世界中を混乱の渦に落とし入れた新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)は、日本の島々にどんな変化をもたらしているのだろうか?
人の移動や接触が制限されたことで、経済が停滞し、休業や廃業を余儀なくされた事業者もあるが、この窮地を脱するために絞られた知恵から、新たな事業や連携が創造された例もある。ここでは、新型コロナをきっかけに島で生まれた新たな経済循環を紹介する。
※この記事は『季刊ritokei』33号(2020年11月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
石垣島ぐるデリ
島内飲食店&配達員のデリバリー代行業
9月16日、石垣島(いしがきじま|沖縄県)で新たなサービスがスタートした。「石垣島ぐるデリ」は、パソコンやスマートフォンから島内飲食店の料理を注文できるサービス。
注文から最短1時間で料理が配達され、利用者が支払うのは1店舗につき料理代と390円の配達料のみ。決済はすべてオンラインのため、利用者、飲食店、配達業者間で金銭的なやりとりが発生しないシンプルな仕組みだ。
「ぐるデリ」は石垣島グルメプロモーション協会が開発。開発費用約200万円は、寄付やクラウドファンディング、自己資金から集め、発案から約5カ月で完成した。発起人の池淵功寛さん曰く「スタートから1カ月半で加盟飲食店は20軒ほど、500名が会員登録している」そうだ。
2019年度には147万人もの観光客が訪れた石垣島でも、緊急事態宣言の発令からしばらくは「観光客はほぼゼロ」に。観光事業者はもとより、農漁業に携わる生産者など多くの人が苦境に立たされるなか、島内に新たな経済循環を生み出すべく「ぐるデリ」が発案された。
立ち上がったばかりのサービスだが、加盟する飲食店の評価は上々。「PRになっているようで、ぐるデリをみたお客さんからの(直接の)テイクアウトも増えているそうです」と池淵さん。
人口5万人台の石垣島は、生活サービスも比較的豊富に揃うが、大手デリバリーサービスは存在せず、島内飲食店のテイクアウトやデリバリーも限定的だった。
そこに生まれた「ぐるデリ」は、島の飲食店と人々の食卓をつなぐ存在となり、住民はもちろん、医療機関やリゾートホテルに滞在する観光客からの注文も届いているという。まさに、コロナから生まれた新たな経済循環だ。
飲食店側はサービス利用手数料として売上の14%を負担するだけで、登録料や月額料金はかからない。配達はコロナ禍で需要が落ち込んだ、運転代行業やレンタカー事業者に委託されるなど、支え合いの循環も築かれている。
五島ごと
レトルト食品の加工技術を島内で共有
五島列島(ごとうれっとう|長崎県)最大の島・福江島(ふくえじま|長崎県)では、4月、食品製造や販売を手がける地元企業「ごと」が、島内飲食店の味をレトルト加工するサービスをスタートした。
「創作郷土料理いつき」からの依頼でレトルト加工された名物ハヤシは、長崎市内の百貨店催事で300袋が数日で完売。他にも人気店のカツカレーやシチューなどの開発が進められているという。
大手メディアのグルメ特集にも登場するごとのレトルトカレー。
ごとの木下秀鷹社長は、コロナ前から「五島全体がもうかる状況を目指したい」と考えていた。もとは冷凍焼き芋の通販をメインにしていたが、レトルトを始めた2017年からスーパーや土産店などへの卸しを増やし、年商は3年で3倍に成長。
コロナ禍の外出自粛により五島市内に構えるごとの実店舗は打撃を受けたものの、その売上は全体の1割程度。9割を占める通販やレトルトはむしろ好調で、都市部を中心にレトルト食品の注文が大量が入り、同商品の売上は1.5倍となった。そこで、木下社長は「売り上げが低迷する飲食店にうちの技術が活用できるのでは」と考えた。
ただ専用機器を貸し出すだけではない。120度で加圧加熱殺菌することで起こる味の変化を計算し、目標の味に近づける開発シェフのノウハウも加わる。
熟練の技や手間が必要になるため、一般的には企画開発費が必要になる仕事だが、木下社長の目標は「五島全体がもうかること」。五島市内の飲食店に限り、加工にかかる原材料費や水道光熱費等の実費のみで手がけた。
「おいしいものはたくさんあるが、発信ができていないものも多い」(木下社長)。そんな島の味が、高い技術で加工され、発信されることで島外の商圏へと届き始めている。
ごとのレトルト加工プロジェクトの需要は島内に止まらず、遠くは関東や東北地方の飲食店からも相談が舞い込んでいるという。
【関連サイト】
石垣島ぐるデリ
ごと株式会社(長崎五島ごと)