つくろう、島の未来

2024年11月21日 木曜日

つくろう、島の未来

全国規模で使用されなくなった休眠空間が増えるなか、それらを有効活用する動きも広がっている。リトケイではフリーペーパー版『季刊リトケイ』の2号に渡って島の休眠空間利活用について特集。今号では、主にこの10年間で5,000校以上が廃校となっている学校施設をはじめとする、公共系空間の利活用を紹介する。

この特集は『季刊リトケイ』26号「島の休眠空間利活用」特集(2018年11月13日発行)と連動しています。

保育園跡地に誕生した島づくりの新拠点

2018年4月、沖永良部島(鹿児島県知名町)中央部の高台に「産業クラスター拠点施設」がオープンした。

一般社団法人おきのえらぶ島観光協会が指定管理者となり、観光案内所や物産販売など、主に観光客向けのサービスに加えて、シェアオフィスやコワーキングスペースなど島民も利用できる機能をもつ同施設。

公募により選ばれた耳馴染みのよい「エラブココ」という愛称も手伝って、オープン以降は観光客だけでなく島民が集まるスペースになっている。

経済産業省のウェブサイトによると、産業クラスターとは「新事業が次々と生み出されるような事業環境を整備することにより、競争優位を持つ産業が核となって広域的な産業集積が進む状態」のことを指す。エラブココでは、観光客や島の住民が施設を活用することで、人が交流し事業が生まれて新たな人を呼ぶ。そうした最良のスパイラルが生まれる場所を目指している。

エラブココの前身は旧下平川保育所。児童数の減少などにより2017年3月に閉所した施設を知名町が改修。整備費用約6500万円は地方創生拠点整備交付金を活用した。

改修にあたって重視したのは一般的な事務所然としたデザインにしないこと。各地のコワーキングスペースやシェアオフィスも参考にしながら、観光案内所と物産販売スペース、旅行事務所のカウンターを併設するなど、必要以上に仕切られた密室を作らず人の顔が見られるようにした。

同観光協会事務局長の古村英次郎さんは「トイレなど水回りも含めて、訪れる皆さんが快適に過ごせるように日々の清掃やメンテナンスに力を入れている」という。

オープン後の利用者数はほぼ右肩上がりで推移している。施設の使い方は多彩で、観光客が休憩がてら立ち寄ってWi-Fiを使って情報を入手したり、島内で盛んなケイビング(洞窟探索)ツアーの説明会や発着ポイントにもなっているほか、砂浜で拾った貝殻を使った「美ら玉作り体験」は雨天時にも実施できる体験イベントとして観光客に人気を集める。

一方で地元団体が刺繍教室や読書会を開いたり、地元の音楽グループや民謡教室がテラスで新作アルバムの発売記念ライブや唄あしびを実施するなど、枠にとらわれない使い勝手の良さを感じさせる。

その中で観光客同士の情報交換や、観光客と島の住民の交流も生まれているという。古村さんは「産業を作る目的では機能し始めているのではないか。初年度はニーズに合わせて柔軟に対応しつつ、よりよい形の運営方法を模索していく」としている。

利用者が増えている背景には、今年7月1日の「奄美群島アイランドホッピングルート」の開設があった。JALグループの日本エアコミューター株式会社(鹿児島県)は、奄美大島・徳之島・沖永良部島・沖縄本島を島伝いに結ぶ便を1日1往復運航。大型台風の影響を受けながらも、エラブココの利用者は確実に増えた。古村さんは「施設のオープンとアイランドホッピングルート開設が同年になったのは偶然だが、観光客の受け入れ体制が整備できていて本当によかった」と話す。

今後の展望として、エラブココのガイド機能の強化を検討する。アウトドアブランドと連係しての自転車ガイドツアーや、施設の庭をテントスペースにしてキャンプ体験の実施など、島の自然を感じられるイベントも構想している。

「私たちの大きな目的は島づくりにあります。そのために、観光を切り口として人を結びつけたり産業を起こしたりしていければ」と古村さん。島の内外の利用者から、エラブココの使い勝手について好感触を得ているという。2018年をターニングポイントとして、沖永良部島の観光がより活性化していきそうだ。

<施設概要>
鹿児島県大島郡知名町屋者1029-3、営業時間は10時〜17時。コワーキングスペース利用やイベント開催などの問い合わせは0997-84-3540まで。フェイスブックページでも積極的に情報発信している。

【関連リンク】
一般社団法人おきのえらぶ島観光協会

特集記事 目次

特集|島の休眠空間利活用

人口減少に転じた日本では、各地で空き家や廃校を見かけることもめずらしくなくなりました。

離島地域にも、にぎわいを失った建物に草木が生い茂り、割れた窓や崩れ落ちた屋根など、寂しさを感じる風景が増えてきています。

全国規模で使用されなくなった休眠空間が増えるなか、それらを有効活用する動きも広がっています。

リトケイではフリーペーパー26号・27号に渡って休眠空間の利活用について特集。26号『島の休眠空間利活用」では、この10年間で5,000校以上が廃校となっている学校施設を中心に、公共系空間の利活用事例を紹介します。

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