つくろう、島の未来

2024年10月14日 月曜日

つくろう、島の未来

全国規模で使用されなくなった休眠空間が増えるなか、それらを有効活用する動きも広がっている。リトケイではフリーペーパー版『季刊リトケイ』の2号に渡って島の休眠空間利活用について特集。今号では、主にこの10年間で5,000校以上が廃校となっている学校施設をはじめとする、公共系空間の利活用を紹介する。

この特集は『季刊リトケイ』26号「島の休眠空間利活用」特集(2018年11月13日発行)と連動しています。

福江島南部にある田尾小学校跡地の校舎。寄付金を主な原資に改修された

廃校となった福江島の小学校跡地にカフェレストランとグランピング施設がオープン

人口わずか100人あまりの島の小さな集落で、廃校を舞台に今秋、大きな挑戦が始まった。

長崎県・福江島(五島市)南部にある田尾地区。稲作が盛んなこの集落で今年9月、廃校となった小学校跡地を活用する形でカフェレストランとグランピング施設がオープンした。

少子高齢化、過疎化といった深刻な問題を抱える集落の活性化や交流人口拡大を命題に、跡地を拠点としてプロジェクトを進めるのが一般社団法人「田尾フラット」(有川智子代表理事)だ。

この法人名には、拠点にある旧校舎が平屋で「フラット」であることと、いつでもだれでも「ふらっと」立ち寄ってもらえるような場所に育てたい、という願いが込められている。

「TAOFLAT KITCHEN」。机や椅子も、小学校を想い起こさせるデザインに仕上げられている

小学校校舎や周辺の環境の魅力を生かした取組みができないかと考える地域住民や農事組合法人、民間企業、商工会などが参加する形で2016年、現在の一般社団法人の前身となる任意団体「田尾フラット協議会」が発足。田尾のシンボル的存在で、2001年に休校となった後、何年も放置されていた田尾小学校の跡地を活用していく方針を決めた。

田尾フラットが当初掲げた事業内容は▽島の食材を生かした飲食事業▽地域に人を呼び込むための宿泊事業▽島由来の酵母を使った食品開発▽島の自然や暮らしを体験できるプログラム――など。

飲食部門では、校舎を改修して地元の旬の食材をふんだんに使ったカフェレストラン「TAOFLAT KITCHEN」の営業を9月下旬、開始した。

「TAOFLAT KITCHEN」ディナーコース(5,000円)メニュー。このコースでは、メーン3~5品から、2品を選ぶことができる

宿泊事業では、カフェレストラン開業と同時に、ホテル事業などを展開する藤田観光(東京都)がグラウンド部分と一部校舎を利用し、グランピング施設「Nordisk Village Goto Islands」の営業をスタート。グラウンドには、デンマークのアウトドアブランド「Nordisk」のテントが張られ、内部にはベッドや家具を配置。アウトドア空間ながら、ホテルのような快適さも楽しむことができる。

田尾小学校跡地の夜の風景。大自然のなか、グランピングテントや校舎から柔らかい光が漏れている

当初、宿泊事業も田尾フラットが自前で手掛ける予定だったが、五島が持つ観光地としてのポテンシャルに将来性を見出した藤田観光と方向性が一致したことから、連携が始まった。同施設の宿泊客のターゲットには、(五島市に構成資産の一部がある「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が)世界遺産に登録されたこともあり、海外インバウンドも視野に入れている。海外向けの広報は、ディスティネーション開発を専門とするWondertrunk & Co.(東京都)が担当している。

食品開発に関しては、田尾産米を使用した甘酒の製造が今年の年末より始まる予定。また、地元の五島市商工会により開発された、島の特産であるツバキ由来の酵母である「五島つばき酵母®」と田尾産米を用い、2019年にはどぶろくの製造も開始する方針だ。

校舎の改修などには、田尾フラットの理念に共感した事業所から寄付金があったことから、これを原資に事業を始めることができたという。

今後の展望について、田尾フラットの山田祐樹久総支配人は「田尾の方々と田尾フラット、そして、田尾の方々とお客様との交流を、食や農を通じて活性化していきたい」と話している。(文・竹内章)

<施設情報>
長崎県五島市富江町田尾1233-1。0959-86-3545。TAOFLAT KITCHEN/ランチタイム(11:30~14:00)900円~、カフェタイム(14:00~17:00)飲み物等350円~、ディナータイム(18:00 ~ 21:00 要予約)コース3,000円~/水曜定休。木曜日はディナータイムのみ営業

【関連リンク】
・TAO FLAT/田尾フラット

特集記事 目次

特集|島の休眠空間利活用

人口減少に転じた日本では、各地で空き家や廃校を見かけることもめずらしくなくなりました。

離島地域にも、にぎわいを失った建物に草木が生い茂り、割れた窓や崩れ落ちた屋根など、寂しさを感じる風景が増えてきています。

全国規模で使用されなくなった休眠空間が増えるなか、それらを有効活用する動きも広がっています。

リトケイではフリーペーパー26号・27号に渡って休眠空間の利活用について特集。26号『島の休眠空間利活用」では、この10年間で5,000校以上が廃校となっている学校施設を中心に、公共系空間の利活用事例を紹介します。

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