社会全体にも多大な影響を与えるコロナの拡大からやがて1年。未来に進む船が、真っ白な霧におおわれたようなウィズコロナ(コロナとの共生が求められる社会)を生きる私たちは、どのようにポストコロナ(新型コロナの発生をきっかけに変化する社会)を進んでいけばよいのか。本特集では、コロナの発生から現在までの動きを「島」を軸に振り返りながら、未来のヒントを探りたい。(編集・ritokei編集部)
※この記事は『季刊ritokei』33号(2020年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
コロナにゆれる世界と島々 幕を開けたポストコロナへの議論
今年2月、日本国内で初のコロナ感染者が確認され、全国に感染が広がるなか、3月14日には離島地域で初となる感染者が壱岐島(いきのしま|長崎県)で確認された。
400島余りある有人離島地域の条件はそれぞれ条件が異なるが、高齢化率が高く、医療環境の限られる島は感染者が多い傾向にある。政府による緊急事態宣言発令前後には、有人島を有する市町村や関係団体が相次いで来島自粛の要請を開始。人々の往来がストップした。
移動・外出・会食など、感染拡大につながるあらゆる行動に自粛が求められたことで、交通や外食、観光から第一次産業まで、幅広い産業が停滞。売上が低迷した事業者の廃業も相次いだ。観光産業の比率が高い島ほどコロナの影響も大きいとみえるが、経済的な死を避けるべく、恐る恐る自粛を解除し、一定のガイドラインを設けながら観光の受け入れを再開させる島は増えていった。
こうした動きについて、日本島嶼学会名誉会長で経済学者の嘉数啓氏は「観光産業に依存する多くの島々がコロナ『撲滅』よりも、むしろ感染症との『共生』を選択していると言えます」と説明する。
コロナ禍のなか、世界の島嶼国に暮らすキーパーソンと情報交換を行なってきた嘉数氏は、世界の島々も、日本の島々も「島々の多様性を反映するように、感染状況や対応策も多様。第一波に見舞われた島々をみても、対応は罰則を伴う『島の封鎖(ロックダウン)』や『外出禁止』から、ゆるやかな自主規制に至るまでさまざまで、島が独立国であるか、地方自治体であるかによっても対策が大きく異なっています」と話す。
共通するのは、人口密度が比較的低く、情報が行きわたりやすく、水際対策が取りやすい小島嶼地域の多くが、感染者ゼロを記録していることだ。独立国であるパラオ共和国、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国などはいち早く国境封鎖に踏み切り、感染者ゼロを記録している。しかし、米軍基地や観光などで米国本土からのつながりも深いハワイ諸島や、米国の準州であるグアムでは、感染者も未だ拡大傾向。二度目のロックダウン(※)を実施している。さらに、カリブ海のバハマ国やバルバドス諸島などでは感染者の増加に加え、ハリケーンの襲来という二重の危機に直面。「これらの島嶼国は、特に米国からの観光客に大きく依存しており、コロナ対策としての国境封鎖は住民の生活を極度に圧迫するというジレンマに直面しています」(嘉数氏)。日本の島々にも、よく似た悩みはあるのではないだろうか。
未だ収束の見えない状況にあるが、「10月以降はポストコロナにおける島の暮らしのあり方についての議論が勢いを増してきている」と嘉数氏は語る。ポストコロナとは「新型コロナの発生をきっかけに変化する社会」を指し、その議論は感染症対策だけに留まらない。
「世界の島嶼地域でも人口や観光客が密集し、非正規雇用、高齢者、貧困層が多く、医療事情の悪いところで重症者、死者が増加しました」という嘉数氏は、コロナの発生を機に、社会にもともと潜んでいた貧困・格差・密集・都市・医療などの地域内・地域間・世帯間にある “歪み”があぶりだされているという。「コロナの発生は、ポストコロナ社会における人類の進むべき道も示唆しています」(嘉数氏)。島々から展望するポストコロナの理想とはどんなものだろうか。その糸口を探す議論を始めたい。
※ハワイ州のオアフ島では3月下旬から約3ヵ月間の外出禁止令(ロックダウン)が出され、7月に解除されたが、感染者の急増を受け、8月下旬に再び外出禁止令が出された