つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

離島経済新聞社では、学びとしての場としての島に注目。全国の島々にある学びのプログラムや、それらを運営する人々を取材し、「島だから学べること」を紹介します。

今回は、2011年の創業以来延べ2,600人の若者を国内外の島や農山漁村での「住み込み型ボランティア」ツアーへ送り出してきた、村おこしNPO法人ECOFFの代表理事、宮坂大智さんをご紹介。

ご自身も国内外50カ所以上の島を巡り、現在は台湾の島、澎湖(ポンフー)で暮らす宮坂さんの視点で「島だから学べること」を語っていただきました。

※ページ下の「特集記事 目次」より関連記事をご覧いただけます。ぜひ併せてお読みください。

※この記事は『季刊ritokei』39号(2022年8月発行号)掲載記事です。フリーペーパー版は全国の設置ポイントにてご覧いただけます。

秘境と呼ばれる島々や農山漁村で学ぶ村おこし

九州島と奄美大島(あまみおおしま|鹿児島県)の間、北斗七星のように点々と浮かぶトカラ列島(とかられっとう|鹿児島県)は、しばしば日本の秘境と称される。7つの島を結ぶ定期船は週2便。人口はそれぞれ50人から150人ほど。

民宿はあるけれど商店はまばらで、ありのままの大自然に圧倒される島の暮らしは、例えばコンビニが身近にあることに慣れた人にとっては未知の世界だろう。自分がいる場所とまったく違う場所へ行けば、何かを得られるかもしれない。そんなことを思いついた若者が、その何かを得られる場所と方法を探すうちに、ECOFFに出会う。

2011年設立の村おこしNPO法人ECOFFは、トカラ列島の中之島(なかのしま)、悪石島(あくせきじま)、宝島(たからじま)をはじめ北国の島に太平洋の島、瀬戸内海の島々など約40地域の島や農山漁村でツアーを開催している。ホームページには、ツアーの概要や参加者の体験記が並び、島の風景と若者の笑顔が咲いている。

三宅島(みやけじま|東京都)では農作業ボランティアを経験

ECOFF代表の宮坂さんに聞く。参加者はほぼ大学生で「村おこし」が掲げられるだけに、その多くが地方創生や地域活性化にも興味を抱いているが、「何か特別なことがしたかったから」という動機も目立つ。

「広告もあまり出していないので、参加者は能動的に検索をしてくる人か友だちに勧められてくる人。ホームページに辿りついたとしても、スケジュールなどが詳しく書かれておらず、参加費と交通費もかかるし、現地までの交通も自分で手配しなければならない。さらに申し込む前にスライド形式のオリエンテーションを受けて、島で暮らすプログラムや心構えのようなことを学んでもらい……と、かなり面倒くさくしています」。

奥尻島(おくしりとう|北海道)のブナ林を散策し自然への理解を深める参加者

行き先は観光地でなく住み込み型のボランティアをすることが目的。ワンクリックで申し込みができ、手配されるがまま船や飛行機に乗り込んで島に渡るのではない“面倒”は、参加者に「心構え」をインプットするために必要な過程ともいえる。

本を読むだけでは分からない感覚

島に渡った参加者は、同じように全国から集った仲間とともに公民館や空き家などで共同生活を行い、現地の世話人からの指示で、田畑の手伝いや家畜の世話などのボランティア活動に勤しむ。

島の動物とふれあう参加者

「参加する学生は真面目な子が多いので、10日間の活動期間中に悩むこともあります。荷物を運ぶなどの地味な作業も多いので、毎日やっていることが何につながっているか分からなくて悩んでしまう。けれどその後、島の人に『そういう小さいことが大事なんだよ』といわれて『意味があったんだ』と気づくんです」。

喜界島(きかいじま|鹿児島県)での農作業ボランティア

自分の手で地域を活性化をしようと意気込んでやってくる参加者もいる。「『地域活性化を求めているんだろうな』『観光客を増やしたいんだろうな』と思って参加する人はすごく多いですね」と宮坂さん。けれど、実際に島で暮らす多様な人に出会い、交流すると「実は地域活性化を望んでいない人もいる」ことに気づき、本を読むだけでは分からないリアルな感覚を得るという。

>>次回:「9泊10日の島暮らしで学ぶ「生きること」への気づき(後編)【特集|島だから学べること】」に続く


お話いただいた人

宮坂大智(みやさか・だいち)
村おこしNPO法人ECOFF代表理事、日本島嶼学会会員、国際島嶼学会会員、東京農業大学探検部OB。国内外50ヶ所以上の離島をめぐり、現在は台湾の澎湖(ポンフー)に移住、ガイド業やゲストハウスを営む

【関連サイト】
村おこしNPO法人ECOFF
https://ecoff.org/
ECOFFミッションは「農林漁村を活発にすることにより、自然と文化の保護に寄与する」こと。住み込みボランティアツアーは10日間が基本。地域の世話人の家に住み込み、共同生活をしながらボランティア活動を行う。
参加者のほとんどが大学生で、社会人が5%、中高生が1%。焼尻島、奥尻島、伊豆大島、神津島、三宅島、沖島、江田島、屋形島、種子島、屋久島、竹島、硫黄島、中之島、悪石島、宝島、奄美大島、喜界島、徳之島、与論島、渡嘉敷島、澎湖(台湾)など

特集記事 目次

特集|島だから学べること

地球レベルの気候変動にテクノロジーの進歩と社会への浸透、少子高齢化、孤独の増加、人生100年時代の到来etc……。変化の波が次から次へと押し寄せる時代を生き抜くため、近年、教育や人材育成の現場では「生きる力」や「人間力」を養う学びに注目が集まっています。 そんななか、離島経済新聞社が注目したいのは学びの場としての島。厳しくも豊かな自然が間近に存在し、人と人が助け合い支え合う暮らしのある離島地域には、先人から継承される原初的な知恵や、SDGsにもつながる先端的なアイデアや挑戦があふれています。本特集では全国の島々にある学びのプログラムや、それらを運営する人々を取材。「島だから学べること」を紹介します。

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