つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

有人離島を擁する都道県のうち、離島に暮らす人の数が最も多い鹿児島県では、島を支える地域おこし団体が、自立的・安定的に活動を継続できるよう支援すべく、2016年度より離島地域おこし団体事業化推進事業を実施している。この流れから2019年に鹿児島離島を支える当事者らが主導する「鹿児島離島文化経済圏(リトラボ)」がスタート。9月18日に種子島で行われたフィールドワークをレポートする。(#04はこちらから

(写真・鹿児島離島文化圏 文・鯨本あつこ)

島の空気を体感し、その活用をディスカッション

種子島トレセン1日目の夕方、住吉窯と「あずまや」を訪れた参加メンバーは、続いてホスト役の川越麗子さんが開業したヨガスタジオに向かった。

海沿いに佇む古民家を改装したヨガスタジオは種子島(たねがしま)の西側に位置し、屋久島(やくしま)を臨むことができる。この日の屋久島は雲に包まれ姿を隠していたが、海に沈む夕日を眺めながら、川越さんによるヨガレッスンを体験。

川越さんの動きに習い、ヨガのポーズをとる。沈みゆく太陽に向かい、波の音に耳をすませ、島の空気を身体に循環させる時間は、いわゆる「癒しの時間」であることは間違いないが、その言葉だけでは言い尽くせない何かがあるようにも感じる。

インド発祥と言われるヨガには5000年の歴史があるため、「5000年続いてきた説得力がある」と川越さんは言う。一方、種子島には鹿児島県内で最も古い遺跡が存在し、約3万5000年前から人が暮らしていたと考えられている。

そんなヨガと種子島をつなげ「種子島をヨガの聖地にしたい」という川越さんのアイデアに、ヨガで心身をクリアにしたばかりの一行は、バスに乗り込むなりアイデア合戦をはじめた。

「ヨガの聖地」はインド政府が指定する条件をクリアすることで認定されるといい、日本にはまだ正式な聖地はないという。

では、種子島がその聖地を狙うのか?

種子島トレセンのご意見番として大阪から参加している地域プロデューサーの山本桂司さんは、「(他の地域と)お客さんのとりあいになってもしょうがないから『認定』というのはそこまで重要じゃないかもしれない」と、聖地化の根本を問い、「それよりも『宇宙』は種子島だけなので宇宙でトップにいくほうが重要では?」と提案。

他の参加者も「なぜ、種子島がヨガの聖地になのか? 歴史的なものや自然的なものなど、説得力があるといい」「種子島はロケットが飛んでいる。宇宙ヨガはどう?」とわずか10分程度の移動時間で、メモが追いつかないほどのアイデアが重なり、川越さんは「みなさんのご意見、全部つかわせてほしい!」と声を弾ませた。

トレセンの目的には「アイデアを深化させること」がある。つまり、ヨガを体験し「よかったね」「癒されたね」で終わってはいけない。バスに揺られるわずか10分の会話に、トレセンの狙いが垣間見えた。

島と人をつなげたい。コネクトプロデューサーの想い

そしてバスは西之表市内の繁華街に到着。ここから、ホスト役のひとり上妻昇志さんがプロデュースする拠点「Connect(コネクト)」で、夜の部が開かれるという。

5月にオープンしたばかりという「コネクト」では、まず東京の一等地にあってもおかしくない都会的な空間に驚いた。上妻さんは、「コネクト」を「自分の好きなヒト・モノ・コトに出会えるサードプレイス」として、情報や遊び、食、物産が集まる地域交流拠点としてプロデュースしたいという。

種子島トレセンの実施を機に、種子島で地域づくりを模索する上妻さんや内野さんは、トレセン参加メンバーとともに、種子島を語る場として「SORAJIMA MEETING」を設定。島内からの一般参加も呼びかけていた。

「コネクト」にはトレセン参加メンバーと一般参加者が30名ほど集まり、会がスタートした。

まずは鹿児島離島経済文化圏(リトラボ)を運営する甑島(こしきじま)の山下賢太さんが「島と島の地域間連携を一緒にやっていきたい」というリトラボの狙いと、「いわゆる視察旅行ではなく、お互いの課題に寄り添いながら、少しでも前に進めていく」というトレセンの趣旨を説明。

その後、種子島のホストチームが仕切り役となり、まずは上妻さんが自身の活動について発表した。

熊本出身の上妻さんは、「種子島の遊び」を自ら楽しみながら暮らしているという。たとえば、仕事が終わった足で海に向かいSUPに乗って、釣りを楽しむ生活は都会暮らしだと夢物語だが、種子島では実現できる。

そんな「遊び」を通じて「自分の幸せとはなにか」を考え、人生観が180度変わった実体験をもとに、上妻さんはコネクトを拠点に種子島の遊びや情報、ひいては移住相談デスクとして来島者と島をつなげることを展望する。

