つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

新上五島町(しんかみごとうちょう)地域おこし協力隊 兼 フリーライターの竹内 章による島グルメコラム。観光客目線ではちょっと気が付かない、地元ならではのおいしい五島飯を紹介します。

島との相性はぴったり

島のイメージと相性がいい食材といえば、何を思い浮かべますか?

まず、何といっても魚などの海の幸でしょう。これしかない、という気もします。僕が住んでいる長崎県・五島列島の新上五島町も捕鯨やまき網漁で大いに栄えた歴史があり、漁業抜きに島を語ることはできません。

ですが、もう一つ、島にとてもぴったりな食材があります。

それが塩です。

きれいな海のイメージが後押し

新上五島町では製塩が盛んで、人口約2万人に対して業者が大小合わせて10数社はあります。地元のスーパーやお土産屋には、いろいろな銘柄が並んでいます。

世界的にみると地中から採れる「岩塩」もありますが、海に囲まれた日本でつくられる塩は、ほとんどが海水を原料とする「海塩」。新上五島町も例外ではありません。

島の海は、どこまでもきれいで澄んでいそう。そんな海水が原料ならば、きっといい塩ができるに違いない――。

島で海塩づくりが盛んな背景には、こんなイメージもあるのではないかと想像します。

奥行きのある味

ひとくちに海塩といっても、いくつか製法があります。

太陽や風の力を利用したり、釜でぐつぐつ煮たりといった「昔ながらの製法」もあれば、電気の力を利用して海水から欲しい成分を効率よく取り出す「近代的な製法」もあります。

新上五島町では「昔ながらの製法」で製塩されていますが、この方法だとカルシウムやマグネシウムといったミネラル分も多く取り出せます。これにより苦味や酸味が加わり、味に深い奥行きが生まれます。

「近代的な製法」では「食塩」としておなじみの精製塩ができます。この製法では塩化ナトリウムの成分が大半を占めるため、「塩辛さ」が強く前面に出るという特徴があります。

こだわりの完全天日干しも

新上五島町で、いくつかの塩工場を見学したところ、塩分濃度を高めた濃い海水を釜で煮詰め、塩を結晶化して取り出す「釜炊き製法」が主流でした。

そんな中、町内で唯一、火を一切使わない完全天日干し製法を採用しているのが「浜田組」(新上五島町小串郷)の「とっぺん塩」。濃い海水を太陽の光だけでじっくりゆっくり乾燥させていきます。結晶化にかかる時間は夏場でも早くて2週間ほど、冬場はその倍以上の時間を要します。

時間がかかる割に少量しかできない天日干し。ですが、自然の力だけを頼りにつくられるため熱心な愛好家もいて、北海道から注文が舞い込むことも。自然なもの、極力人の手が加えられていないものは、やはり人気が高いようです。

島暮らしと塩づくり

新上五島町の塩工場のひとつ、「五島のうみしお」代表の小川邦夫さんは、17年前に脱サラし、家族と島に移住したIターン者です。

小川さんは言います。「仕事に追われたり、仕事上の人間関係でストレスをためたりするような生活は望んでいません。家族が食べていける分を稼ぐのに、一人でもできる塩づくりはちょうどよかった」

島で暮らすなら、多くの人が望むであろうマイペースでゆったりとしたライフスタイル。塩は島の食材としてだけではなく、島での暮らしとも相性がいいようです。

     

離島経済新聞 目次

【島Column】うまいぞ五島

新上五島町地域おこし協力隊 兼 フリーライターの竹内 章の島グルメコラム。観光客目線ではちょっと気が付かない、地元ならではのおいしい五島飯を紹介します。

竹内 章(たけうち・あきら)
1974年生まれ、富山県出身。元中日新聞社記者。フリーライター。2015年、長崎県・五島列島の新上五島町に「地域おこし協力隊」として移住し活動中。趣味は釣り。

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