つくろう、島の未来

2024年10月10日 木曜日

つくろう、島の未来

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)が蔓延する社会の中、人々の命や健康を守る医師・看護師・保健師らは、体調不良者や感染者に直接ふれる第一線で活躍している。専門的見地から、コロナ対策の前線や地域社会をみつめる感染症専門医に、Q&A方式で話を聞いた。

※この記事は『季刊ritokei』33号(2020年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

池間島から宮古島を臨む風景。 宮古諸島では1919年にコレラ感染が拡大。池間島では隔離小屋が建てられ、1年余り島外との往来を遮断した話が語り継がれている

専門医に聞く
感染症から島を守るには?

高山義浩(たかやま・よしひろ)医師
沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科。地域医療から国際保健、臨床から行政まで幅広く活動。厚生労働省でパンデミックに対応する医療体制の構築に取り組んだほか、少子高齢社会に対応する地域医療構想の策定支援などに従事。感染症を専門に、地域包括ケアの連携推進にも取り組む。著書に『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院/2016年)など


Q. 旅行や会食はいつまで自粛が求められるのでしょう?

A. 日本の場合、島国という地政学的な利点を活かせば、徹底した自粛によるウイルスの封じ込め戦略もとれると私は思っています。ただ、徹底した自粛に耐えられない事業者もいますので、どうするかは住民の選択。私たち専門家は、その選択に応じて最善の感染対策を提案しています。

Q. 収束の目安はありますか?

A. 収束の判断には総合的な視点が必要なため、ひとつの数値指標では決められません。ただ、政府が緊急事態宣言を解除する指標のひとつとして示している、「人口10万人あたり1週間に新規陽性者数0.5人未満」はひとつの目安になるでしょう。

Q. 島はコロナにどう対応すればよいのでしょう?

A. 「新型コロナのある世界」を受け入れ、「地域で発生させない」ではなく「地域で発生することはあるが広げない」動きを進めていくことが重要です。

ただ、島にもよります。石垣島(いしがきじま|沖縄県)や宮古島(みやこじま|沖縄県)のように人口5万人規模の離島は交流人口も多いため、「地域で発生することはあるが広げない」ことが大事ですが、医療や交通アクセスが限定的な小規模離島は「発生させない」対策が必要な場合もあります。どちらを選ぶかは島の条件や方針によります。

Q. どのように判断したらよいでしょう?

A. たとえばある島で大規模なイベントを開きたい場合、「持ち込まれることがあるが広げないための対策」をするか「そもそも持ち込ませない対策」をするか。島としてどちらに力点を置くかを決めなければなりません。体調不良を訴える人の隔離場所が確保できていたり、体調不良者を船で運べる島なら、前者の対策になりますが、本土から距離があったり、アクセス条件の良くない島になると、それなりの対策や準備が必要です。

Q. 「持ち込ませない」対策はどうすればよいか?

A. 最強の対策は鎖国すること。出入りをしなければウイルスに感染することもありません。しかしそれは現実的ではないので、島に行きたい人は事前の14日間を自己隔離するなどの対策が必要です。

Q. 来島者を受け入れたい島がとるべき対策は?

A. 感染が確認されても、軽症であれば入院させる必要はありません。私は来島者の受け入れそのものが離島地域の医療体制を圧迫するとは考えていませんが、地域住民に感染を広げてしまった場合に、大きな負荷が離島医療にかかってしまう可能性があることは、やはり考えなくてはなりません。来島者を受け入れるなら、体調不良を訴える人や、軽症者を隔離できる療養場所の確保が必要です。

Q. 帰省や仕事、旅行などで島に渡りたい人が気をつけることは?

A. 島に渡る2週間前から感染対策をしっかり行い、人混みを避けるなど自己隔離しておくこと。島に渡ってからは、多人数での宴会を避け、集まるなら換気の良い場所にしておくこと。体調不良時は外出しないこと。

Q. 修学旅行生の民泊を受け入れることは可能か?

A. 民泊体験の重要性は承知していますが、家庭における感染予防は困難だと私は思っています。数十人規模の団体になるとどうしても対策の甘い人間が紛れ込んでしまう。親族や子どもの帰省も控えているのに、本土の学生を受け入れるというのは…….。

どうしても受け入れる場合は、修学旅行生側の努力が必要になります。お年寄りが住む島に行くという自覚をもち、来訪の2週間前からしっかり感染対策や自己隔離を行うなど、その時点で修学旅行が始まっているくらいの覚悟を持つことが必要です。

Q. 島内で感染対策の意識を高めるには?

A. 私たち医療者は、ヘルスケアを地域に普及させるためのアプローチとして「参加」と「教育」の2つを大事にしています。自分たちにとってのヘルスケアがどうあるべきか、教育するだけでなく、住民自らが一緒に考えていく参加の姿勢が必要です。感染対策を効果的に推進するコツは、指示するだけでなく、参加も促すことです。

Q. 感染症から島という社会を守るために必要なことは?

A. 私は「利他主義に基づく連携を築いておく必要がある」と話しています。身近な例では、マスクの着用も利他主義の象徴です。マスクは自分が感染しないためというより、周りに自分の飛沫を飛ばさないために着けているものです。そして日本の場合は、とりあえず着けておこうかと、皆が着けています。

Q. 感染症に生かせる「島の良さ」はありますか?

A. 離島の診療所へ応援に行くこともありますが、島の人からは、お年寄りが島にいてくれることを「ありがたい」と思う気持ちを感じます。そうした気持ちが、お年寄りを積極的に守っていきたいという気持ちにつながります。

日本にはお年寄りを大事にする風土がまだ残っているものの、都市のなかでお年寄りがぽつんとしている様子を見ると、古き良き価値観が薄れていることを不安に感じます。SNSの投稿や一部メディアでは、若者に重大なリスクがないなら、お年寄りが外出しなければいいという意見も見られますが、そういう気持ちではコロナ対策はなかなかうまくいきません。

コロナはさまざまな社会の課題も浮かび上がらせてきました。私たちはワクチンや治療薬を心待ちにするばかりでなく、コロナが教えてくれた問題を直視しながら、感染症に強い社会を目指していく必要があります。この点で、小さな島に息づいている利他主義は、コロナが気づかせてくれた地方の良さのひとつだと思います。

Q. 誰もができる感染対策は?

A. 幸いウイルスの正体は見えてきています。どのような状況で感染しやすいのか? 集団感染に至りやすいイベントとは何か? なども分かってきて、治療技術も向上してきました。

皆さんのなかには、未知の感染症であった3月頃の情報のままになっている方もいるかもしれません。対策を考えるときはまず、できるだけ新しい情報に更新していただければと思います。


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