リトケイ編集部の島酒担当記者、石原です。「島酒日記」では、取材をしながら出会った島酒や島酒の造り手さんたちのことなどを徒然にお話ししています。
東京都世田谷区の酒屋・升本屋で週1回催されている琉球泡盛を楽しむ会「泡盛部」におじゃましました。その日のテーマは、日本最西端の与那国島(よなぐにじま|沖縄県)で造られる国境の酒「どなん」30度。2014年に訪ねた酒造所の写真も交えながらお話しします。
与那国島の泡盛「どなん」30度をテイスティング
前々回の島酒日記では、2014年の秋に与那国島を訪ねた旅を振り返りながら、与那国島だけに製造が許された「花酒(はなざけ)」と島の酒文化について紹介しました。今回は、同じく与那国島で造られる泡盛「どなん」30度のテイスティングに挑戦します。
今回おじゃました「泡盛部」は、東京都世田谷区の酒屋・升本屋で週一回催されている、琉球泡盛を楽しむ会。2008年に始まり、今年10年目になるそうです。毎回10名程度が集まりますが、多いときは20名前後にもなり席が足りなくなることもあるのだとか。
「泡盛部」では週に1度、1蔵1銘柄の泡盛テイスティング会を開催。沖縄県に47ある泡盛蔵の代表銘柄を一巡りすると、その年最もおいしかったお酒を選出。「合宿」と称して現地へ出向き、蔵を訪問して素晴らしさを讃える「押しかけ表彰」もしている、熱い大人の部活動です。
さて、その日「泡盛部」のテーマに選ばれたのは、与那国島に3つある泡盛蔵のひとつ国泉泡盛合名会社の代表銘柄「どなん」30度。荒波に浮かび断崖絶壁に囲まれた与那国島は渡るのが難しいことから「渡難」と呼ばれたという説もありますが、方言で海岸に自生するオオハマボウの木を指す「ゆうな」や、砂や米を指す「よね」が訛った「どぅな」に由来するという説も。で、本当のところは「どぅなん」。
京王線笹塚駅から徒歩5分。島酒が豊富に揃う「升本屋」
そんな「どなん」をソーダ割り、水割り、お湯割り、ストレート、ロックで味わい、感じた味わいや香りの特徴を書きとめ、最後に全員で感じたことを共有しよう!というのが今回の「泡盛部」。
2014年に訪れた与那国島で60度の花酒「どなん」を味わいましたが、30度の「どなん」をいただくのは初めてです。温度や割り方を変えることで、どんな風に味わいが変化するのか……興味津々で参加しました。
まずは水割り。テーブルの真ん中にどんと鎮座する、あらかじめ前割りした「どなん」をグラスに注ぐと、ぷんと甘い香りが立ち上りました。原料の米麹に由来するのか、まるで甘酒のようです。口に含むと、しっかりしたコクを感じました。
次に、お湯割りを。温めるとアルコールが揮発して、やや辛く感じます。甘酒のような麹の香りとともに、穀物らしい香ばしさやコクも感じました。
そして、30度ストレート。舌でピリッとした刺激を感じ、じっくりと香りを味わい、刺激とともにのどへ抜けていく感触を楽しむ。個人的には一番好きな飲み方です。この辺りで、頬がポカポカしてきて気持ちよくほろ酔いです。
オンザロックにすると、冷たくなる分、甘酒の香りは抑えめに。「洋酒のようだ」と評した方も。ブランデーのようにビターチョコレートや、やや苦味のあるチーズなどを合わせてみたくなる味わいでした。
2000年製造。貴重な「どなん」古酒も堪能
2000年製造の「どなん」古酒30度
さらに、その日はなんと「泡盛部」メンバーのKさんから差し入れが!貴重な「どなん」古酒30度も味わうことができました。
製造年月日は「2000」、詰口年月日は「20.2.02」とあり年号・表記ともに統一されていないものの、2000年(平成12年)に蒸留し平成20年2月2日に瓶詰めされた1本と思われます。
さて、十数年の時を経て開封された「どなん」の味わいは……。
始めにセメダインを思わせる独特で不思議な香りがして、ゆっくり口の中で温めるうちに穏やかな風味に変わっていきました。
古酒のグラスを片手に「かつての『どなん』は潮の香りがした」と語るメンバーも。各々、思い出の「どなん」話に花が咲きました。
与那国島に訪ねた「どなん」の製造現場
さて、ここで「どなん」の製造現場を少しご紹介。泡盛は蒸したタイ米に黒麹菌を生やして製麹して造った麹だけで仕込む「全麹仕込み」。それゆえ麹造りは泡盛製造の要といえるでしょう。
「どなん」を造る国泉泡盛合名会社では、2012年に移転し工場設備を一新。ステンレス製の仕込タンクや蒸留機などの機材はピカピカに磨き込まれていますが、米を蒸して種麹をつけた後に三角棚で熟成させ、菌が繁殖して固まりになった麹を手で均一にほぐす作業など、人の手が入る部分も残しています。
左:種麹をつけた後に麹を寝かせるための三角棚/右:通気を確保する工夫(2014年撮影)
左:もろみを発酵させる仕込タンク/右:機関車のような横向きの蒸留機(2014年撮影)
これまでに九州や奄美群島を含め、さまざまな焼酎蔵を訪ねていますが、黒麹を扱う際は、どの造り手さんもマスク着用で作業に臨むといいます。麴造りの際に繁殖させた黒麹菌によって、一面真っ黒になるほど胞子が舞うためです。気をつけないと胞子が喉や鼻の粘膜に入り、蔵の掃除も大変だと聞きます。そんなご苦労の末に、おいしい島酒がいただけるのですね。感謝して味わいたいと思います。
不定期掲載の「島酒日記」。次回は、徳之島の闘牛文化と黒糖焼酎の、切っても切れない深い関わりについてお話ししてみたいと思っています。
それでは、また。良い酒を。
【関連サイト】
泡盛部
【東京 世田谷 升本屋】 泡盛部 公式ブログ