リトケイ編集部の島酒担当記者、石原です。「島酒日記」では、取材をしながら出会った島酒や島酒の造り手さんたちのこと、島酒の楽しみ方などを徒然にお話ししています。
奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)で黒糖焼酎を造りながらミュージシャンとしても活動する西平(にしひら)せれなさんが、この春オリジナルアルバムと黒糖焼酎「珊瑚 新酒2017」を同時発売。5月6日にレコ発ライブ「杜氏就任式」が開催されました。
西平酒造は、奄美群島(あまみぐんとう|鹿児島県)だけで製造される特産品「奄美黒糖焼酎」を製造する、群島に26ある蔵の一つ。今年創立90周年を迎えます。
1927年に、沖縄出身の西平守俊(もりとし)さんと杜氏(※)を務めた妻・トミさん夫婦が喜界島(きかいじま|鹿児島県喜界町)で創業しましたが、太平洋戦争下、終戦間際の1945年に喜界島を襲った空襲で蔵を焼失してしまいます。
※杜氏(とうじ)……酒造りの最高責任者
終戦後、西平夫妻は奄美大島へ移り、旧・名瀬市(現・奄美市)小俣町の現在地に蔵を開きました。戦後の8年間奄美群島がアメリカ軍政下に置かれ、本土との物資流通が途絶えたなかで、島の人たちが求めるビールやサイダーなどの嗜好飲料も製造していたそうです。
奄美群島には、ほかにも徳之島(とくのしま|鹿児島県)の松永酒造場(1952年創業)や、沖永良部島(おきのえらぶじま|鹿児島県)の神崎産業(1950年創業)など、女性杜氏が開いた焼酎蔵があります。
かつて沖縄や奄美の家庭で自家用に蒸留酒が造られていた時代は、その家の女性が酒造りを担っていましたから、その頃までは女性杜氏も珍しくなかったのだと思われます。
それぞれの蔵の歩みは、昨年秋に出版された著書『あまみの甘み あまみの香り』にも書いておりますので、よろしければご一読ください。
西平せれなさん(鹿児島市「焼酎ストリート2017」にて撮影)
さて、初代のトミさん以後、西平酒造では男性杜氏による酒造りが続けられてきましたが、時は過ぎ、再び西平酒造に女性杜氏が誕生しました。トミさんのひ孫に当たる、西平せれなさんです。
せれなさんは、奄美大島で生まれ育ち、高校を卒業後に上京。東京での演劇や音楽活動を経て2014年に島に帰り、ご実家の西平酒造で杜氏見習いとして製造を手伝っていましたが、2017年1月にめでたく杜氏に就任しました。
杜氏として初めての仕込みに挑むかたわら、音楽制作にも取り組んだせれなさんは、この春、限定100本の「珊瑚 新酒2017」とオリジナルアルバム「メッセオアマッサ」を同時発売しました。
左:前掛けにサインするせれなさん/右:『あまみの甘み あまみの香り』もPR
5月6日、新しいアルバムと焼酎をお披露目するライブイベント「杜氏就任式」が開催され、100人超の観客が集まりました。
楽曲演奏の合間に寸劇を挟む舞台には、せれなさんの演劇経験も活かされているようで、寓話のような物語に人間の欲望と孤独、愛やおかしみが散りばめられた世界観に引き込まれました。
物販コーナーでは、せれなさんのCDのほか、西平酒造の前掛けや、上の写真でせれなさんがつけている、お手製の焼酎ピアスなどのグッズも人気を集めていました。
私も場所をお借りして、著書『あまみの甘み あまみの香り』をPRさせていただきました。ありがっさまりょーた(奄美の方言で「ありがとうございます」の意味)。
ライブの翌日、夢のような舞台の余韻に浸りつつ、取り寄せておいた「珊瑚 新酒2017」を開けることに。
蒸し暑い日だったので、タイ料理のガッパオライスをつくり、42度の「珊瑚 新酒2017」の味わいをそのまま感じられるよう、オンザロックで合わせてみました。
さて、せれなさんが杜氏就任して初の黒糖焼酎の味わいは……。山盛りのパクチーやナンプラーなどクセのある食材にも負けない、豊かな香りとコクがあり、甘みと辛味がバランス良くミックス。後味はきりっとしていて、鼻に抜ける香ばしさが食欲をそそります。
まるで、せれなさん本人のような印象の「珊瑚」に、「お酒には造り手のキャラクターが表れるのかな」なんてことを思いながら、心地よく酔えました。
お酒造りも音楽も個性的な、せれなさん。今後の活躍が、ますます楽しみです。
それでは、また。良い酒を。