2万8000人が暮らす種子島では、サーフィンに、SUP、釣り、カヤックなど、マリンアクティビティだけでも豊富に体験できるが、実際は上妻さん自身、最初は「どうやって遊んでいいかわからなかった」。

その時、上妻さんが救われたのは地元の「良きお兄ちゃん的存在」の人だった。島の遊びや住まいにつないでくれた存在に救われた経験をもとに、島外の人が島とつながる場をつくるべくコネクトをオープン。食、遊び、ツアー、情報、移住デスクetc……。この場を軸に「つなぎたいこと」がプレゼンされた。

移住者はいらない? 地域づくりの当事者が秘める悩み

続いて、種子島に移住して14年というデザイナーの小早太さんが、自身が運営する「種子島大学」について発表。

島民参加でつくる出会いと学びの場として、「お茶の島をめぐるツアー」や「天体座学」「マングローブの生物観察会」などを開催しているが、その狙いも「人のつながり」にあるようだ。

「情熱ある人、字頭のいい人、そういう人が200%の力を出せば地域は変わる。でも個人では難しいので普段、付き合いがない人とつながることを、種子島大学でやっていきたい」(小早さん)。

種子島大学で行われるシンポジウムには、首都圏の大学生や大手広告代理店の参加もあり、島内のつながりづくりだけでなく種子島の内外をつなぐプラットフォームになっているそうだ。

一方、課題もある。

受講生のほとんどは移住者や転勤で種子島に暮らす人であり、地元の若い人は参加しない。地元出身の若手は「そんなことやっているなら地域の草刈りに出ろ」と言われるなど、周囲の目が気になるらしく、ある地元出身の受講生は小早さんに「自分は50代になってはじめて人目を気にしないで参加できるようになった」と打ち明けたという。

ここで屋久島から参加する福元豪士さんが口を開いた。

福元さんは「屋久島まちづくりラボ」を開催し、子どもを対象にした教育事業や、大人向けの地域づくり人材育成講座を展開している人だ。

「屋久島まちづくりラボを開催しながら『屋久島の未来をよくしたい』といったときに首を横に振る人はいないが、それは僕が屋久島出身だから。敵ができにくいのかもしれない」(福元さん)

対して、一般参加した種子島出身の塾講師は、「ぶっちゃけ、周りの種子島住民は『また物好きがやってらー』と思っていることもある」と出身者側の感覚を共有した。

そんな彼女自身も、地元集落で塾を開き、地元から種子島を盛り上げようと活動する一人。「種子島を盛り上げようとしている人に出会い、自分も頑張らないと、と思った」と言う素直な想いに、同じく一般参加していた種子島に移住した女性は「地元の人と、移住の人の目線が違うように感じている。なかには『人口は増えてほしいけど移住者はいらない』という人もいて、悲しかった」と涙をにじませた。

同じ「地域を支えたい人」でも、その地域で生まれ育った人なのか、移住してきた人かで、立ちはだかる壁は異なるのか。その壁はどう捉えればよいのか。

屋久島でお土産店を経営する荒木政孝さんは、「(屋久島の)地域の重鎮の人に話を聞いた時、『実は自分も移住者だ』と言われて驚いたことがある。見るからに屋久島生まれのような人でも、実は出身でないこともあるから、遠慮しなくてもいいのかなと感じた」と、異なる視点を共有し、別の参加者も「移住とか、そうじゃないとかあまり気にしなくてもいいんじゃないかな?」とニュートラルな思考を提案した。

悩みや課題の共有だけでなく、アイデアを出し合いたい

日々、熱い想いを持ち、地域と向き合う当事者たちには、それぞれ胸に秘める悩みがある。それぞれ地域を考える参加メンバーの間で、悩みや課題が共有されたところで甑島の山下さんが切り込んだ。

「あえて言いたいのは、(トレセンでは)これまで話したことで満足してほしくない。悩みや地域課題を共有することもいいが、みんなが考えているアイデアを出し合い、積み重ねることのほうが、意味がある。これから先は、お前は何をやりたいのか? 何を実現したいのか? という話もしてきたい」(山下さん)

そう、ここに集った面々の目的は、島の魅力を共有することでも、痛みを分かち合うことでもない。共に未来へ進むことなのだ。

その後、参加メンバーはコネクトからあずまやに場所を移動。

22時半よりスタートした二次会では、トレセンのご意見番として参加するインターローカルパートナーズの山本桂司さんと、風間総合サービスの風間教司さんが、地域プロディーサーとしての豊富な経験が共有され、熱い議論は夜更けまで続いた。

#06に続く

特集記事 目次

鹿児島離島文化経済圏(PR)

有人離島を擁する都道県のうち、離島に暮らす人の数が最も多い鹿児島県では、島を支える地域おこし団体が、自立的・安定的に活動を継続できるよう支援すべく、2016年度より離島地域おこし団体事業化推進事業を実施。この流れから新たに生まれたプロジェクト「鹿児島離島文化経済圏(リトラボ)」の動きをレポートする。

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