豊かな海に囲まれる離島地域では、年々、海洋ごみの悩みが大きくなっています。
「きれいな島がいつまでも続くように」という願いを込めて、島のごみについて考える特集【きれいな島をいつまでも】。今回は、多様な連携やアイデアを通じて島の海洋ごみ問題に立ち向かう事例を紹介します。
※この記事は『季刊ritokei』41号(2023年2月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。
旅人でもごみ拾いができるクリーンキット&島の漂着ごみから誕生した石けんケース
五島列島北部に浮かぶ小値賀島(おぢかじま|長崎県)の港では、来島者でも気軽にごみを拾えるクリーンキットが販売されています。島のお母さんたちが手づくりした大漁旗をリメイクしたバッグの中に、ごみ袋や軍手、ハガキやリーフレットが入っています。
キット導入のきっかけは、おぢかアイランドツーリズムで働くヴィクトリアさんがスイスで見かけたクリーンキット。ごみ問題への参画を明るくおしゃれに提案するアイデアは来島者にも好評です。
一方、「拾ったごみをどうするか?」という問題も解決すべく、九州産業大学デザイン研究室と連携し、プラごみの買取メーカーとのコラボで海洋ごみを原料とした製品づくりも実現。おしゃれで実用的なグッドアイデアです。
九州産業大学・テクノラボ・シャボン玉せっけん・おぢかアイランドツーリズムの4社コラボにより生まれた石けんケース「mu(ムー)」や、クリーンキットは『おぢか島旅』のオンラインショップでも購入できます
島を巨大なゲーム空間に見立て、楽しみながらごみ拾い「清走中 大崎上島編」
大崎上島(おおさきかみじま|広島県)の大串地区では、2022年5月にゲーム感覚のごみ拾いイベント「清走中 大崎上島編」が開催されました。
「清走中」は参加者が町に点在するチェックポイントを巡り、クイズに挑戦したり隠れたアイテムを探したりしながら、ごみを拾ってポイントを稼ぐゲーム。
大崎上島編では、教育を通じて島づくりを進める一般社団法人まなびのみなとが事務局となり、島内の学校に通う17名の中高生も運営ボランティアとして活躍しました。島内外から参加した115名が海岸や住宅地を巡り、2時間で集めたごみは約98キログラム。
コロナ禍で祭りや行事が延期となっていた中、人々が交流する機会にもなりました。
イベントでは参加者自らが暮らす地域の身近なプラスチックごみである「豆管」(広島県内で牡蠣養殖に使われるプラスチック片)の拾った量を競い、身近なマイクロプラスチック問題を考えるきっかけになりました
島を瀬戸内海の海ごみ清掃のモデルケースに。地元住民と大学、産廃協会が連携
香川県の多度津港からフェリーで約25分、人口わずか29人の高見島(たかみじま|香川県)は、次々と打ち寄せる海洋ごみの対策に悩まされています。
2022年11月、海洋ごみ対策と島の活性化・高齢化問題など地域振興に貢献するネットワークを構築することを目的に、地元住民や漁師さんと香川大学、香川県産業廃棄物協会、瀬戸内オーシャンズX推進協議会が連携し「離島海ごみ清掃活動@高見島」(主催:CHANGE FOR THE BLUE in かがわ実行委員会)が行われました。
地元住民が島内調整を担い、廃棄物協会が効率的な回収手順を検討。当日は学生たちのパワーも借り、バケツリレーで小型船に積込、港にあるごみ集積場へ。1日でごみ袋302袋分の海洋ごみを回収しました。
清掃活動後は海洋ごみや地域づくりについての話し合いや、島歩きや漁船見学なども実施。実行委員会では今後も活動を継続し、瀬戸内海の海洋ごみと社会課題解決のモデルづくりを進めていくそうです
釣り人のマナー向上を図り、ごみの増加を防ぐ「上天草市公式釣り人」
大矢野島(おおやのじま|熊本県)を中心に樋合島(ひあいじま)や樋島(ひのしま)など、釣り人に人気の島嶼部を有する上天草市では、釣りを軸にしたブルーツーリズムに力を入れるなか、海岸に放置される釣り具やごみの増加など釣り人のルール・マナーが課題となっていました。
そこで、市は2022年度に釣り業界最大級のウェブマガジン『TSURINEWS』と提携し「上天草市公式釣り人」を公募。「公式釣りガイドブック」の制作と釣りライター養成講座への参加を通して、釣りマナーや上天草市の釣り情報を発信できる公式釣り人を育成中。
SNSやメディアを通じ、釣りの際に出るごみの持ち帰りやマナー向上の啓蒙、イベント情報など、釣り人目線で発信されることが期待されています。
公式釣り人たちが企画に携わる「公式釣りガイドブック」も制作中(2023年3月発行予定)。釣り人によるごみ問題に悩む島々にとっても参考になるアイテムです
海洋プラスチックと漂着軽石を観葉植物の植木鉢にアップサイクル。耕作放棄地の活用も
奄美群島最南端の与論島(よろんじま|鹿児島県)では、池田龍介さんが2014年に始めた住民の365日ごみ拾い活動をきっかけに、2017年から島内各地に拾った漂着ごみを入れる「拾い箱」が設置され、地元住民や観光客の間にごみ拾いの輪が広がっています。
一方で、役場が負担する海ごみの焼却費用が増加。小笠原の海底火山から流出した漂着軽石の処分も課題となっていました。
池田さんは2020年からプラスチックごみを減らすアップサイクル製品の試作を重ね、1年かけてサンプルが完成。その一つが、底石に漂着軽石を使用した植木鉢です。ゆくゆくは島内の耕作放棄地を活用して栽培した植物の商品化を目指し、開発を進めています。
「拾い箱」に集まった海ごみプラスチックから再生した、鉢植え、コースター、キーホルダーなどのアップサイクル製品は、一般財団法人日本民間公益活動連携機構の休眠預金活用事業の助成を受けて2023年に商品化の予定
竹富町では全13校の小・中学生が参加する「海洋教育クリーン週間」を実施
世界自然遺産に登録される西表島(いりおもてじま|沖縄県)など11の有人島からなる竹富町では、小中学生を対象に豊かな環境と海洋文化を学ぶ機会として「海洋教育サミット」「海のフォトコンテスト」、町内全13校が参加する「海洋教育クリーン週間(ビーチクリーン)」を実施。
サミットでは町内の児童生徒がグループディスカッションを行ったり、沖縄本島の糸満市から参加した中学生5名がマイクロプラスチックの研究成果を発表。「今までの自分の考えとは違う意見があり考え方が広がった」という声があがり、子どもたちにとって意義のある機会となりました。
フォトコンテストの優秀作品は2022年度の町カレンダーに採用され、町内の小中学校や公民館で掲示されています。
2019年から海洋教育に取り組む竹富町が目標とするのは、人と海が共生できる社会。「隔ての海を未来につながる結びの海へ!」をスローガンに、子どもたちに自ら考え行動できる力を育んでいます