つくろう、島の未来

2024年04月28日 日曜日

つくろう、島の未来

可愛い顔をしているけれど、このお魚、食べられるの?
いえいえ、実は食べるとおいしいんです。

NPOリトケイ(特定非営利活動法人離島経済新聞社)は、島々の未利用魚や低利用魚を活用したレトルト食品の開発に挑戦中。

そのうちの一つ、奄美群島・与論島(よろんじま|鹿児島県)で捕れるテングハギは、天狗の鼻のような長〜いツノと、ひょっとこみたいなおちょぼ口を持つユニークな顔の魚。島の漁師さんが海に潜り、一匹ずつモリで突いて捕まえています。

与論島の漁師さんに教えてもらった、知る人ぞ知るおいしい魚・テングハギについて、その生態や島の漁法、地元でのおいしい食べ方などをご紹介します。

2021年より「島の魚食」を盛り上げるプロジェクトを継続するリトケイは、豊かな海と日本の魚食文化を未来につなぐことをミッションに活動するChefs for the Blue(シェフスフォーザブルー)と協力し、島々の未利用魚や低利用魚を活用したサステナブルで海の学びにつながる商品づくりに取り組んでいます。

本企画は、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。

テングハギって、どんな魚?

和名:テングハギ
学名:Naso unicornis
英名:Bluespine unicornfish
分類:スズキ目 ニザダイ科 テングハギ属
生息域:海水魚。岩礁域、サンゴ礁域。日本では青森県下北半島〜九州南岸の太平洋沿岸、伊豆諸島、小笠原諸島、日本海各地、屋久島、琉球列島、南大東島など
食性:雑食性。藻類や動物プランクトンを食べる

テングハギは、皮を剥いで調理される「かわはぎ」の一種で、頭部に天狗の鼻を思わせる突起物があることから「テングハギ」と名付けられました。学名にも英名にも「ユニコーン」の名を冠しています。

どうやって捕る・食べる?与論島の漁師さんに聞きました

テングハギの漁法や、地元でのおいしい食べ方は?与論町漁業協同組合(以下、与論町漁協)で高付加価値化事業などを担当する、山下歩夢さんに話を聞きました。

「テングハギは、素潜りで、モリで魚を突いて捕らえます。個人単位での漁のため、漁師によって道具やスタイルはさまざまです」と、山下さん。基本装備はウェットスーツとフィンを着用し、モリを持参。捕った魚を入れておくために、海に浮かぶ箱などを各自が自作しているそうです。

漁に出るのは、魚の動きが活発ではない夜間の時間帯。小舟を出したり、潮が引いた夜にリーフの淵まで歩いて行き、海に潜って漁をします。ゴムのついたモリを使い、テングハギにそっと近づき、頭を狙って打ち込みます。

左から、山下さん、地元の漁師さん。大の釣り好きだった山下さんは、知人の紹介がきっかけで与論町漁協を手伝うようになったそうです

「冬場のテングハギは脂がのっておいしいのですが、実は地元でも一部の愛好家が食べている、知る人ぞ知る魚。島ではお刺身や、まーす煮(※)にしていただきます」(山下さん)。

※塩水と焼酎で蒸し煮にする調理法

テングハギは、捕って時間が経つと独特のクセが出やすいため、おいしくいただくためには、捕まえたらすぐに内臓を処理するのがポイント。

本プロジェクトでは、漁師さんが一匹ずつ内臓を取り除き下処理をしたテングハギを、与論町漁協にバトンタッチ。同漁協で加工しやすくさばいたものを冷凍保存して出荷。島外の水産加工会社でスープを製造・レトルト加工しています。

与論島・茶花(ちゃばな)港に水揚げされたテングハギ。漁師さんが一匹ずつモリで突き、内臓を取り除いて持ち込みます

熱帯魚の形をした隆起サンゴの島・与論島

与論島は、鹿児島県と沖縄県の間に連なる奄美群島(あまみぐんとう|鹿児島県)最南端。沖縄本島の北、約23キロメートルに位置します。小さな熱帯魚のような形をした面積20.56キロ平方メートルの島に、約5,000人が暮らしています。

隆起珊瑚礁で形成された与論島は平坦な地形で、最高点は約97メートル。コーラルリーフに囲まれ、多様な生き物が豊かに共生する自然環境を活かし、伝統的にタコや貝などの素潜り漁が営まれてきました。現在、与論島の漁業は、ソデイカやマグロなどの沖合漁業が主力ですが、漁船を出す際の燃料費や島外への出荷コストが大きいことなどが課題となっています。

与論島の港で水揚げされた水産物は、一部が島内に流通するほか、多くは鹿児島市中央卸売市場や沖縄本島、奄美大島などに出荷されています。

珊瑚礁に囲まれた与論島。潮の引いた後の潮溜まりではタコや貝などを捕まえる島人の姿も

テングハギがフレンチシェフの手でおいしいスープに

本プロジェクトでは、与論島のテングハギ、弓削島(ゆげじま|愛媛県)のチヌ、対馬島(つしまじま|長崎県)のアイゴ3島3種の未利用魚・低利用魚を活用。広く流通可能なレトルト食品として開発しています。

与論島の漁師さんに教えてもらった、知る人ぞ知るおいしい魚・テングハギを、恵比寿のフレンチレストラン「アムール」の後藤祐輔シェフがアレンジ。食べ応え抜群の、フィッシュボール入りオニオンスープができあがりました。

テングハギの食感を活かした、ぷりぷり食感のフィッシュボールと、しめじや、きくらげなど異なるキノコの食感が楽しめるオニオンスープ。山椒をきかせた、さっぱりとした和風の味わいです。

左下から時計回りに、与論島のテングハギ、弓削島のチヌ、対馬島のアイゴを使用したスープの試作品

レシピ開発 後藤祐輔(ごとう・ゆうすけ)
1979年5月25日 東京都出身。『ミシュランガイド東京 2013』にて一つ星を獲得。以後7年連続で一つ星を獲得。2016年11月 シャンパーニュ騎士団より「シュバリエ・ドヌール」の称号を叙任。フランス料理の技術、精神をベースに日本の食材を活かした『日本人でしか表現できないフランス料理』に取り組んでいます。
https://gotoyusuke.jp/

プロジェクトの背景や関連イベントのお知らせを、この「島々会議」でお伝えしていきます。引き続きご注目ください。


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